九
父から電話が来たのは、その頃だった。
「お前、峰岸のところにいるのか。」
「いるよ。」
「すごい人だな。」
父は政治の話をしない人だった。
選挙には行っていたが、誰に入れたかを家族にも言わなかった。
「動画を見てるの。」
「見てる。お前が作ったのか。」
「全部じゃないけど。」
「政府はひどいな。」
「何が。」
「何も知らんじゃないか。」
私は返事に困った。
「全部の動画を見たの。」
「いろいろ見た。」
「長い答弁も。」
「あんなもの、見ても仕方ない。言い訳ばかりだ。」
私は、父に説明しようとした。
政府答弁には、法的な制約や、既存制度との関係や、数字の前提が含まれている。
短い動画では、それが落ちることがある。
けれど、それを言えば、自分が作っている動画を否定することになる気がした。
「峰岸先生も、全部正しいわけじゃないよ。」
私は言った。
「何だ、お前、本人のところにいるのに信じてないのか。」
「信じるとかじゃなくて。」
「じゃあ、何で手伝ってるんだ。」
私は答えられなかった。
先生に最初に聞かれた問いと同じだった。
何が目的です。
「仕事だから。」
私は言った。
「お前、昔からそういうところがあるな。」
「どういうところ。」
「自分が何をしたいか、言わんところだ。」
父は笑った。
「まあ、立派な仕事じゃないか。日本を変えてくれ。」
電話が切れた。
私は、父が日本を変えてくれと言ったことに違和感を持った。
何をどう変えてほしいのか、父自身も分かっていないように思えた。
けれど、私は父を笑えなかった。
私も、先生が何を変えるのか知らないまま、先生の動画を作っていた。




