↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の令嬢は、知恵で世界を塗り替える  作者: 白石マサル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/120

95話 続いていく

 十二月になった。

 冬が本格的になった。

 ルシェムの霜が、厚くなった。

 朝、窓を開けると、白い息が出た。

 エリナは毎朝、台所の窓を開けた。

 今日の空気を確認した。

 今日も、冬の空気だった。

 それが、当たり前になっていた。

 当たり前になったことが、続いていることだと、今は知っていた。

 レインが学院に帰って、一週間が経っていた。

 手紙が届いた。


 エリナへ


 帰ってきた。

 学院の石畳は、今日も霜が降りていた。朝、歩きながら、今年もエリナと一緒に歩いた、と思った。

 それが、今年の霜の石畳の重みだと思う。来年も、一緒に歩く。その積み重ねが、続くことだと思っている。

 一つだけ、今日感じたことを届けたい。

 図書室に行った。いつもの席に座った。光がいつも通り入ってきた。でも、少し違った。

 なぜ違うかを考えた。

 エリナが、この光を見たから、かもしれない。一緒に見たから、自分一人で見る時も、一緒に見ている感じがする。

 それが、続けることで起きることだと思う。

 手紙を書く。


                                 ――レイン――


 エリナはレインの手紙を読んで、少しだけ目を閉じた。

 一緒に見たから、自分一人で見る時も、一緒に見ている感じがする。

 それが、続けることで起きること。

 開けた。


 レインへ


「一緒に見たから、一人で見る時も一緒に見ている感じがする」という言葉を受け取りました。

 私も、同じです。今朝、ルシェムの霜を見た時、学院の石畳を思い出しました。一緒に歩いたから、一人で見る霜の中に、あなたがいます。

 それが、続けることで起きることですね。

 来年の冬も、一緒に歩きます。約束しました。それが、今から楽しみです。

 農地の年末報告を、来週ベルトとルナがまとめます。来年の計画が、少し見えてきそうです。


                                 ――エリナ――


 その週、ダリウスから手紙が来た。


 エリナ・アッシュフォード殿へ


 名誉回復について、最終的な決定が年明けになる見込みだ。委員会の審議が、最終段階に入っている。

 もう少しだ。

 それと、地方の学校三カ所への衛生教育の展開が、来年四月から正式に始まることが決まった。フィオナ殿が現場の確認に行く予定と聞いている。

 二つ目の提案も、形になってきた。

 三つ目の提案は、決定が出てから、また話す。


                           ――ダリウス・クロヴェル――


 エリナはゴードンを呼んだ。


「年明けに、名誉回復の決定が出る見込みです。記録の準備をしておいてください」

「わかりました。どういう形で決定が出るか、事前に確認しておきます」

「よろしくお願いします」

「一点だけ」

「何ですか?」

「これが決まった時、どういう形でセレーナさんに伝えますか?」


 エリナは少しだけ考えた。


「正式な書類が届いた時に、一緒に読む。それが、一番いい形だと思います」

「そうですね。一緒に読む。それが、届けることになる」


 フィオナに伝えた。


「地方の学校への展開が、来年四月から正式に始まることが決まりました」

「そう。「四月から、動く」

「準備はできていますか?」

「できている。三カ所の場所は、もう確認してある。どういう規模の学校か、何が必要かも、ある程度わかっている」

「さすがですね」

「王都で動いてきた七年間の積み重ねだ。情報を集めることが、自分の仕事だと思ってきた。それが、こういう時に使える」

「フィオナがルシェムに拠点を作ってくれたことが、こういう時に活きていますね。帰ってくる場所があるから、遠くに行ける」

「そうだな。あなたから聞いた言葉が、今の自分を動かしている」

「私から聞いた、というより、フィオナが自分で見つけた言葉だと思います」

「そういうことを言うんだよな、あなたは。でも、今日は受け取っておく」


 マリオに、全体の状況を話した。


「年明けに名誉回復が決まりそうで、地方の学校への展開も始まる。農地の薬草も来年から本格的になる」

「全部が動いているな」

「そうですね」

「七年前、豆のペーストを食べた時には、想像もしていなかった」

「毎年、同じことを言いますね」

「毎年、本当のことだから言う。で、お前は?」

「私は、ですか」

「全部が動いている中で、お前自身は、どうだ」


 エリナは少しだけ考えた。


「動いていると思います。全部と一緒に」

「全部と一緒に、か。それがお前らしい答えだな」

「そうですか」

「自分だけが動いているとは言わない。全部と一緒に、と言う。それが、お前のやり方だ。最初からそうだった」

「そうでしたか」

「そうだよ。最初に豆のペーストを食べた時、お前は一人じゃなくて、みんなと一緒にやろうとしていた。あの頃から変わっていない」


 ルナとベルトが、年末の農地報告書をまとめた。

 エリナがゴードンと一緒に読んだ。


「一年目の結果です」


 エリナが報告書を読んだ。

 三種類のうち、二種類は順調に育っていた。腐葉土を混ぜた効果が出て、一種類の育ちも改善していた。


「来年から、試験栽培の規模を少し広げられそうです」

「そうですね。供給が安定すれば、今まで量が足りなかった薬草も、届けられるようになります」

「ベルトとルナの一年間の積み重ねが、この数字になりました」

「そうです。数字の奥に、二人の仕事がある」


 ルナに報告書の結果を伝えた。


「一年目、よくやってくれました」

「思っていたより良かった」

「そうですか」

「最初は、農地で育つかどうか、自信がなかった。でも、ベルトが山の知識を持ってきてくれた。それで、うまくいった」

「ベルトさんがいてくれたから、ですね」

「そう。一人でやっていたら、腐葉土の話に気づかなかった。一緒にやったから、わかった」

「一緒にやること、ですね」

「一人でできることと、一緒でできることが、違う。どちらが大事かではなく、両方が必要だ」


 ベルトが横で聞いていた。


「来年は、もう少し広げられる」

「どのくらい広げますか」

「慎重に、急がない」

「ルナの言葉ですね」

「ルナから学んだ」


 ルナが少しだけ、口の端を動かした。

 年末の夜、全員で夕食を食べた。


 セレーナ、マリオ、ルナ、ゴードン、フィオナ、ベルト、エリナ。


 レインは学院にいた。

 でも、いつも手紙の中にいた。

 マリオが言った。


「今年も、一年が終わる」

「そうですね」

「今年は、どんな年だったか、一人ずつ言ってみるか」

「面白いですね。マリオから」

「俺から?」


 マリオが少し考えた。


「今年は、レインとエリナが、大事なことを言えた年だった」


「なぜそれを知っているんですか?」

「わかる。顔を見ていれば」

「ゴードンさんは」


 エリナが言った。


「今年は、数字が積み上がった年でした。供給が二十三の町に広がり、農地の記録が始まり、名誉回復の審議の記録が積み上がった」

「ルナは」

「良い薬草が育った年。新しい薬草が四十二件以上の事例で効果を示した。農地の試みが、一年目でここまで来た」

「ベルトさんは」

「慣れた年」

「慣れた、ですか」


 マリオが笑った。


「この場所に、慣れた。それが、今年一番大事なことだった」

「フィオナは」

「来年の準備をした年。地方の学校への展開が始まる。ダリウスとの連携が形になってきた。帰ってくる場所がある、ということが、どういうことかが、今年完全にわかった」

「お母さんは」

「エリナが十六歳になった年。それだけでいい。それが、今年一番大事なことだった」


 エリナは少しだけ、セレーナを見た。


「お母さんらしいですね」

「そうよ。あなたは?」

「私は」


 エリナが少し考えた。


「続けてきたことが、形になってきた年でした」

「それだけ?」


 マリオが言った。


「それが、全部です。続けてきたことが、形になった。農地が動いた。名誉回復が動いた。言えなかった言葉が言えた。全部が、続けてきたことの形になった年でした」


 食事が終わった後、フィオナとエリナが台所に残った。


「今年を振り返って、一つだけ言っていいか」

「どうぞ」

「七年前、最初にルシェムに来た時、エリナがこう言った『フィオナは、いつか帰ってくる場所ができると思います』と」

「言いましたか」

「言った。その言葉が、今年完全に本当になった」

「気づいたらそうなっていた、という形で」

「そう。気づいたらそうなっていた。でも、なるためには、来続けなければならなかった。来続けたから、なった」

「続けることで、なった」

「そう。あなたがここにいたから、来ることができた。来続けたから、ここが帰ってくる場所になった。その繋がりが、今年はっきりした気がする」


 その夜、エリナは机に向かった。

 レインへの手紙を書いた。


 レインへ


 今年の最後の手紙を書きます。

 今年は、続けてきたことが形になった年でした。農地が動いた。名誉回復が動いた。言えなかった言葉が言えた。フィオナが、帰ってくる場所が完全にわかった年だったと言っていました。

 今夜、みんなで今年を振り返りました。全員が、違う言葉で、でも同じ方向のことを言っていました。

 あなたも、その言葉の中にいます。ここにはいなかったけれど、続けてきた一人だから。

 来年も、手紙を書きます。来年の冬に、また霜の石畳を歩きます。約束しました。

 それが、来年を楽しみにしている理由の一つです。

 今年も、ありがとうございました。

 続けることが繋がることかもしれない、という言葉を、最初に考えてから、何年も経ちました。でも、今もそうだと思っています。

 来年も、続けます。


                                 ――エリナ――


 書いて、封をした。


 「来年も、続けます」という最後の一行を、書いてから少しだけ見た。

 毎年、同じことを言っている気がした。

 でも、毎年本当のことだった。

 だから、また言った。

 机の引き出しを開けた。

 レインからの手紙が、全部入っていた。

 九歳から十六歳まで、七年分の手紙。

 一枚も、捨てていなかった。

 今年届いた手紙が、今年分として積み上がっていた。

 来年も、また積み上がっていく。

 引き出しを閉めた。


 ランプを吹き消した。

 冬の夜が、窓の外にあった。

 霜が、また降りているかもしれなかった。

 明日の朝、窓を開けて確認する。

 それが、変わらない習慣だった。

 来年も、窓を開ける。

 来年も、手紙を書く。

 来年も、霜の石畳を歩く。

 全部が、続いていく。


 エリナ・アッシュフォード、十六歳。


 今年も、続けた。

 来年も、続ける。

 それが今夜、一番確かなことだった。

 そして、それだけで十分だった。

読んでいただきありがとうございます。

評価や感想を貰えると執筆のモチベーションがアップするので

どんどん評価や感想をください!

ブクマもお願いします!

お待ちしております(*^-^*)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。