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少女は、生まれ故郷に咲き戻る~異世界転移!?と思ったら、郷里でした~  作者: 室伊みゆ


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第四話 Bloom

十六歳の誕生日。

大切な人との「いつも」は、当たり前ではないのかもしれません。


一輪の白い花から、少女の運命が静かに動き始めます。



閉め切ったはずのカーテンの隙間から朝日が差し込み、外を走る車の音が窓をわずかに揺らした。


「ん......。」


なかなか開いてくれない目をこすりながら、犬のぬいぐるみに顔を埋める。

昨日とは違う首元の感覚に、意識が急浮上した。


ーーお爺ちゃんからもらったネックレス!!


......そのまま寝ちゃった......傷ついてないかしら......。


カーテンを開け、窓から差し込む朝日に照らしてみると、ネックレスは昨日と変わらず輝いていた。


「やっぱり綺麗。」


......傷がなくてよかった。


身支度を済ませ、莉愛は鏡の前でネックレスをそっと制服の中へしまった。


「うん。ちょうど制服で隠れる。」



軋む階段を降りると、リビングでは老人が静かに本を読んでいた。


「お爺ちゃん、おはよう。」

「おはよう、莉愛。誕生日、おめでとう。」


「ありがとう、お爺ちゃん!」



いつものように挨拶を交わした二人は、莉愛の作った朝食を囲んだ。


「莉愛の作る料理はいつも美味しいのぉ。これを男どもに食わせてはならんぞ!」

「もー、お爺ちゃんたら。そんな予定もないから安心して。」


「そうかそうか!ふぉっふぉっふぉ!」


朝食を終えると、老人は玄関で莉愛を見送った。


「いってらっしゃい、莉愛。」

「うん!今日も学校頑張ってくるね!」


「......さてと。......花に水でもやろうかの。」



朝日を浴びた満開の百合の花が、今か今かと老人を待っているようだった。




昼休みのチャイムが鳴り響く。

この日、莉愛はいつもの理科準備室には行かず、校庭の花壇にいた。


「ーーあぁ!なんてこと!」


理科準備室へ向かう途中、用務員のおじさんに後で花壇を見るように頼まれていたが、どうにも気になってしまい自然に足がここに向かっていた。



花壇へ来てみると、何者かに踏み散らされている形跡があった。

そしてその一角で、莉愛が大事に育てていた百合の花が、茎から折れていた。


花壇の土には、花を避けることなく踏み込まれた足跡が残っていた。


ーーっっ!踏みつけたのね......


傷んだ花を優しく起こすと、辛うじて完全に折れていないことに気付く。

慌ててポケットからハンカチを取り出し、近くに置かれていた園芸用の支柱と併せて固定する。


「元気になるのよ。あなたは強いんだから。」


自分自身を鼓舞するかのように百合の花へ語りかけていると、どこからかボールが転がってきた。


「......長谷川くん。」

「あ?」


「............。」


クラスの中心的な長谷川渚は、入学当初から莉愛にとって一番苦手な存在だった。


「......長谷川くん。花壇は荒らさないで......ほしい。」

「......は?......なに優等生ぶってんだよ。キモいから。まじで。」


「でも!!花も生きてるんだよ!踏みにじられて良い存在なんてどこにもいない!」


この瞬間、莉愛がこの学校に入学して初めて、自分の言葉を発した瞬間だった。


「......は????。きも。」


「......。」


「よっ!渚!......ん?何してんの?こんなとこで。」

「......亮。こいつが調子のっててな。ウザすぎて。」


長谷川の肩に抱きつきながら、クラスの同級生である渡辺亮が、乾いた目線で莉愛を見下ろしてきた。


「渚くんともあろうイケメンはこんな奴ほっときゃええのに~。」

「ふっ。まぁな。時間の無駄だったわ。行こうぜ、亮。」


立ち去る長谷川の後ろ姿を見送ると、渡辺が不思議そうに莉愛を見た。


「それにしてもさ。なんで晴人がお前なんか気にしてんの?」


「え?」


「......君、なんのためにここ来てんの?」


まるで存在してもしなくても同じだと言わんばかりのその言葉に、折れかけていた心がさらに踏みつけられているようだった。





暑さが少し和らぎ始めた夕暮れの陽とは対照的に、どこか息苦しさを感じながら、莉愛は自転車を漕いでいた。


家の前に着くと、慰めるかのように風に乗った微かな花の甘い香りが、莉愛の髪を揺らす。



......大丈夫。

私は折れない。


胸元のネックレスを握りしめながら、莉愛は顔を上げ、玄関の門を押した。



庭では、椅子に腰掛けながら、老人が静かに莉愛の帰りを待っていた。


満開の百合の花壇は、誇らしげに風にその身を委ね、老人の視線の先に、その時を待っている。



「おや、莉愛。帰ったか。......おかえり。」

「ただいま、お爺ちゃん。」


「......なんか、あったか?」

「うん......。学校で育てていた百合がね、折られちゃったの。」


どこか痛々しさを隠した莉愛の肩をそっと抱き寄せた。


「大丈夫じゃよ、莉愛。花は強い。折られても、踏みつけられても、ちゃんと自分で起き上がれるんじゃ。」


「一度芽吹いた花は、何度折られたって手を差し伸べてやれば枯れることはない。たとえ枯れたとしても、その命は次の命へ繋がれる。その者の未来が枯れることはない。」


「見てみなさい、莉愛。この花たちは、台風が来ても、大雨が降っても、ワシがうっかり水をあげ忘れたってこうして見事に咲いたじゃろ。」


庭一面を染め上げている薄桃色の花が風に揺れた。


「......ふふっ。うん。そうだね。お爺ちゃん。」


老人を見上げた莉愛の顔には、花が咲いたような笑顔が戻っていた。




暑さが和らぐ夕暮れ。

庭一面に咲く薄桃色の花々が、風に揺れている。


その中で、一輪の白い百合が静かに風を受けた。


強い風が舞い上がる。


薄桃色の花弁が空へ舞い、

一枚の白い花弁が、まるで導くように莉愛の胸元へと流れてきた。



白い花びらがネックレスに触れた瞬間ーー


莉愛の足元から白い光が溢れだした。


「ーーーーえ!?」


白い光が徐々に莉愛を包み込んでいく。


「ーーーーお爺ちゃん!」


莉愛が手を伸ばした瞬間、白い花びらが強く輝き、全身を包み込んだ。


「大丈夫じゃよ、莉愛。莉愛ならできる。独りじゃない。」


「ワシもすぐに向かうからの。」


二輪の花が消え去った庭は、いつものようにただ静かに、夕暮れ時のそよ風に微かな甘い香りを乗せていた。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

白い花弁が導いたその先で、莉愛を待っているものとはーー。

次回、第五話「森の導き」

また次のお話でも、お会いできたら嬉しいです。

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