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全力!!! トライアングル  作者: 谷川ポンヌ
長月 -<1> の章
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26/51

第25話 ♪藤井香織 焼きそば!!!トライアングル


しまった……食べ過ぎた。


先週、特価だった中華麺を勢い込んで5玉購入したのはいいけれど、気付けば賞味期限を切っていた。しかも3玉も……。


仕方が無いので3玉とも焼きそばに生まれ変わってもらった。

3玉同じ味はキツイので、ソース・醤油・塩と三つの味でバラエティーを富ませた。

焼きそばパーティである。


もちろん主催は私だが、お客も私ひとりだ。

明日のお弁当に当てる分を先に取り分けて置いたが、それでもかなりの分量である。

無理かな……と思ったが、味を分けたのがマズかった。いや、味覚的には美味しかったのだが、そのせいで平らげてしまったと言う事がマズイと言いたいのだ。


とりあえず大変“満腹”な状態である。

先程から脳が、記憶する作業を完全拒絶している。

持ち帰ってきた“就業規則”を眺めてはいるが……眺めているだけなのだ。

体内の血流が全力で焼きそばの消化に当たっているらしく、困ってしまった。






あの後、必死の形相で就業規則と取り組む私を見て、あっちゃんが助け舟を出してくれた。どうやらこの就業規則、さすがに全部を記憶するのは無理があるらしく、総務でも全てを言えるのは総務部長ぐらいらしい。


そこであっちゃんが、総務の虎の子を持ってきてくれたのだ。

表紙に持ち出し厳禁と印字された就業規則は、中を開けると重要項目に赤いマーカーが記されていた。


『人事課が途中入社の社員に説明する時に使うの。全部説明するのは時間的に無理だから……』


そう説明してくれるあっちゃん。

つまりマーカーの部分だけ押さえれば、とりあえず普通の社員になれるという塩梅だ。


もちろん慌ててマーカーを写させてもらう。この際、ズルとか関係ない。

あっちゃんに次回夕食を奢る約束を取り付けられたが、致し方ない。必要経費だ。


聞いたところによると、必ず覚えて置かなければならない分量は全体の三分の一にも満たないらしい。どんな規則だ! とツッコミたくなるが、今の私にとってはありがたい規則内容である。そう、たったそれだけを覚えればいいのだ。……しかしそれさえも頭に入ってこない。くぅ……焼きそばが邪魔をする。


『……しゃーない。 これはもう、報告するしかないな』


一人暮らしの部屋で、自分以外の声が聞こえてきた。

びっくりして横を見ると、なんと!たらし天狗が部屋の中にいるではないか!


「な! どうしてココに?!!! っていうか誰に報告するんですか!!!」


『決まってるやろ。真木部長に告げ口やん。藤井は頭が悪いから、引き取ってもらわなアカン』


にょぉぉぉぉ!! マジでやめて!!


携帯を取り出して通話ボタンを押すたらし天狗。慌てて止めようと試みるが、左手でおでこを押さえられ、たらし天狗の携帯に手が届かない。いわゆるリーチの差だ。

むなしく空を舞う私の両手をあざ笑う様に、たらし天狗が話し始めた。


『あ、もしもし? 真木部長ですか? ホンマ参りましたわ。おたくの新人使えまへん。もう、アホ過ぎて困ってますねん。 役に立たへんにも程がありますわ』


ヒドイ! ひど過ぎる!! そんな言い方はないだろう!!

もう少しオブラートに包んでもいいじゃないか!!


『それはすまない事をしたね。そこまでアホだとは思わなかったよ』


びっくりして振り返ると、これまた信じられない事に、携帯片手に真木部長がおざぶの上に座っておられた。


「ぶちょーぉ!!!!」


『ダメじゃないか……藤井はアホじゃないと思っていたよ』


あ、アホではありません!! これからちゃんと覚えます! やれば出来る子です!


『ムリ無理。アホは何やってもアカンねんって』


うるさい!! 天狗は黙ってろ!!


『そうだね。タイムアップだ』


「ぶちょ――――お!!!!」


まさかの真木部長に、三行半を押されてしまった。(あつら)えたように時計のアラームが鳴り響く。


待って!! 見捨てないでぇ!!!! 

伸ばした手の先に、目覚まし時計が鎮座していた。


え? 


気付くと窓の外がやけに明るい ……まさかの朝だった。






とんでもなく、嫌な夢を見た。

たらし天狗の嫌味な関西弁が耳に付いて離れない。あんなにコテコテな方言は、さすがに本人も口にしないだろうが、イメージの問題だ。違和感と言うなら大も小もない。あの顔で関西弁というだけで、もうウザイのだ。だったら顔ごと、コテコテソースのタコ焼き顔だったらよかったのに! といらぬお節介をぶつけたくなる。


しかも、愛しのジェントルマンが夢の中にご登場!という貴重な一夜だったのに……。


まったく、なんだ!! アイツのせいで、すべてが台無しではないか! 久方ぶりのご出演なんだぞ! なのにぃぃぃ、割り込みやがって!!  脇役はすっこんでろ!!


側にあったクッションを殴り、怒りを発散させる。


……バカバカバカバカ! 天狗のバカやろぉぉぉ!!


しかし、これ以上殴るとクッションが破れてしまうので、やむなく自粛した。



それにしても……

アイツは、夢の中でも嫌なチクリ野郎だった。 マジでうっとうしいヤツである。

これから先も、随時、失敗をチクられていくのかと思うと気が休まらない。


……天狗のやつ、しばらく会社を休んでくれないだろうか。


絶対起こらないような事を願ってみる。 ……空しくなった。

とにかく、なるべくヤツの視界に入らないように注意しよう。


心の油断を取り払い、固く胸に誓った。




 ♪―♪―♪




普段、寝起きはすぐに立ち上がれない体質なのだが、怒りで血圧が上昇したせいか、すんなり起き上がれた。

まあ、クッション相手に散々殴り続けたのだから、当然か……。


とりあえず気分を変えるため、コーヒーを入れる準備を始める。


ドリップケトルを火にかけて、ドリッパーにペーパーを置く。冷蔵庫からお気に入りのコーヒーを取り出し、缶の蓋を開けると至福の瞬間(とき)がやってきた。


……ああ、いい匂い。 幸せだなー。


食費はケチケチしている私だが、コーヒーだけはケチらない。……極上豆を購入する。それが私のポリシーだ。


芳ばしいコーヒー豆の香りを嗅ぐと、さっきまで胸に漂っていたモヤモヤが、一瞬にして消え去ってしまうから不思議だ。


……素晴らしい。 ホント、たらし天狗の粘着質も、この香りと共に消えて無くなればいいのにー。


気分がいいので上から目線で考えた。


そう言えば、昨日の帰り際、うんざりするほど念押しされた事を思い出す。

天狗が『もう、わかってるよ!』 という話を、何度も何度も繰り返してきたのだ。

バカにするにも程があると言いたい。


……ってあれ? 一体何の話だったっけ?


眉間に二本の指を当てて、交互に打つ。

ピコピコピコピコ……脳内検索だ。これで大概の事は思い出す。


ええっと……明日の……って、もう今日だ。

たしか売場の朝礼は9時からとか……は? ってもう8時半だぞ?

え? そんなバカな……。


うそぉぉぉぉぉ!!!!


のんびりコーヒーを飲んでいる場合ではなかった。とりあえずパニックに陥ってみる。もしかして夢のお告げ通り、私はアホなのだろうか? 

いやいや、悩んでいる場合じゃない。間に合わないぞ。と、とにかく準備をしよう。


とりあえずコーヒーと朝食は諦めた。手早く着替えて化粧も1分。ナチュラル過ぎるメイクを施し、荷物も詰め替えなしでOK。お弁当も昨日の焼きソバだ。10分で玄関に到着。 ここから会社まで走れば4分! ギリ間に合うか?! やればできる子だ。よく頑張った。では行ってきます!


扉の鏡で簡単チェック! ドアノブに手をかけてふと思い出す。

もう一度鏡を覗き込んで、瞬時に青ざめてしまった。



あ、…………ツケマツゲがない。



いや――――ぁ!! 絶対絶命!! 大ピンチ過ぎる!!





読んで下さってありがとうございます。

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