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こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
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二十三

 最後に、額の言葉について書きます。


 人は、自分の言葉でしか、責任を負えない。


 あれは桐谷の言葉です。


 正確には、彼の研究ノートに書かれていた一文です。


 前後には、こうありました。


 他者の経験を代表する者は、その経験を自分の言葉へ変換しなければならない。しかし、自分の言葉へ変えた瞬間、それは他者の経験ではなくなる。


 それでも、人は自分の言葉でしか責任を負えない。


 私は、後半だけを額に入れました。


 長過ぎたからです。


 意味を明確にしたかったからです。


 国会議員としての信条に見えたからです。


 私は、桐谷の言葉を最後まで切りました。


 水野さん。


 あなたが私の記録を使うなら、全部を出す必要はありません。


 全部を出しても、全部は伝わりません。


 切ってください。


 ただ、どこを切ったかを覚えていてください。


 切った外に、何が残ったかを忘れないでください。


 それだけが、私からあなたへ言えることです。


 私はこれから、奈緒へ短い手紙を書きます。


 彼女には、桐谷のことを書きません。


 それが優しさなのか、最後の逃避なのか、私には分かりません。


 あなたには、判断しないでほしい。


 しかし、あなたは判断するでしょう。


 人は、そうせずにはいられないからです。


 峰岸修司

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