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こえ  作者: 水川かずみ
先生と私
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5/18

 私は先生の墓参りについて知りたくなった。


 知りたいと思ったことを、私はあまり恥じなかった。


 政治家の過去を知ることは、動画を作る上で必要だと思ったからである。先生がなぜ政治家になり、何を信じ、誰の言葉を背負っているのか。それを知らずに、意味を変えない編集などできない。


 私はそのように、自分の好奇心を説明した。


 ある月の命日前日、私は先生に同行を頼んだ。


「なぜです。」


「先生を知りたいからです。」


「動画にしますか。」


「しません。」


「では、必要ありません。」


「先生は、私にどう変えたか分かっていてほしいと言いました。」


「言いました。」


「そのためには、先生を知る必要があります。」


「私を知れば、映像の意味が一つに決まるんですか。」


「少なくとも、近づけます。」


「何に。」


「先生の意図に。」


 先生は少し黙った。


「政治家の意図を伝えるのが、あなたの仕事ですか。」


「違うんですか。」


「政治家がしたことを伝えるのではなく。」


「意図がなければ、したことの意味も分かりません。」


「意図は、後からいくらでも作れます。」


 先生は窓辺へ歩いた。


「人は、自分がしたことを説明するために、自分の過去を並べ替えます。最初から今の自分になるつもりだったように。」


「先生もですか。」


「私が一番そうです。」


 その言葉に、私は期待した。


 先生が自分の過去を話すような気がした。


 しかし先生は話さなかった。


「墓参りには連れて行けません。」


「なぜです。」


「桐谷は、あなたに見られるために死んだのではないからです。」


 私は何も言えなかった。


 死んだ。


 私は、桐谷が亡くなっていることをその時初めてはっきり知った。


「いつですか。」


「もう十年以上前です。」


「病気で。」


 先生は私を見た。


「それを知って、どうします。」


「どうもしません。」


「では、知らなくていい。」


「先生は、桐谷さんの言葉を額に飾っています。」


「そうです。」


「奈緒さんも知っている。」


「そうです。」


「先生が毎月墓参りをしていることも。」


「そうです。」


「それなのに、関係がないんですか。」


「誰が。」


「奈緒さんが。」


 先生の顔から、表情が消えた。


「水野さん。」


「はい。」


「あなたは動画を作る時、関係のないものをつなげますか。」


「意味があると思えば。」


「意味があるかどうかは、誰が決めるんです。」


「私です。」


「そうでしょう。」


 先生は静かに言った。


「あなたは今も、同じことをしています。」


 私は恥ずかしくなった。


 桐谷という死者、毎月の墓参り、奈緒さんの封筒、先生の拒絶。


 私はそれらを一つの物語にしようとしていた。


 まだ何も知らないのに。


「すみません。」


「謝らなくていい。」


 先生はまたそう言った。


「人は、ばらばらのものに耐えられません。だからつなげます。原因と結果、被害者と加害者、正義と悪。動画だけではない。政治も同じです。」


「先生も、つなげるんですか。」


「それが仕事です。」


「では、なぜ私を責めるんです。」


「責めていません。」


「同じことをしているのに。」


「同じだから、怖いんです。」


 先生は机へ戻った。


「いつか話します。」


「桐谷さんのことを。」


「私のことをです。」


「いつですか。」


「私が、話しても誰も救えないと思えた時です。」


 私はその言葉を理解できなかった。


 話すことで人を救うのが、政治家だと思っていたからである。

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