7き、ゆうしゃ
僕に勝手に婚約者が出来た。
第五王女が言うには……
僕がゴブリンの親玉を倒せたら、
僕らは結婚するらしい。
だから僕がゴブリンの親玉を倒すまでは、僕と王女は婚約者の関係になるそうだ。
(無茶苦茶だ。理不尽すぎる。
理屈も何もない)
強引に僕はゴブリン親玉への鉄砲玉にされつつある。
コレが、この世界の王族の力か?
(とんでもないな。理不尽にも程がある)
それにしても……
この子は今何歳なのだろう?
こんな小ささで、既に死を覚悟している。
僕が初めて刃物を持った兄に襲われた時。 死を覚悟したのも確かこんな歳だったか?
結果、僕は刺されて死の縁をさまよった。
兄は行方不明。
今思うと、あの時僕の【次元を切り裂く】力が目覚め、兄を異界へ送り込んだのかもしれない。
あの日から僕は精神を病み、兄を失い。
壊れた。
僕は人間のフリをして生きている。
兄から刺された刃物傷は治った
が……
もう元の僕では無かった。
僕の心の傷は治る事が無いと諦めていた
目の前にいる少女。
すでに生きる事を諦めている。
なのに必死に最後まで生きようとしている
まだ心に回復不能の傷を負っていない。
おそらく……
コレから回復不能の傷をおう運命の少女。
まるで……
昔の僕のよう。
少し違うのは、僕は何も知らなかった。
コレカラ不幸になる事を知らずに僕は洗礼を受け止めた。
そして壊れた。
この子は全てを知って覚悟している。
どっちが幸せなのだろうか?
死刑囚が死刑になる時、
外国では死刑日を知らされる。
日本では死刑日が知らされない。
ある日突然死刑になる。
どっちが残酷だろうか?
何も知らないほうが残酷だろうか?
知ってるほうが残酷だろうか?
分からないが……
僕の目の前には傷を負う前の僕
その境遇に似た、僕の自称婚約者がいる。
僕がこの子を救う?
なぜ?
なぜ僕がそんな事をしなければならない?
僕は自分に問いかける。
婚約者だから?
自称だ。
デタラメだ。
僕の決めたことでは無い。
子供だから無制限に助けろと?
僕が兄に襲われた時。
誰も僕を助けては呉れなかった。
だから……
その僕が子供を助ける義理は無い。
でも……
この子を救う事は過去の自分を救う事にならないか?
かつて僕を助けてくれる人はいなかった。
誰かに助けて欲しかった。
僕には誰も助けはこなかった。
けど……
でももし
僕が、この子を助ける事が出来れば……
僕は……
かつて誰も助けてくれなかった僕自身を助ける様な気分になれはしないだろうか?
僕は、そんな自分を誇る事が出来ないか?
でも……
この子を助けると言う事はゴブリンの群れと戦うと言う事。
一匹やニ匹ならともかく、
相手は数百数千の刃物を持ったゴブリン。
その中心にいるだろうゴブリンの親玉。
想像するだけで……
足が震える。
(情けない)
が……震えてるのは僕だけじゃ無かった。
僕は間抜けだ。
今まで間抜けにも気が付かなかった
が
王女の足も震えていた。
(無理もない。この子は僕よりも小さく女の子で、たぶん修羅場に、まだ出会ってない)
ははは。
なんとも笑える話だ。
今は僕のほうが奮えが小さい。
それは過去の忌まわしい記憶のおかげだ。
僕は最悪に少しなれてる。
僕の最悪の記憶が今の僕を支えてる。
(もしかしたら僕は、
この状況をなんとかする為に、
過去に刃物で刺されたのかもしれない?)
笑える。
そんな考えまで浮かんでくる始末。
僕は覚悟を決めた。
「ちょっとゴブリン達を蹴散らしてくるわ」
「な……無茶です」
と僕に無茶苦茶をさせようとした王女本人
(僕を止めようとしている所を見ると、
全て冗談だったのか?
それとも無意識の助けてコールか?)
どっちにせよ。
もう……僕には火が灯ってしまった。
一度死にかけ修羅馬をくぐった人間には共通点がある。
【心に火が灯ると止まらない。】
心のブレーキが常人と違って壊れてる。
だから……
「大丈夫。
僕は一度修羅場を越えてるし。
君よりも年をとってるし。
君より大きいし。
男の子だし。
異界人だし。
何より君の婚約者だよ。
僕も男の子だからねぇ〜。
可愛らしい女の子に頼まれたら。
やらなきゃいけない時はやるしかないさ」
僕は精一杯の虚勢をはってみせる。
王女に強がりを言ってのけた。
「あぁ……勇者様」
どうやら十歳の馬鹿な少女は僕の言葉に簡単に騙された。
たぶん僕も、この子供に騙されてる。
帝王学と言う奴か洗脳か話術か?
何かは知らないが
僕はこの子供にのせらてる。
騙されてる。
でも……それで良い。
この子供になら、騙されてあげていい。
だってさ。将来有望、今にも死にそう、魅力的、異性、子供。
ここで見捨てたら男が廃る。
僕も……男の子だった。
男なら勇気を見せろ
言うんだ。
男なら人生一度は言ってみたい
あのセリフを……
【ここは、俺にまかせて先に行け】
と……
こうして僕は、あれよあれよと言う間に、この国の第五王女の婚約者になると共に……
僕は【ゆうしゃ】になった。
あとはゴブリンの親玉をしとめるだけだ。
王女が僕を勇者を見る目で見ていた。
騎士団は僕をロリコンを見る目で見ていた
視線が痛い。
僕の【防刃服】の防御力は何処へ行った?
【ここは俺にまかせて先に行け】
男の子が一度は言ってみたいセリフを言うのには、めちゃくちゃな勇気が必要で、
めちゃくちゃ恥ずかしかった。
こんな恥ずかしいセリフを真面目な顔で言った奴は【勇者】以外の何者でもないだろう。
僕は言った。
だから僕は勇者だ。
間違い無いね。




