二十四
私は、電車の中で最後まで読んだ。
窓の外は暗かった。
途中の駅を過ぎるたび、車内には人が増え、また減った。
誰も、私が何を読んでいるか知らなかった。
父からは、何度も着信があった。
母からもあった。
病院からの番号もあった。
私は一度も出なかった。
先生の記録を読まなければならないと思っていた。
なぜなら、先生が私に送ったからだった。
なぜ私に送ったのか。
その答えも、記録の中にあると思った。
けれど最後まで読んでも、分からなかった。
先生は、私が自分に似ていると書いた。
それは本当かもしれなかった。
先生がそう書いたから、そう思っただけかもしれなかった。
私は、父の端末に残っていた動画を思い出した。
政府、答えられず。
完全論破。
日本には力がある。
政治が生かしていない。
私が作った言葉だった。
先生が言った言葉でもあった。
父が信じた言葉でもあった。
誰の言葉だったのだろう。
電車が東京へ近づいた。
小川さんからメッセージが届いた。
先生が見つかりません。
奈緒さんと警察が動いています。
記録を外部へ出さないでください。
続けて、母から届いた。
お父さんが、あなたと話したいと言っています。
私は二つの画面を見た。
先生の記録。
父の言葉。
どちらも、私へ向けられていた。
私は先生の事務所へ向かっていた。
先生を救うためだと、自分に言い聞かせていた。
しかし先生自身は、来るなと書いていた。
私は真実を確かめるために向かっているのかもしれなかった。
動画を作る者として、この記録をどう扱うか判断するためかもしれなかった。
先生の最後を、自分だけが知ることになるという思いに引かれていたのかもしれなかった。
父から逃げていたのかもしれなかった。
私は、どれも否定できなかった。
東京駅に着く直前、父から音声メッセージが届いた。
再生するか迷った。
先生の記録には、声は言葉になる前のものだと書かれていた。
私は再生した。
父の息が聞こえた。
しばらく、何も言わなかった。
後ろで機械の音がしていた。
「お前。」
父は言った。
また、長く黙った。
「帰ってきたら、話そう。」
それだけだった。
私は、先生が桐谷へ送った言葉を思い出した。
落ち着いたら話そう。
私は、父へ返信しようとした。
すぐ戻る。
待っていて。
話そう。
どの言葉も、誰かが使ったことのある言葉だった。
私は入力欄を閉じた。
何も送らなかった。
電車が駅へ入った。
大勢の人が立ち上がった。
私も立った。
端末には、先生の記録が開いたままだった。
最後の一文が見えていた。
切った外に、何が残ったかを忘れないでください。
私は画面を閉じた。
扉が開いた。
人の流れが、私を外へ運んだ。




