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こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
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37/48

二十

 水野さん。


 あなたは、なぜ私の動画を作るのですか。


 最初に尋ねた問いを、もう一度書きます。


 政治を若い人へ届けたいから。


 国会を身近にしたいから。


 真実を知らせたいから。


 仕事だから。


 再生されるから。


 どの答えも、嘘ではないでしょう。


 しかし、そのどれも、あなた自身を完全には説明しません。


 人は、自分の行為に理由があると思いたがります。


 理由がなければ、自分が空っぽに感じられるからです。


 けれど、理由の多くは後から作られます。


 私は国民の声を届けるために政治家になった。


 奈緒を救うために制度を変えた。


 桐谷の知識を生かすために原稿を使った。


 日本を変えるために断言した。


 それらは全て本当です。


 同時に、私は自分の言葉を奪った者へ勝ちたかった。


 注目されたかった。


 奈緒に選ばれたかった。


 桐谷より現実を動かせる人間だと思われたかった。


 支持者に必要とされたかった。


 自分が空っぽではないと確かめたかった。


 どれが本当の理由なのか。


 今の私には、決められません。


 人の中に、一つの本当の声があるという考え自体が、間違っているのかもしれません。


 それでも政治家は、自分の声で話しているように見せなければなりません。


 有権者は、誰かの中に一つの意志があると信じなければ、選べないからです。


 私は、多くの人の資料を読みました。


 専門家の意見を聞きました。


 当事者の声を聞きました。


 職員が原稿を書きました。


 広報が言葉を短くしました。


 あなたが映像を切りました。


 推薦の仕組みが、それを必要とする人へ届けました。


 そして国民は、私の言葉を聞いたと思いました。


 では、私はどこにいたのでしょう。


 私は、他人の言葉を選んだ。


 その選択こそが、私だと言うこともできます。


 けれど私は、選んだ責任を、


 専門家が言っている。


 当事者が求めている。


 国民の声である。


 と返し続けました。


 私は、自分の中身がなかったのではありません。


 自分の中身として引き受けることを避け続けたのです。


 それが、私の空洞です。

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