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全力!!! トライアングル  作者: 谷川ポンヌ
長月 -<2> の章
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45/51

第44話 ◆小森裕子 惚れて、嫌って、巻き込まれる(前編)


『さて……どういう事か、説明してもらおうか』


腕を組んでこちらを睨んだまま、平居が低い声で言う。


……こんなに早く出社しなくてもいいのに。よっぽど怒ってるんだな。


午後出勤だったはずの平居に、なぜか朝イチから事務所に呼び出された。


しかも私の予想を遥かに超えて、平居の眉間の縦シワは深かった。本気で頭にきているということだ。


そんな彼の前に並ばされているのは、私、太田、そしてとばっちり感が否めない田辺の三人だ。誰も口を開こうとしなかったのは当然だ。誤魔化そうにも、すべて昨日の出来事が露見しているのだから……。


……ああ、なんでこんな事に巻き込まれたんだろう。




 ◆―◆―◆




『小森さぁぁぁーん! ここッス! ここッスよ!!』


店の前で、太田が手を振って私を呼ぶ。


部屋の掃除を済ませ、日頃できないキッチンやトイレ、浴室を磨き終わって一息つき、録画したドラマを再生しつつ、今晩何を作ろうか……と考えもって、洗って干して取り込んだ衣類の山を、のんびりたたんでいる最中に、突然そのメールを受け取った。


藤井の歓迎会緊急開催のお知らせに驚嘆し、慌てふためきながらも指定された場所へ向かったのだが、いつもと店が違うせいで、すっかり道に迷ってしまった。不覚にも遅刻である。


取りあえず、太田の顔を見つけて安心したが、迷った事で倍増した怒りをすぐさま太田にぶつけた。


「ちょっと!! 一体どういう事なの? どうして連絡がこんなに急なの?!」


私にだってプライベートがある。

今日はたまたま家事に休みを費やしていたが、いつも予定がないと思われるのは心外だ。こういう事はせめて、前日に知らせるべきだろう。 ……当日は無い。 絶対に無い!


『いや、俺に言われても……困るッス』


「はあ? 幹事のアンタに言わなくて、一体誰に言うのよ!」


『いや、そうなんスけど……』


いつもの要領を得ない言い訳に、ますます頭に血が上る。


「アンタねぇ!!」


『あ、いたいた!』


叱りつけようとした瞬間、後ろから聞き覚えのある声がしたので振り返る。

そこには、なぜここにいるのか? と思う、そんな存在の男が立っていた。


『アレ? ……田辺主任、どうしたんッスか?』


『え? ……どうしたって、呼ばれたから来たんだけど……ここ、藤井さんの歓迎会場……だよね?』


その質問に、太田が当惑ぎみな顔で首をひねる。


『……マジッスか? なんで3階の主任まで呼ぶんだろう?』


……いやいや、私がアンタに聞きたい。何で田辺を呼ぶ? というか……


「……太田が呼んだんじゃないの?」


『ち、違うッスよ……。俺は、小森さんしか呼んでませんもん』


……私だけって、それも問題だろ。 三人で宴を開くつもりだったのか?


問題発言ばかりで、訳がわからなくなる。


『もしかして太田君。幹事を誰かに押し付けたんじゃない?』


『ギク』


……ギクって言ったな、ギクって。 このバカ。


田辺に問い詰められてオロオロしだす太田に、思わず舌打ちしそうになる。


『……やっぱりね。太田君にしては、字が綺麗だと思ったんだよ』


田辺から一枚のメモを受け取った。私に届いた知らせに、「ぜひ来て下さい」というメッセージがプラスされたものだった。


たしかに、幹事の署名に太田の名が記されているが、彼が書いたとは思えない美文字だ。


『デスクに置いてあったんだけど……ホントの幹事は誰?』


『いや、あ…の……福田チーフ……ッス』


観念した太田が白状する。


『でも! 無理やり押し付けたわけじゃないッスよ!! 福ちゃんが替わってくれって……ホントですって!!』


疑いの眼差しを向けると、慌てて言い訳を募った。


『しかも、店を探したの俺だし!! 今日、急に言われて、いつもの店が空いてなかったんスから!! ホント見つけるの、大変だったんスから!!』


必死のアピールに冷たい視線を送るが、それよりも太田も急な知らせだった事に驚いた。


『それに福ちゃん、小森さん個人の携番知らないから、俺が替わりに連絡したんッスよ』


恩着せがましいセリフに軽く睨みつけてやる。元々幹事なんだから、当たり前の作業だ。


「アンタねぇ……」


『小森さん、まあまあ。 店先では何ですから、中に入りませんか?』


太田に詰め寄る私に、田辺が優しく諭した。


『そ、そうッスよ。 みんなで主任の到着を待ってて、乾杯がお預けなんスから。ね、ね』


調子のいいセリフに頭にくるが、たしかに人を待たせるのは気が引ける。


「……わかった。行きましょ」


太田を先頭にして、店内に足を踏み入れた。すぐに、お出汁のいい匂いが鼻をくすぐる。


『いらっしゃいませ。……太田様、お揃いですか?』


仲居姿の上品な女性が出迎えてくれた。


『あ、はい。これで揃いました。料理、始めてください』


『かしこまりました。 お飲物とお鍋はお部屋に用意してあります。お刺身はすぐにお持ちしますので……こちらへどうぞ』


案内に従い、奥へ進む。


『ここ、ちゃんこと刺身が美味いんッスよ。あ、今日も座敷ッスよ』


4階の……というか、平居主催の宴会は座敷が多い。平居が酒に強くないので、寝てしまうためだ。


それを毎回連れて帰るのが、田辺の仕事になっていた。今日も、その帰宅要員を買って出たのだろうか? しかし……


「……田辺さん。今日、出張でしたよね? 取りやめになったんですか?」


出張先は確か名古屋だ。 何かトラブルでもあったのだろうか。


『その出張なんですけど……』


『お待たせしましたぁ!! 主任、お二人のご到着でーす!!』 


まるでテレビ局のADのように、声を張り上げながら太田が座敷に入っていく。

仕方なく話を中断して座敷に上がると、一斉に注目を浴びてたじろいだ。思いの外、その人数が多かったからだ。


『上座の席のひとぉ、どなたか空けてもらえますかぁ』


太田が座敷の奥にずんずんと進み、くつろいでいる集団に声をかける。

上座にチョコンと座っていた藤井が、慌てて立ち上がった。


……主役が動いてどうするの。


『あ、太田君いいよ。俺たち、空いてるところに座るから』


私が声を掛ける前に、田辺が太田を止めてくれる。

それでいいよね? ……という、目の合図にもちろん頷いた。


下座の並んで空いている場所に続いて移動する。向かいに座る人物を見て驚いた。


「原チーフ!」


『裕子ちゃん、お久しぶりね』


「どどど、どうしてここに?」


昔、お世話になった原チーフは、現在6階の婦人肌着を担当している。4階の歓迎会に参加するには、比較的おかしな人物だ。


しかし、原チーフの答えを聞く前に、隣でも同じやりとりがなされた。


『え、千葉さん? どうしてここに?』


『主任こそ、なんでまた、藤井ちゃんの歓迎会なんかに来てはるんですか?』


どうやら彼の前に座る女子も、ここに相応しくない人物らしい。


……いったい、どんなメンバー構成なんだ?


訝しく思って、周りを見回して驚いた。 ほぼ、他フロアーの人物ばかりだ。しかも知らない顔ばかりで社員が少ない。


……え? どういう事? 4階の歓迎会じゃないの?


『それでは皆さぁーん。大変お待たせしました! 只今より、藤井香織さんの歓迎会をはじめまーす』


疑問を解消する間もなく、宴が始まってしまった。幹事をサボった太田だが、進行はちゃんと務めるらしい。


乾杯の準備を催促するので、ビール瓶に手を伸ばすが、すでに原チーフが田辺のグラスに注いでいた。どうも、こういう事が上手くできない自分だ。


『こちらが、4階の売場に新しく配属された藤井香織さんです』


グラスを満たしてもらっている間に、上座で藤井の紹介が始まっていた。立ち上がった藤井が深々と礼をすると、場に拍手が起こる。


『それじゃあ、藤井さんに乾杯の挨拶をして頂きましょう』


……はあ?


とんちんかんな司会進行に、会場がどよめいた。


『太田君! 普通、乾杯の音頭は歓迎する側がとるのよ』


福田チーフがすかさず、太田に指摘を入れてくれる。


……よかった。バカを導く人がそばにいて。


『あ……そ、そうッスね。 うっかりッス』


額をペチリと叩く太田。

彼の軽い人格が周りに浸透しているせいか、硬かった場に笑いが起きて、案外いい雰囲気になる。


『えっと……じゃあ小森主任、お願いします』


「は?」


油断していたので、思わず声に出してしまった。太田の指名に笑顔が凍り付く。再びみんなの視線が自分に集中し、思わずうろたえた。


「ええ! だって……いやいや、私じゃないでしょ!」


慌てて目的の人物を探すが、なぜか見当たらない。


「え? ……平居さんは?」


『いないッス』


……簡単に言ってくれる。おかしい事に気付かないのか?


『……小森さん。 悪いけど、平居さんは来れないんだ。後で説明するから、とにかく小森さんが挨拶してくれる?』


隣に座る田辺が、小声でとんでもない事を伝えてくる。


……え! 私が? ウソでしょ? 


私の到着を待っていた理由が、これだったのか……と臍を噛む。

気付けば、場の責任者に祭り上げられていた。


「……ええっと、あの、その……本日は……」


急遽指名を受けた乾杯の挨拶は、それはもう悲惨なものだった。


堅苦しい内容に場が白け、あまつさえビールの泡も消えた乾杯に、誰が賛辞を贈るだろうか。 『やっぱり、真面目ッスねぇー』という、太田のふざけた感想さえ、静まり返った会場を和ませるのに一役買ったぐらいだ。


しかし、これだけは主張しておきたい。 私だって事前に言ってくれれば、気の利いた挨拶ぐらい披露できる。……突然は無理。 絶対に無理! あんまりだ!!


『裕子ちゃん、そんなに気落ちしないで……』


ひたすら落ち込み続ける私に、原チーフが鍋奉行をしながら優しい言葉をかけてくれる。 一通りのセレモニーが終わり、場はすでにフリータイムだ。 太田の評判とおり、鍋も刺身も絶品なのに、気は沈む一方だった。


……ああ、主任なのに情けないなぁ。


優しいチーフとは対照的に、横でクスクス笑っている田辺をジロリと睨んだ。


『いや、ゴメン。……さすがに挨拶もきっちりしてるんだなぁって、感心してたんだよ』


明らかに嘘つきだ。呆れているのが手に取るようにわかる。


「それで、平居さんはどうして来れないんです? 何かトラブルでも?」


笑った事を責める替わりに、平居の不在について説明を求めた。


『ああ、それなんだけど……平居さん、俺の代わりに名古屋に出張してくれてるんだ』


「ええ! どうしてまた?」


驚く私に、田辺がテーブルの下で小さく手招きした。 聞かれたくない話のようなので、軽く身を寄せる。


『新規のブランドさんと内装の担当が、前回の打ち合わせで揉めたんです……』


内容が内容だけに、田辺も顔を近づけて小声で話してくる。


『名古屋の店舗で最終打ち合わせだったんですけど……とにかく時間がなくて。 決定権のない僕が行くより、平居さんに落としどころを見極めてもらう方がいいと思って……それで急遽、僕からお願いしました』


話を聞いて、平居の不在理由を理解した。しかし、田辺だって優秀な人材だ。彼が行っても首尾よく事を運んでいたのにと、つい恨めしく思ってしまう。


それでも、3階の改装工期が迫っているのは事実だ。これは、万全の措置を講じた結果なのだろうと、無理やり溜飲を下げる事にする。


田辺の『ごめんね』という囁きに、心臓がドキリと跳ねた。身体が離れると、名残を惜しむかのように、彼の香水がふわりと香った。


「ひ、平居さん、来れなくなって残念でしょうね」


田辺の残り香に意識が持って行かれないよう、現実の話に集中する。


『うーん。でも、歓迎会の事は何も言ってなかったんだよね……。もしかして今夜の事、知らないとか……ある?』


そういえば、私や太田だって知らなかったぐらいだ。その可能性は高い。

気さくな口調に戻った田辺にホッと安心しつつも、別の懸案で不安を掻き立てられた。


『だとすると……後で知ったら、マズイよね?』


たしかに田辺の言う通りだ。すぐに確認した方がいい。そう思った矢先、上座で歓喜の声が上がる。


『凄いでしょ! 全部、藤井師匠が作ったPOPなんですよ!』


藤井の隣で何かを力説している女子がいた。 しかし、彼女は一体誰なんだ? 見た覚えすらない子だ。


『原チーフ、あの子誰なん? ウチ、見た事ないんやけど……』


私の疑問を、原チーフの隣に座る女子がそのまま質問してくれる。 たしか、千葉さんと言ったか……。


『あの子……たしか、福ちゃんの姪御さんじゃなかったっけ?』


『ええ!! 姪っ子って……この歓迎会、誰が来てもOKなん?』


……そんなわけない。 本気でどうなっているんだ?


自分が問い質されたわけでもないのに、思い切り動揺してしまう。


『ああ、あの子、POP室の元アルバイトさんだから。……その関係じゃないかな?』


田辺が意外な情報を提供してくれる。


「……お、お詳しいんですね」


思わず聞いてしまった。


『え? いや、前にPOP室の大島主任に聞いたんだ。……藤井さんが面倒見てたらしいよ』


『マジですか? へえー。藤井ちゃんでも、他人の面倒が見れるんですね』


『チバコちゃん。……それ、言い過ぎよ』


原チーフにたしなめられ、千葉さんがペロッと舌を出して首をすくめた。

同じ感想を持ってしまった私も、密かに反省する。


『まあ、藤井さんにも得意分野はあるって事だね』


場を和ます為に、田辺が優しげな顔で微笑んだ。


……ああ、笑顔がやっぱりステキだな。


休日を返上して、藤井の歓迎会に来た甲斐があったと思ってしまう。


そんな綺麗な横顔に見とれていると、急に田辺がこっちを向いて目が合った。慌てて目線を逸らし、ビールを飲んで鍋をつつく。


田辺が横でクスッと笑った気がした。……誤魔化すのに必死過ぎただろうか?


『チバコ!! これ見て!!』


恥ずかしくて黙々と鍋を消費していると、見慣れない女子がテーブルにやってきた。田辺に挨拶をしているので、この子も3階のアルバイトだろう。手に華やかなPOPを数枚持っている。


『うわぁ、何これ! めっちゃ可愛いやん! もしかして、藤井ちゃんが作ったやつ?』


『そうなの、凄くない? しかも、藤井さん、似顔絵も描けるんだって! チョー凄くない?』


『マジでぇ?』


『平居さんとか、マジそっくりなんだって!! ねえ、チバコ、一緒に見せてもらおうよ』


『OK! 行く行く!』


ノリノリのキャピキャピ女子が、連れだって席を立つ。


……若いって、うらやましい。


『何してんですか、原チーフ! ほら、一緒に行きますよ!』


『え! 私も?』


驚いた原チーフも、実は気になっていたのか、照れながらも軽く会釈をして席を立った。


……アレ? 気持ちの問題だろうか?


『……小森さんは行かないの?』


田辺に聞かれてドキッとする。


「い、いえ、私は……」


横に手を振って断る。さすがにあのノリにはついていけない。


しかし、逆に言えば田辺と二人、テーブルに取り残された形になる。これはこれで、案外困った状況だった。


田辺はなぜか、私と二人きりになると口調が丁寧になる。 年下の私はその距離感にどうしても戸惑ってしまうのだ。


『……小森主任』


「ハイぃ!」


突然呼ばれて、声が裏返ってしまった。……恥ずかしい。

田辺もびっくりしている。


『いや、あのう……タバコ吸ってもいいですか?』


「え? あ、どうぞどうぞ」


近くにあった灰皿を渡すと、田辺がタバコに火をつけた。私は嗜まないが、喫煙する人を煙たいとは思わない。むしろ、タバコを吸う男性の姿に憧れるぐらいだ。


『そういえば、平居さんの禁煙、まだ続いてますよね?』


田辺が美味しそうに煙を吐きだした後、思い出したように質問してきた。


「ああ、言われてみればそうですね。……吸っている姿を全く見ません」


一日2箱以上消費していたヘビースモーカーの平居が、ある日突然『俺は禁煙する』と宣言した。それを聞いて、田辺と二人で「絶対無理!」と大笑いした事を思い出す。


『三日で挫折すると思ったんだけどなぁ……もう半年ですもんね』


「何があったんでしょう?」


『うーん。タバコをやめるぐらいなら、人生やめるって言ってた人ですからね……。 人生を賭けたくなるような……何かがあったんでしょうね……』


想像して怖くなった。


「もしかして、病気……とか」


『ええ!? いや、この前、保険証なんて滅多に使わないから、どこにしまったかわからないって言ってましたよ……。たぶん、健康だからだと思うんですけど……』


内容に問題があるけれど、ひとまず安心する。


「じゃあ逆に、健康に気を使うようになった ……とか?」


『いやぁ……それもないでしょう。保険証が見つからないから、健康診断に行かなくてもいいかって、総務に聞くぐらいですから……。もちろん、すごく怒られてましたけどね』


笑いながら、田辺がタバコの灰を皿に落とす。それにしても、健康診断ぐらい普通に受けて欲しい。……こちらが気を使う。


「じゃあ、どうして禁煙なんて始めたんでしょうね……」


『うーん、その理由が謎ですよね……』


心当たりを探ってみるが、何も見つからない。

考え込んでいると、空いている席に太田がドカリと座った。


『いやぁ、参りましたよぉ……。ニコチン切れで、もう死にそう。俺も吸っていいッスか?』


こちらの返事を聞く前に、すでにタバコに火をつけている。 まったく……こういうところがどうなんだと思う。


『自分の席で、吸えなかったの?』


田辺が灰皿を前に出しながら尋ねた。


『そうなんスよ! 福ちゃんの姪っ子が来てるんスけど……そいつに睨まれたんスよ』


『ああ、あの子……タバコが苦手なんだね』


『それが違うんスよ!! そいつじゃなくて、藤井がダメなんです』


『え! 藤井さん、タバコが嫌いなの?』


驚いた田辺が思わず確認している。私も初耳だった。


『いや、嫌いっていうか、ムリ……的な? けど、本人は全然平気だって言うのに、姪がうるさいんスよ。師匠が喘息だから他所で吸えって……もう、俺の扱い、ヒドイのなんの……』


……喘息?! 藤井が?


『まあ、病気っつう事で我慢しましたけどね……。 俺、えらいッスよね。 くぅ……モテちゃうわけだ』


太田の独り言部分は無視して、田辺と二人で顔を見合わす。


『あの人、どこかでそれを知ったんだ……。 って、どんだけ惚れてんだよ……』


田辺のつぶやきに、私も苦笑してしまう。


……たしかに、本気で藤井が好きなんだろう。


気付けばあっという間に、謎が解けていた。田辺も腹をかかえて笑いだしている。つられて私も、声に出して笑っていた。


『え? なんッスか?』


答えを運んできた太田だけが、笑いから取り残されていた。



……でも、よかった。


平居の恋が本気だと確認できたせいか……少しだけ、ほんの少しだけ……


自分の罪が軽くなった気がした。




読んでくださってありがとうございます。

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