八
選挙が終わってから、先生は忙しくなった。
政党の議席が増えたため、質問時間も、取材も、党内会議も増えた。
専門家や当事者が次々に事務所へ来た。
皆、自分の分野について、政府より詳しかった。
ある者は農業を語り、ある者は教育を語り、ある者は医療を語った。
それぞれの話を聞くと、すぐにでも制度を変えるべきだと思えた。
けれど、全員の要求を並べると、予算が足りなかった。
減税を求める人がいた。
公的支援の拡大を求める人がいた。
規制撤廃を求める人がいた。
安全のための規制強化を求める人がいた。
国内産業を守るため輸入を制限すべきだと言う人がいた。
物価を下げるため輸入を増やすべきだと言う人がいた。
会議では、誰もが理路整然としていた。
誰もが、自分の分野では正しかった。
先生はその意見を聞き、党として何を優先するか決めなければならなかった。
ある会議で、若い議員が言った。
「全部やればいいじゃないですか。」
先生は尋ねた。
「財源は。」
「無駄を削ればいい。」
「どの無駄です。」
「官僚機構です。」
「官僚を減らして、誰が制度を実施するんです。」
「デジタル化すれば。」
「システムを作る人と、保守する人は。」
「民間に任せればいい。」
「費用は。」
若い議員は少し黙った。
「峰岸さんまで、できない理由を並べるんですか。」
その言葉に、部屋が静かになった。
先生は怒らなかった。
「そう聞こえますか。」
「私たちは、できないと言う既存政治を変えるために来たんでしょう。」
「できると言えば、できるわけではありません。」
「でも、国民は待っています。」
「何を。」
「変化をです。」
「どの変化です。」
「日本が良くなることです。」
先生は長く黙った。
「良くなるとは、誰にとってですか。」
若い議員は答えなかった。
私は、その会議を撮影していなかった。
公開されていれば、大きく拡散されたと思う。
若い改革派議員に、現実論を並べる峰岸。
ある支持者は、先生が成長したと言うだろう。
別の支持者は、先生が変節したと言うだろう。
どちらの動画も作れた。
同じ映像から。




