9け、不覚にも【防刃服】を穿かれた僕の命が燃えた
僕が自分から言い出した事。
ゴブリンの親玉を仕留める。
(我ながら無茶苦茶言った)
王女を守ら無きゃならない。
ゴブリンの狙いが王女かも知れない。
つまり……王女の守りは減らせない。
現実問題として、僕が一人でゴブリンの群れに、つっこむ流れになっている。
「怖いけどね」
「我が国にかつていた【英雄】は『恐怖とスリルは同じものだ。
それを理解出来れば誰でも英雄だ』
と言ったと伝わっています」
王女が、おかしな事を言う。
「恐怖とスリルが同じ、か?」
そこ迄、達観出来たら怖いもの無いわな。
「この剣を使ってください。
私の守り刀です」
王女が細身の白い鞘の剣を手渡してくる。
「ゴメンナ。僕は刃物が嫌いで怖いんだ」
「『恐怖とスリルは同じ物』ですよ」
「あ……?」
(慣れろ。と言うのか?
刃物への恐怖心をスリルに置き換え楽しめとでも言うのだろうか?
このお子様は?)
「それに、この剣の鞘自体も、素材も一流のモノで作られています。
剣を鞘から抜かずに使用しても、棍棒や木刀よりは十分役に立つでしょう」
剣の鞘を見る。
確かにゴブリンから武器を奪ったり、その辺の木よりはましに見えた。
金属で補強された白い鞘、頑丈そうだ。
「わかった。ありがたく貰ってく」
「あげるのではなく貸すのです」
「ケチ臭いな。剣くらいくれよ」
(気が利かないな)
「ちゃんと返しに戻って来てくださいね」
「あ……」
(そういう事か)
気が利かないのは僕のほうだったか。
僕はありがたく剣を受け取った。
刃が怖いので、鞘からは抜かないが、形状からして両刃のつるぎ。
鞘や飾りは白と金を基調とした、とてもキレイな剣。
(使うのが勿体無い)
思わず思ってしまう一品だ。
「婚約の結納品のかわりです」
婚約も結納も、正確にはよく知らない。
僕にはそれが何かもわからない
結納品って?
男から女へ贈られる物じゃないのか?
この世界では違うのかな?
だが……
なんとなく、ぼんやりとだけなら意味はわかる。
それが僕の心に完全に火をつけた。
【童貞を殺す服】と言うものがあると聞く。童貞の心を奪う服。
それと同じ効果。
この剣は言わば【童貞の僕を殺す剣】だ。
この剣は全身を【防刃服】で包んだ僕の心を容易く穿いた。
僕は負けられなくなった。
この王女。
流石は王家の一員と言うか。
コレが王家のカリスマと言う奴だろうか?
この人の為ならば
この人のためならば
僕の婚約者のためならば
何か熱にうなされたかの様な迷走感覚
たぶん僕は王女に何かをされた。
この世界の魔術、薬、洗脳的な何か?
そんなものを受けた様な感覚
それが全身を駆け巡る。
僕は負けられなくなった。
男として
彼氏として 童貞としても負けられない
( おかしい。)
( 僕はこんな事を考える人間では無い )
なのに……
あらゆる意味で僕は負ける訳にはいかない
正当な理由を手に入れた事に……
酷く満足した自分もいた。
僕はロリコンになったかの様な……
僕は騙されているのかもしれない。
死を覚悟した王女にからかわれているのかもしれない。
相手は子供。
しかも第五王女。
たぶん身分違いにも程がある。
婚約者など
きっとこの場での嘘っぱちだ。
僕は勇者じゃない。
僕はただの……王女が逃げ切る時間稼ぎ
使い捨ての鉄砲玉。
それでも……
僕は妙に幸せだった。
嬉しかったんだ。
心がはずんだ。
大好きだった血を分けた兄弟を刃物のせいで失って以来、僕の心は死んでいた。
兄に刺されてから……
僕の心は屍のように冷たくなった。
刃物が怖くて……
いつも刃物の事ばかり考えて
恐怖でいっぱい。
まともな生活など送れなかったが……
それが……
不覚にも……
この娘のおかげで僕の心が燃えた。
不覚にも……ただの屍のように
冷たくなった僕の命が
王女のおかげで燃えた。
命に再び火が灯る。
嘘の様に恐怖が……消えた。
恐怖で満たされていた胸。
それが、今は別の何かで一杯だ。
出会ったばかりの子供相手に愛だの恋だのは無いかもしれ無いが……
感謝はしている。
多謝。多謝。
僕は少なくともこの瞬間。
兄にうばわれた人間性とか心とか
人として大切な物を……
僕は一時的にでも取り戻したのだと思う。
そうさせてくれた恩人。
自称、僕の婚約者が……
数千のゴブリンに囲まれて怯えている?
死ぬ覚悟をしている?
そんな事が……許せるものだろうか?
少し前までの心の冷たい自分なら見過ごしたかもしれない。
だが……今の僕の命は燃えている。
そんな事は許してはおけない。
何物も許してはおけない。
ゴブリンなど鏖にしてやりたい。
数が多すぎて皆殺しに出来ないのならば
連中を率いる頭を叩いてやる。
そうすれば、いくら数が多かろうが、
ゴブリン達も混乱して、
僕らの生存の道も開けるだろう。
最悪の場合……
次元の壁を切り裂いてゴブリン共を……
1匹残らず異界送りにしてやる。
僕なら出来る。
かもしれない。
僕の故郷日本に、ゴブリン達を送りこむ事になるかも知れないが……
日本がパニックになるかも知れないが……
日本に恋人も友人もいない僕。
別にどうでも良いや。
日本がどうなってもかまわない。
僕は日本では【無敵の人】で良い……
ゴブリンの親玉のいる場所。
だいたいわかる。
幸いにも一度みつけたゴブリン集団。
多分あそこだ。
それにしても……
ふとRPGゲームが頭に浮かぶ
ゲーム開始序盤に王様が言うんだ
「よく来た勇者。魔王を倒してこの国を救ってくれ。おまえに頼るしか無いんだ」
王様は、そう言って棍棒が買えるくらいの小銭をくれる。
言いかえるなら、小銭しか渡さないのに『魔王を倒せ』と無茶を言う。
ブラック企業も真っ青な低待遇。
勇者は馬鹿なの?
なぜそんな使命を受けるの?
と、思っていたけども。
普通は受けない無茶な案件、
ソレを平気で受けるから勇者なのだ。
僕は、まさにゲームの主人公の状況だ。
王族とはそういうものなのだろうか?
……第五王女にハメられたのだろうか?
負ければ死にかねない死地に突っ込む気満々の僕。
王女に上手く利用されている気もするが
「まぁいいさ。なにせ人生始めて出来た婚約者の頼みだ。利用されてやるのも一興だ」
比較的どうでも良い事だったから、
頭の隅に追いやって忘れていたが……
高校生の僕に、人生初の恋人が出来た事になるのか?
相手は王女。
と言うか……小学生くらいの子供。
久しく友達すらいない。
そんな……
僕に婚約者や恋人が出来たのか?
それとも僕がロリコンになったのか?
自分でも良くわからなかった。
いいんかコレ?
ちっこい王女とタダの高校生が婚約。
日本だと社会的に死刑になるぞ
日本人的な倫理感が胸を苛む
ゴブリンに負ければ死にかねない。
勝てばロリコンになりかねない。
ゴブリンルートorロリコンルート
なぜだ?
どこで選択肢を間違えた?
僕は、その全てをくだらぬ事と割り切った
だって僕は王女いわく『勇者』なのだから
勇気を持って僕がやる気になった以上、
僕以外の誰にもきっと僕を止められない。
それが勇者だろ?




