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こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
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35/48

十八

 私が死のうと決めた理由を、あなたは政治的な事件に求めるでしょう。


 実際、きっかけはありました。


 私たちが支持した制度変更の後、重大な被害が起きました。


 制度だけが原因ではありません。


 行政の運用。


 現場の人員不足。


 予算。


 家族の判断。


 本人の状態。


 複数の要因が重なっていました。


 第三者委員会は、特定の個人に重大な過失はないと結論付けました。


 制度設計上の改善点はある。


 しかし当時の情報では、結果を予見することは困難だった。


 それが報告書の結論でした。


 私は記者会見で言いました。


「責任の所在については、第三者による検証結果を踏まえ、組織として必要な対応を取ります。」


 その言葉を口にした瞬間、私は桐谷を思い出しました。


 私はまた、適切な言葉を使っていました。


 誰も誤っていない。


 誰も直接殺していない。


 誰も責任を負わなくてよいように、責任を正しく分配する言葉です。


 私は、制度を作った。


 専門家の意見を聞いた。


 当事者の声を聞いた。


 議会で審議した。


 反対意見も記録した。


 手続きを踏んだ。


 それでも人が死んだ。


 私は、今度こそ自分が責任を負わなければならないと思いました。


 しかし、何について責任を負うのか、言えませんでした。


 制度を作ったことか。


 優先順位を決めたことか。


 反対意見を退けたことか。


 被害を予見できなかったことか。


 政治家になったことか。


 桐谷の言葉を使い続けたことか。


 自分が誰の言葉を話しているか分からないまま、国民の前に立ち続けたことか。


 私は、謝罪文を書きました。


 何度書いても、誰かが作った言葉になりました。


 深くお詫び申し上げます。


 重く受け止めています。


 再発防止に努めます。


 説明責任を果たします。


 全て、私が過去に批判してきた言葉でした。


 しかし、他に言葉がありませんでした。


 私は、ついに自分の言葉を見つけられませんでした。

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