表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こえ  作者: 水川かずみ
先生と私
PR
8/15

 選挙が終わってから、先生は忙しくなった。


 政党の議席が増えたため、質問時間も、取材も、党内会議も増えた。


 専門家や当事者が次々に事務所へ来た。


 皆、自分の分野について、政府より詳しかった。


 ある者は農業を語り、ある者は教育を語り、ある者は医療を語った。


 それぞれの話を聞くと、すぐにでも制度を変えるべきだと思えた。


 けれど、全員の要求を並べると、予算が足りなかった。


 減税を求める人がいた。


 公的支援の拡大を求める人がいた。


 規制撤廃を求める人がいた。


 安全のための規制強化を求める人がいた。


 国内産業を守るため輸入を制限すべきだと言う人がいた。


 物価を下げるため輸入を増やすべきだと言う人がいた。


 会議では、誰もが理路整然としていた。


 誰もが、自分の分野では正しかった。


 先生はその意見を聞き、党として何を優先するか決めなければならなかった。


 ある会議で、若い議員が言った。


「全部やればいいじゃないですか。」


 先生は尋ねた。


「財源は。」


「無駄を削ればいい。」


「どの無駄です。」


「官僚機構です。」


「官僚を減らして、誰が制度を実施するんです。」


「デジタル化すれば。」


「システムを作る人と、保守する人は。」


「民間に任せればいい。」


「費用は。」


 若い議員は少し黙った。


「峰岸さんまで、できない理由を並べるんですか。」


 その言葉に、部屋が静かになった。


 先生は怒らなかった。


「そう聞こえますか。」


「私たちは、できないと言う既存政治を変えるために来たんでしょう。」


「できると言えば、できるわけではありません。」


「でも、国民は待っています。」


「何を。」


「変化をです。」


「どの変化です。」


「日本が良くなることです。」


 先生は長く黙った。


「良くなるとは、誰にとってですか。」


 若い議員は答えなかった。


 私は、その会議を撮影していなかった。


 公開されていれば、大きく拡散されたと思う。


 若い改革派議員に、現実論を並べる峰岸。


 ある支持者は、先生が成長したと言うだろう。


 別の支持者は、先生が変節したと言うだろう。


 どちらの動画も作れた。


 同じ映像から。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ