表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊国物語  作者: 夢野かなめ
第三部 水底の王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/144

30話 穴蔵

 穴蔵への道中、様々な〈海底人〉がマリーエル達を興味深そうに目で追い、時には近くを泳ぎついて来た。


 ウィパッ達のように人間のような見た目を持つ者や、魚のようなもの、他にも様々な見た目の〈海底人〉がこの寝床──城で暮らしているようだった。


 その中でも、やはりウィパッとナヴァは特別で、鱗の輝きも他の海底人とは異なっていた。海藻のような薄い鱗をした海底人が、ちらとマリーエル達を気にしながら、尾ひれを優雅に動かして海中を泳ぎ行く。


「本当に色々な見た目の海底人が居るんだね」


 思わずマリーエルが言うと、ナヴァは小首を傾げた。


「海上には君達みたいなのしかいないのかい? なんか、こう……あれだ。もさもさしているものとかいるだろう。アレが何だか判らないけれど」


『少しいいでしょうか』


 アントニオの声に、ナヴァは嬉しそうに目を落とす。


「何だい、鏡人」


『……私の名前はアントニオ・リンステラ。ウィパッからも聞きましたが貴方達はあの裂け目から知識を得て、今のように意志の疎通が図れるようになったのですよね』


「そうだね」


『それまでは、どうやって生きていたのですか』


 その問いに、ナヴァはじっと考え込みながら穴蔵に入り、マリーエル達を海藻の繁茂(はんも)する上にそっと置いた。


「それまでは、弾く音で要求を伝え、肌を擦り合わせて想いを伝えてきた。そうして互いの身を守り、子を作り群れを成して生きていた……。だが、ある時から様々な光景が視え始め、僕達は理解したんだ。──あぁ、寝心地はどうだい。最高に柔らかく滑らかだろ」


 そこでマリーエルは、この海藻が寝床なのだと理解した。密集して生えるそれらは、腰を掛けてみれば悪くはない。実際に寝床に出来るかと言われると悩むところだが。


「有難う。座り心地がいいね」


 マリーエルの言葉に、ナヴァは嬉しそうに笑うと、パッと後ろを振り向いた。


「そうだ、ウィパッ。またルワァが此処に来たんだ」


「何だって?」


 ウィパッは苛立ちを隠さず、弾く音で話し始めた。


 此処に居ろ、という言葉を残し、ウィパッはナヴァを伴って出て行った。


 海底の音があちこちで鳴る中、マリーエル達は良い寝床に取り残された。


 マリーエルは、ものは試しと海藻に倒れ込んだ。柔らかい弾力が体を包む。


「わぁ、本当に気持ち良い。何となく体が浮いてる感じがするのに、海藻が肌に吸い付く感じもあって」


 マリーエルの言葉に、釣られたカナメが同じようにして感嘆の声を上げた。その様子を見やったカルヴァスが、思わずといった風に小さく笑うと、マリーエルの胸元から鏡を取り上げた。


「で、さっきアイツ等は何て言ってたんだ。ルワァって? 悠長に構えていられる様子じゃなかったけど」


 カルヴァスの問いに、アントニオは難しい顔をした。


『どうやら、〈劣ったモノ〉の長のようなもののようですね。元々他の海域で暮らしていたようですが、恐らく裂け目のせいでしょうね、この所は縄張り争いをしているのだとか』


「だったら、早い所裂け目のことを解決して、陸に戻った方が良いな。オレ達じゃ勝ち目はない」


 その言葉に体を起こそうとしたマリーエルを手で制し、カルヴァスは優しい手つきで頭を撫でた。


「お前はまず休むこと。あと、少しオレにも考える時をくれ」


 そう言ってから、カルヴァスは遠くを見るようにして考え込み始めた。


 マリーエルは、その横顔を眺めてから、ごろりと転がり上を向いた。海藻の光に照らされ、ぼんやりと明るい天井を見上げながら、取り留めもなく考える。


 実際に海底へと訪れ、海に生きるモノの種類について、少しだけ理解出来た。


 ウィパッ達〈海底人〉は、上半身の輪郭だけ見れば陸の人間のよう。下半身は魚のようで、全身鱗に覆われている。


 〈稚魚〉と呼ばれるモノは、マリーエルがよく目にする魚のような見た目だった。


 この〝城〟には、至って普通の魚も沢山泳いでおり、海底人はそれらを獲って食べてるようだった。


 ──陸で生きる私達も魚をよく食べる、って言わない方が良いのかな……やっぱり。


 寝床の外を、稚魚達が魚を追いかけていくのが見える。


 少しだけそれを見やったマリーエルは、再び考え込んだ。


 〈劣ったモノ〉は、稚魚がそのまま大きくなり、しかしひと目で歪に感じるような腕などが生え出していた。


 ──エランの浜に揚がったのは〈劣ったモノ〉。海を行く間にも何度か遭った。ウィパッはそれと戦っている。


 改めて考えてみたが、それが何を意味するのか、マリーエルには判じかねた。


 答えを求めるように、再びカルヴァスの横顔を見つめた。


 ──カルヴァスは、きっとこの先のことを深く考えてるんだよね……。


 考える内、ふとまどろみそうになった意識に、ハッとして目に力を入れた。水の精霊がマリーエルの眼前を流れると、笑みを浮かべた。


「姫よ、寝てはならぬぞ。此処には我の力を扱える者は姫をおいて他にない。勿論、我も姫に何かあれば陸まで運ぶなりなんなりするが、無理に姫の気を使えば、その器が壊れるやもしない。望まぬ形で力を揮いたくはないからなぁ」


「う、うん……。海底って程良く暗いから眠くなってきちゃって」


 マリーエルは体を起こすと、改めて辺りを見回した。ふと、穴蔵の入り口から稚魚達が覗いているのに気が付き、手で招いた。


 一度は遠くへと泳ぎ去った稚魚達は、窺うようにしながら再び泳ぎ寄ってくると、マリーエルの周りを物珍しそうに泳ぎ回った。


「わぁ、なんか懐いてくれてる……のかな?」


 マリーエルが手を伸ばすと、それをツンツンと楽しそうに突いたり、手を絡めたりする。


 暫し、そうして交流したマリーエルは、ふと思いついて弾く音を発した。稚魚達は、ピタリと動きを止め、訝しげに首を傾げている。


「通じなかったみたい」


 そう言ってカナメを振り返ると、ちらと稚魚達を眺めてから弾く音を出した。その音には、稚魚達は嬉しそうに弾く音を返している。


 マリーエルは何処か置いて行かれた気分になりながらも、カナメを見やった。


「ねぇ、なんて言ったの?」


「敵意はないということ。マリーは姫であるから失礼のないようにということ。マリーも君達と仲良くしたいのだということ。こんなところだ」


「え、そんなに⁉」


 マリーエルが大きな声を出すと、稚魚達がカナメの後ろへと隠れ、そっとマリーエルの様子を窺うように覗く。カナメが小さく笑ってから稚魚達に触れ、弾く音を出す。


「今はなんて言ったの? ちょっと待って……確か、『大丈夫』って言った?」


「ああ。君もちゃんと理解しているじゃないか」


 マリーエルがカナメを真似て弾く音を出すと、稚魚達はカナメの後ろからゆっくりと泳ぎ出て、弾く音を出し始めた。


「ま、待って……こんなに一度じゃ判んないよ!」


 助けを求めるようにカナメを見ると、カナメは真剣な顔で音を聞いていた。


「主に、『遊んでくれ』という要求が多いな。あとは『喋りたい』……これは、君とということでもあるし、君と同じ言葉を、つまりウィパッとも俺達と同じ言葉で話したい、ということだろうな」


「そういうことならカナメに教えて貰った方がいいんじゃ……」


 再び稚魚達の言葉に耳を傾けたカナメは、納得したように頷いた。


「君と仲良くしたいという気持ちもあるんだ。それと──綺麗。あぁ、その髪が光る海藻みたいで綺麗だと言っているんだな。俺も全てが判る訳ではないが、概ねそのようなことを言っている」


「海藻……」


 繰り返したマリーエルは、小さく笑い稚魚達に手を伸ばした。躊躇いがちに触れる稚魚達に「大丈夫」と伝える。そうすると、稚魚達はより近くに寄って来て、マリーエルの髪を突き始めた。


「うし、これで行くか」


 その時、おもむろにカルヴァスが言って、カナメを振り返った。


「今回はお前が鍵だ」


「俺が?」


 カルヴァスはひとつ頷くと、話し始めた。


「まず、裂け目を閉じるには、近くまで寄る必要がある。その為には、湧き出る澱みが妨げになる訳で、それをどうするか。さっき裂け目で澱みと戦った時、やっぱりと言うか何と言うか、カナメの方に吸い寄せられるように湧いていた。だから、澱みの殆どをカナメ、お前に任せる。いいな?」


「判った」


 カナメは、少し考えてから答えた。


「でも、それじゃあカナメの負担ばっかり増えちゃうんじゃないの。それに、裂け目は澱みを湧かせるだけじゃなくて、呑み込もうとしてるんだよね」


 マリーエルの言葉に、難しい顔をしたカルヴァスは、穴蔵の入り口を見やってから稚魚達に向けて弾く音を出した。一度諦めて鏡を覗き、眉を寄せてからカナメに目を向ける。


「こいつらに丈夫な縄……みたいなもんをくれって伝えてくれ」


 そう言いながら、鏡をマリーエルの首元へと返した。そこにアントニオの姿はなかった。身に着けてはいるのだろうが、話せる状況にないらしい。


 カナメが悩みながらなんとか稚魚達に要求を伝え、すぐに稚魚達は穴蔵の外へと泳ぎ去った。


「縄……つまり、俺達の体を何処かに結び付けるということか?」


「あぁ、そうするしかねぇだろうな。ウィパッ達に協力を願いたいところだが、ルワァなんて厄介なモノが居るんじゃな。俺達三人でも成せる作戦にしないと」


 そう言ったカルヴァスに、水の精霊がもの言いたげな視線を向けた。カルヴァスは困ったように笑い、マリーエルを手で示した。


「貴方にはオレ達全員がこうして水の中で行動することに対する手助けと、マリーが裂け目を閉じる際にその力を貸して頂きたい。それに、オレの中の火の力も弱まっている感覚がある」


 水の精霊は「ふぅん」と声を上げてから、薄く笑みを浮かべた。


「火の奴は随分と苦労しているようだからな。余程、お前のことを重んじているのか。言われずとも、我は姫の為に、そして姫は我等とこの世界の為に力を導く。そうだろう?」


 体の周りを流れていた水の精霊の言葉に、マリーエルは頷いた。


「勿論」


 カルヴァスはそれにひとつ頷き、改めて皆の顔を見回した。


「ま、オレ達の目的は変わらない。裂け目を閉じて陸へ戻ること。で、カナメは澱みを。マリーはオレが支えて裂け目まで近付いて、あれを閉じる。水の精霊は、基本的にはマリーの側へ。不測の事態が起きれば対処して貰いたいが、マリーの力を使うことになるから、それは本当に最終手段……か。今の所こんな感じだな。至極単純な作戦ともいえないものだけど……此処で決められなかったら、何が起きても一度陸に戻る。──ウィパッがどう反応するか判らないが……今の状況なら、少しは話が通じるかもしれない。ウィパッが戻るのを待って──」


 その時、突然辺りに大きな音が響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ