↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
PR
45/48

二十八

 明け方近く、先生が見つかった。


 海ではなかった。


 山でもなかった。


 先生は、桐谷の墓地の近くにある小さな公園のベンチに座っていた。


 意識はあった。


 所持品も持っていた。


 薬も、刃物もなかった。


 ただ、長時間外にいたため、身体が冷えていた。


 警察から連絡が入った時、事務所にいた全員が立ち上がった。


 奈緒さんは、その場に座り直した。


「生きている。」


 小川さんが言った。


「はい。」


 奈緒さんは両手で顔を覆った。


 泣いているようには見えなかった。


 長い間、その姿勢のままだった。


 私は、安心した。


 同時に、困った。


 先生の記録は、遺書ではなくなった。


 先生は生きている。


 なら、本人へ返せばいい。


 公開するか、破棄するか、奈緒さんへ見せるかも、先生が決められる。


 私は判断しなくて済む。


 そう思った。


 私は、自分が安堵した理由に気付き、また恥じた。


 先生は病院へ運ばれた。


 私たちは向かおうとした。


 警察から、家族以外は待つように言われた。


 奈緒さんだけが出て行った。


 事務所には、私と小川さんたちが残った。


 朝の光が窓から入ってきた。


 机の上には、選挙資料や国会質問の原稿が積まれていた。


 先生が死のうとしたかどうかは、まだ分からなかった。


 記録には死ぬと書いてあった。


 けれど、先生は何も持たず、墓地の近くに座っていただけだった。


 死ねなかったのか。


 最初から死ぬつもりはなかったのか。


 見つけてほしかったのか。


 ただ桐谷の墓へ行ったのか。


 私は理由を求めた。


 しかし先生はまだ話せない。


 小川さんが、預けていた端末を返した。


「データの複製を取りました。」


「警察が。」


「はい。」


「事務所にも。」


「先生の許可を確認してからです。」


 私は端末を受け取った。


 先生の記録は、そこに残っていた。


「消した方がいいですか。」


 私は尋ねた。


「私に聞かないでください。」


 小川さんは言った。


 その声に疲れがあった。


「先生が戻ったら。」


「先生に聞けばいい。」


「はい。」


「でも。」


 小川さんは、額の言葉を見た。


「先生が決めれば、それで終わると思わないでください。」


 人は、自分の言葉でしか、責任を負えない。


 その下に、桐谷の言葉の前半はなかった。


「小川さんは、桐谷さんを知っていたんですか。」


「少し。」


「どんな人でした。」


 小川さんは私を見た。


「今、それを聞いて何に使うんです。」


 私は答えなかった。


「あなたは、本当に先生によく似ていますね。」


 小川さんは言った。


 私は、それを褒め言葉として受け取れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。