↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
PR
30/48

十三

 奈緒には、桐谷の文書の最後の一行を見せませんでした。


 引継ぎの内容だけを伝えました。


「私たちのことは。」


 奈緒が尋ねました。


「書いていない。」


「何も。」


「何も。」


 奈緒は泣きました。


 私は彼女を抱きました。


 その時、彼女が誰のために泣いているのか、私は考えませんでした。


 考えたくありませんでした。


 葬儀の後、奈緒は結婚を延期しようと言いました。


 私は反対しました。


「なぜ。」


「今、結婚するのは。」


「桐谷が死んだから、私たちは結婚してはいけないのか。」


「そういう意味じゃない。」


「では。」


「分からない。」


「分からないことで、全部を止めるのか。」


 私は強く言いました。


「桐谷の死と、私たちの結婚を結び付けるのは、彼に失礼だ。」


 奈緒は私を見ました。


 私はまた、正しい言葉を使いました。


 桐谷自身が何も書いていない以上、私たちが勝手に因果を作るべきではない。


 彼の死を、自分たちの物語へ利用してはいけない。


 私はそう説明しました。


 その結果、私たちは予定どおり結婚しました。


 世間から見れば、制度被害をともに乗り越えた当事者と政治家の結婚でした。


 多くの人が祝福しました。


 桐谷の名前を知る人は、ほとんどいませんでした。


 私たちの物語から、彼だけが消えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。