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十三
奈緒には、桐谷の文書の最後の一行を見せませんでした。
引継ぎの内容だけを伝えました。
「私たちのことは。」
奈緒が尋ねました。
「書いていない。」
「何も。」
「何も。」
奈緒は泣きました。
私は彼女を抱きました。
その時、彼女が誰のために泣いているのか、私は考えませんでした。
考えたくありませんでした。
葬儀の後、奈緒は結婚を延期しようと言いました。
私は反対しました。
「なぜ。」
「今、結婚するのは。」
「桐谷が死んだから、私たちは結婚してはいけないのか。」
「そういう意味じゃない。」
「では。」
「分からない。」
「分からないことで、全部を止めるのか。」
私は強く言いました。
「桐谷の死と、私たちの結婚を結び付けるのは、彼に失礼だ。」
奈緒は私を見ました。
私はまた、正しい言葉を使いました。
桐谷自身が何も書いていない以上、私たちが勝手に因果を作るべきではない。
彼の死を、自分たちの物語へ利用してはいけない。
私はそう説明しました。
その結果、私たちは予定どおり結婚しました。
世間から見れば、制度被害をともに乗り越えた当事者と政治家の結婚でした。
多くの人が祝福しました。
桐谷の名前を知る人は、ほとんどいませんでした。
私たちの物語から、彼だけが消えました。




