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こえ  作者: 水川かずみ
先生と私
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9/15

 父から電話が来たのは、その頃だった。


「お前、峰岸のところにいるのか。」


「いるよ。」


「すごい人だな。」


 父は政治の話をしない人だった。


 選挙には行っていたが、誰に入れたかを家族にも言わなかった。


「動画を見てるの。」


「見てる。お前が作ったのか。」


「全部じゃないけど。」


「政府はひどいな。」


「何が。」


「何も知らんじゃないか。」


 私は返事に困った。


「全部の動画を見たの。」


「いろいろ見た。」


「長い答弁も。」


「あんなもの、見ても仕方ない。言い訳ばかりだ。」


 私は、父に説明しようとした。


 政府答弁には、法的な制約や、既存制度との関係や、数字の前提が含まれている。


 短い動画では、それが落ちることがある。


 けれど、それを言えば、自分が作っている動画を否定することになる気がした。


「峰岸先生も、全部正しいわけじゃないよ。」


 私は言った。


「何だ、お前、本人のところにいるのに信じてないのか。」


「信じるとかじゃなくて。」


「じゃあ、何で手伝ってるんだ。」


 私は答えられなかった。


 先生に最初に聞かれた問いと同じだった。


 何が目的です。


「仕事だから。」


 私は言った。


「お前、昔からそういうところがあるな。」


「どういうところ。」


「自分が何をしたいか、言わんところだ。」


 父は笑った。


「まあ、立派な仕事じゃないか。日本を変えてくれ。」


 電話が切れた。


 私は、父が日本を変えてくれと言ったことに違和感を持った。


 何をどう変えてほしいのか、父自身も分かっていないように思えた。


 けれど、私は父を笑えなかった。


 私も、先生が何を変えるのか知らないまま、先生の動画を作っていた。

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