第44話 ◆小森裕子 惚れて、嫌って、巻き込まれる(前編)
『さて……どういう事か、説明してもらおうか』
腕を組んでこちらを睨んだまま、平居が低い声で言う。
……こんなに早く出社しなくてもいいのに。よっぽど怒ってるんだな。
午後出勤だったはずの平居に、なぜか朝イチから事務所に呼び出された。
しかも私の予想を遥かに超えて、平居の眉間の縦シワは深かった。本気で頭にきているということだ。
そんな彼の前に並ばされているのは、私、太田、そしてとばっちり感が否めない田辺の三人だ。誰も口を開こうとしなかったのは当然だ。誤魔化そうにも、すべて昨日の出来事が露見しているのだから……。
……ああ、なんでこんな事に巻き込まれたんだろう。
◆―◆―◆
『小森さぁぁぁーん! ここッス! ここッスよ!!』
店の前で、太田が手を振って私を呼ぶ。
部屋の掃除を済ませ、日頃できないキッチンやトイレ、浴室を磨き終わって一息つき、録画したドラマを再生しつつ、今晩何を作ろうか……と考えもって、洗って干して取り込んだ衣類の山を、のんびりたたんでいる最中に、突然そのメールを受け取った。
藤井の歓迎会緊急開催のお知らせに驚嘆し、慌てふためきながらも指定された場所へ向かったのだが、いつもと店が違うせいで、すっかり道に迷ってしまった。不覚にも遅刻である。
取りあえず、太田の顔を見つけて安心したが、迷った事で倍増した怒りをすぐさま太田にぶつけた。
「ちょっと!! 一体どういう事なの? どうして連絡がこんなに急なの?!」
私にだってプライベートがある。
今日はたまたま家事に休みを費やしていたが、いつも予定がないと思われるのは心外だ。こういう事はせめて、前日に知らせるべきだろう。 ……当日は無い。 絶対に無い!
『いや、俺に言われても……困るッス』
「はあ? 幹事のアンタに言わなくて、一体誰に言うのよ!」
『いや、そうなんスけど……』
いつもの要領を得ない言い訳に、ますます頭に血が上る。
「アンタねぇ!!」
『あ、いたいた!』
叱りつけようとした瞬間、後ろから聞き覚えのある声がしたので振り返る。
そこには、なぜここにいるのか? と思う、そんな存在の男が立っていた。
『アレ? ……田辺主任、どうしたんッスか?』
『え? ……どうしたって、呼ばれたから来たんだけど……ここ、藤井さんの歓迎会場……だよね?』
その質問に、太田が当惑ぎみな顔で首をひねる。
『……マジッスか? なんで3階の主任まで呼ぶんだろう?』
……いやいや、私がアンタに聞きたい。何で田辺を呼ぶ? というか……
「……太田が呼んだんじゃないの?」
『ち、違うッスよ……。俺は、小森さんしか呼んでませんもん』
……私だけって、それも問題だろ。 三人で宴を開くつもりだったのか?
問題発言ばかりで、訳がわからなくなる。
『もしかして太田君。幹事を誰かに押し付けたんじゃない?』
『ギク』
……ギクって言ったな、ギクって。 このバカ。
田辺に問い詰められてオロオロしだす太田に、思わず舌打ちしそうになる。
『……やっぱりね。太田君にしては、字が綺麗だと思ったんだよ』
田辺から一枚のメモを受け取った。私に届いた知らせに、「ぜひ来て下さい」というメッセージがプラスされたものだった。
たしかに、幹事の署名に太田の名が記されているが、彼が書いたとは思えない美文字だ。
『デスクに置いてあったんだけど……ホントの幹事は誰?』
『いや、あ…の……福田チーフ……ッス』
観念した太田が白状する。
『でも! 無理やり押し付けたわけじゃないッスよ!! 福ちゃんが替わってくれって……ホントですって!!』
疑いの眼差しを向けると、慌てて言い訳を募った。
『しかも、店を探したの俺だし!! 今日、急に言われて、いつもの店が空いてなかったんスから!! ホント見つけるの、大変だったんスから!!』
必死のアピールに冷たい視線を送るが、それよりも太田も急な知らせだった事に驚いた。
『それに福ちゃん、小森さん個人の携番知らないから、俺が替わりに連絡したんッスよ』
恩着せがましいセリフに軽く睨みつけてやる。元々幹事なんだから、当たり前の作業だ。
「アンタねぇ……」
『小森さん、まあまあ。 店先では何ですから、中に入りませんか?』
太田に詰め寄る私に、田辺が優しく諭した。
『そ、そうッスよ。 みんなで主任の到着を待ってて、乾杯がお預けなんスから。ね、ね』
調子のいいセリフに頭にくるが、たしかに人を待たせるのは気が引ける。
「……わかった。行きましょ」
太田を先頭にして、店内に足を踏み入れた。すぐに、お出汁のいい匂いが鼻をくすぐる。
『いらっしゃいませ。……太田様、お揃いですか?』
仲居姿の上品な女性が出迎えてくれた。
『あ、はい。これで揃いました。料理、始めてください』
『かしこまりました。 お飲物とお鍋はお部屋に用意してあります。お刺身はすぐにお持ちしますので……こちらへどうぞ』
案内に従い、奥へ進む。
『ここ、ちゃんこと刺身が美味いんッスよ。あ、今日も座敷ッスよ』
4階の……というか、平居主催の宴会は座敷が多い。平居が酒に強くないので、寝てしまうためだ。
それを毎回連れて帰るのが、田辺の仕事になっていた。今日も、その帰宅要員を買って出たのだろうか? しかし……
「……田辺さん。今日、出張でしたよね? 取りやめになったんですか?」
出張先は確か名古屋だ。 何かトラブルでもあったのだろうか。
『その出張なんですけど……』
『お待たせしましたぁ!! 主任、お二人のご到着でーす!!』
まるでテレビ局のADのように、声を張り上げながら太田が座敷に入っていく。
仕方なく話を中断して座敷に上がると、一斉に注目を浴びてたじろいだ。思いの外、その人数が多かったからだ。
『上座の席のひとぉ、どなたか空けてもらえますかぁ』
太田が座敷の奥にずんずんと進み、くつろいでいる集団に声をかける。
上座にチョコンと座っていた藤井が、慌てて立ち上がった。
……主役が動いてどうするの。
『あ、太田君いいよ。俺たち、空いてるところに座るから』
私が声を掛ける前に、田辺が太田を止めてくれる。
それでいいよね? ……という、目の合図にもちろん頷いた。
下座の並んで空いている場所に続いて移動する。向かいに座る人物を見て驚いた。
「原チーフ!」
『裕子ちゃん、お久しぶりね』
「どどど、どうしてここに?」
昔、お世話になった原チーフは、現在6階の婦人肌着を担当している。4階の歓迎会に参加するには、比較的おかしな人物だ。
しかし、原チーフの答えを聞く前に、隣でも同じやりとりがなされた。
『え、千葉さん? どうしてここに?』
『主任こそ、なんでまた、藤井ちゃんの歓迎会なんかに来てはるんですか?』
どうやら彼の前に座る女子も、ここに相応しくない人物らしい。
……いったい、どんなメンバー構成なんだ?
訝しく思って、周りを見回して驚いた。 ほぼ、他フロアーの人物ばかりだ。しかも知らない顔ばかりで社員が少ない。
……え? どういう事? 4階の歓迎会じゃないの?
『それでは皆さぁーん。大変お待たせしました! 只今より、藤井香織さんの歓迎会をはじめまーす』
疑問を解消する間もなく、宴が始まってしまった。幹事をサボった太田だが、進行はちゃんと務めるらしい。
乾杯の準備を催促するので、ビール瓶に手を伸ばすが、すでに原チーフが田辺のグラスに注いでいた。どうも、こういう事が上手くできない自分だ。
『こちらが、4階の売場に新しく配属された藤井香織さんです』
グラスを満たしてもらっている間に、上座で藤井の紹介が始まっていた。立ち上がった藤井が深々と礼をすると、場に拍手が起こる。
『それじゃあ、藤井さんに乾杯の挨拶をして頂きましょう』
……はあ?
とんちんかんな司会進行に、会場がどよめいた。
『太田君! 普通、乾杯の音頭は歓迎する側がとるのよ』
福田チーフがすかさず、太田に指摘を入れてくれる。
……よかった。バカを導く人がそばにいて。
『あ……そ、そうッスね。 うっかりッス』
額をペチリと叩く太田。
彼の軽い人格が周りに浸透しているせいか、硬かった場に笑いが起きて、案外いい雰囲気になる。
『えっと……じゃあ小森主任、お願いします』
「は?」
油断していたので、思わず声に出してしまった。太田の指名に笑顔が凍り付く。再びみんなの視線が自分に集中し、思わずうろたえた。
「ええ! だって……いやいや、私じゃないでしょ!」
慌てて目的の人物を探すが、なぜか見当たらない。
「え? ……平居さんは?」
『いないッス』
……簡単に言ってくれる。おかしい事に気付かないのか?
『……小森さん。 悪いけど、平居さんは来れないんだ。後で説明するから、とにかく小森さんが挨拶してくれる?』
隣に座る田辺が、小声でとんでもない事を伝えてくる。
……え! 私が? ウソでしょ?
私の到着を待っていた理由が、これだったのか……と臍を噛む。
気付けば、場の責任者に祭り上げられていた。
「……ええっと、あの、その……本日は……」
急遽指名を受けた乾杯の挨拶は、それはもう悲惨なものだった。
堅苦しい内容に場が白け、あまつさえビールの泡も消えた乾杯に、誰が賛辞を贈るだろうか。 『やっぱり、真面目ッスねぇー』という、太田のふざけた感想さえ、静まり返った会場を和ませるのに一役買ったぐらいだ。
しかし、これだけは主張しておきたい。 私だって事前に言ってくれれば、気の利いた挨拶ぐらい披露できる。……突然は無理。 絶対に無理! あんまりだ!!
『裕子ちゃん、そんなに気落ちしないで……』
ひたすら落ち込み続ける私に、原チーフが鍋奉行をしながら優しい言葉をかけてくれる。 一通りのセレモニーが終わり、場はすでにフリータイムだ。 太田の評判とおり、鍋も刺身も絶品なのに、気は沈む一方だった。
……ああ、主任なのに情けないなぁ。
優しいチーフとは対照的に、横でクスクス笑っている田辺をジロリと睨んだ。
『いや、ゴメン。……さすがに挨拶もきっちりしてるんだなぁって、感心してたんだよ』
明らかに嘘つきだ。呆れているのが手に取るようにわかる。
「それで、平居さんはどうして来れないんです? 何かトラブルでも?」
笑った事を責める替わりに、平居の不在について説明を求めた。
『ああ、それなんだけど……平居さん、俺の代わりに名古屋に出張してくれてるんだ』
「ええ! どうしてまた?」
驚く私に、田辺がテーブルの下で小さく手招きした。 聞かれたくない話のようなので、軽く身を寄せる。
『新規のブランドさんと内装の担当が、前回の打ち合わせで揉めたんです……』
内容が内容だけに、田辺も顔を近づけて小声で話してくる。
『名古屋の店舗で最終打ち合わせだったんですけど……とにかく時間がなくて。 決定権のない僕が行くより、平居さんに落としどころを見極めてもらう方がいいと思って……それで急遽、僕からお願いしました』
話を聞いて、平居の不在理由を理解した。しかし、田辺だって優秀な人材だ。彼が行っても首尾よく事を運んでいたのにと、つい恨めしく思ってしまう。
それでも、3階の改装工期が迫っているのは事実だ。これは、万全の措置を講じた結果なのだろうと、無理やり溜飲を下げる事にする。
田辺の『ごめんね』という囁きに、心臓がドキリと跳ねた。身体が離れると、名残を惜しむかのように、彼の香水がふわりと香った。
「ひ、平居さん、来れなくなって残念でしょうね」
田辺の残り香に意識が持って行かれないよう、現実の話に集中する。
『うーん。でも、歓迎会の事は何も言ってなかったんだよね……。もしかして今夜の事、知らないとか……ある?』
そういえば、私や太田だって知らなかったぐらいだ。その可能性は高い。
気さくな口調に戻った田辺にホッと安心しつつも、別の懸案で不安を掻き立てられた。
『だとすると……後で知ったら、マズイよね?』
たしかに田辺の言う通りだ。すぐに確認した方がいい。そう思った矢先、上座で歓喜の声が上がる。
『凄いでしょ! 全部、藤井師匠が作ったPOPなんですよ!』
藤井の隣で何かを力説している女子がいた。 しかし、彼女は一体誰なんだ? 見た覚えすらない子だ。
『原チーフ、あの子誰なん? ウチ、見た事ないんやけど……』
私の疑問を、原チーフの隣に座る女子がそのまま質問してくれる。 たしか、千葉さんと言ったか……。
『あの子……たしか、福ちゃんの姪御さんじゃなかったっけ?』
『ええ!! 姪っ子って……この歓迎会、誰が来てもOKなん?』
……そんなわけない。 本気でどうなっているんだ?
自分が問い質されたわけでもないのに、思い切り動揺してしまう。
『ああ、あの子、POP室の元アルバイトさんだから。……その関係じゃないかな?』
田辺が意外な情報を提供してくれる。
「……お、お詳しいんですね」
思わず聞いてしまった。
『え? いや、前にPOP室の大島主任に聞いたんだ。……藤井さんが面倒見てたらしいよ』
『マジですか? へえー。藤井ちゃんでも、他人の面倒が見れるんですね』
『チバコちゃん。……それ、言い過ぎよ』
原チーフにたしなめられ、千葉さんがペロッと舌を出して首をすくめた。
同じ感想を持ってしまった私も、密かに反省する。
『まあ、藤井さんにも得意分野はあるって事だね』
場を和ます為に、田辺が優しげな顔で微笑んだ。
……ああ、笑顔がやっぱりステキだな。
休日を返上して、藤井の歓迎会に来た甲斐があったと思ってしまう。
そんな綺麗な横顔に見とれていると、急に田辺がこっちを向いて目が合った。慌てて目線を逸らし、ビールを飲んで鍋をつつく。
田辺が横でクスッと笑った気がした。……誤魔化すのに必死過ぎただろうか?
『チバコ!! これ見て!!』
恥ずかしくて黙々と鍋を消費していると、見慣れない女子がテーブルにやってきた。田辺に挨拶をしているので、この子も3階のアルバイトだろう。手に華やかなPOPを数枚持っている。
『うわぁ、何これ! めっちゃ可愛いやん! もしかして、藤井ちゃんが作ったやつ?』
『そうなの、凄くない? しかも、藤井さん、似顔絵も描けるんだって! チョー凄くない?』
『マジでぇ?』
『平居さんとか、マジそっくりなんだって!! ねえ、チバコ、一緒に見せてもらおうよ』
『OK! 行く行く!』
ノリノリのキャピキャピ女子が、連れだって席を立つ。
……若いって、うらやましい。
『何してんですか、原チーフ! ほら、一緒に行きますよ!』
『え! 私も?』
驚いた原チーフも、実は気になっていたのか、照れながらも軽く会釈をして席を立った。
……アレ? 気持ちの問題だろうか?
『……小森さんは行かないの?』
田辺に聞かれてドキッとする。
「い、いえ、私は……」
横に手を振って断る。さすがにあのノリにはついていけない。
しかし、逆に言えば田辺と二人、テーブルに取り残された形になる。これはこれで、案外困った状況だった。
田辺はなぜか、私と二人きりになると口調が丁寧になる。 年下の私はその距離感にどうしても戸惑ってしまうのだ。
『……小森主任』
「ハイぃ!」
突然呼ばれて、声が裏返ってしまった。……恥ずかしい。
田辺もびっくりしている。
『いや、あのう……タバコ吸ってもいいですか?』
「え? あ、どうぞどうぞ」
近くにあった灰皿を渡すと、田辺がタバコに火をつけた。私は嗜まないが、喫煙する人を煙たいとは思わない。むしろ、タバコを吸う男性の姿に憧れるぐらいだ。
『そういえば、平居さんの禁煙、まだ続いてますよね?』
田辺が美味しそうに煙を吐きだした後、思い出したように質問してきた。
「ああ、言われてみればそうですね。……吸っている姿を全く見ません」
一日2箱以上消費していたヘビースモーカーの平居が、ある日突然『俺は禁煙する』と宣言した。それを聞いて、田辺と二人で「絶対無理!」と大笑いした事を思い出す。
『三日で挫折すると思ったんだけどなぁ……もう半年ですもんね』
「何があったんでしょう?」
『うーん。タバコをやめるぐらいなら、人生やめるって言ってた人ですからね……。 人生を賭けたくなるような……何かがあったんでしょうね……』
想像して怖くなった。
「もしかして、病気……とか」
『ええ!? いや、この前、保険証なんて滅多に使わないから、どこにしまったかわからないって言ってましたよ……。たぶん、健康だからだと思うんですけど……』
内容に問題があるけれど、ひとまず安心する。
「じゃあ逆に、健康に気を使うようになった ……とか?」
『いやぁ……それもないでしょう。保険証が見つからないから、健康診断に行かなくてもいいかって、総務に聞くぐらいですから……。もちろん、すごく怒られてましたけどね』
笑いながら、田辺がタバコの灰を皿に落とす。それにしても、健康診断ぐらい普通に受けて欲しい。……こちらが気を使う。
「じゃあ、どうして禁煙なんて始めたんでしょうね……」
『うーん、その理由が謎ですよね……』
心当たりを探ってみるが、何も見つからない。
考え込んでいると、空いている席に太田がドカリと座った。
『いやぁ、参りましたよぉ……。ニコチン切れで、もう死にそう。俺も吸っていいッスか?』
こちらの返事を聞く前に、すでにタバコに火をつけている。 まったく……こういうところがどうなんだと思う。
『自分の席で、吸えなかったの?』
田辺が灰皿を前に出しながら尋ねた。
『そうなんスよ! 福ちゃんの姪っ子が来てるんスけど……そいつに睨まれたんスよ』
『ああ、あの子……タバコが苦手なんだね』
『それが違うんスよ!! そいつじゃなくて、藤井がダメなんです』
『え! 藤井さん、タバコが嫌いなの?』
驚いた田辺が思わず確認している。私も初耳だった。
『いや、嫌いっていうか、ムリ……的な? けど、本人は全然平気だって言うのに、姪がうるさいんスよ。師匠が喘息だから他所で吸えって……もう、俺の扱い、ヒドイのなんの……』
……喘息?! 藤井が?
『まあ、病気っつう事で我慢しましたけどね……。 俺、えらいッスよね。 くぅ……モテちゃうわけだ』
太田の独り言部分は無視して、田辺と二人で顔を見合わす。
『あの人、どこかでそれを知ったんだ……。 って、どんだけ惚れてんだよ……』
田辺のつぶやきに、私も苦笑してしまう。
……たしかに、本気で藤井が好きなんだろう。
気付けばあっという間に、謎が解けていた。田辺も腹をかかえて笑いだしている。つられて私も、声に出して笑っていた。
『え? なんッスか?』
答えを運んできた太田だけが、笑いから取り残されていた。
……でも、よかった。
平居の恋が本気だと確認できたせいか……少しだけ、ほんの少しだけ……
自分の罪が軽くなった気がした。
読んでくださってありがとうございます。




