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こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
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25/48

八

 私と奈緒が結婚したのは、初当選から一年後でした。


 交際を始めた時期については、今も正確に書けません。


 私たちは、いつから恋人だったのかを確認したことがありません。


 奈緒の活動を手伝い、二人で各地へ行き、深夜まで資料を作り、互いの家へ出入りするようになりました。


 ある時、私は奈緒に、結婚しようと言いました。


 彼女は驚きませんでした。


「桐谷さんには話したの。」


 最初にそう尋ねました。


「なぜ、桐谷に話す必要がある。」


「ずっと一緒にやってきたから。」


「私たちの結婚と、仕事は別だ。」


 奈緒は少し考えました。


「そうね。」


 それだけでした。


 しかし私は、その日のうちには桐谷へ話しませんでした。


 翌日も話しませんでした。


 話す機会がなかったわけではありません。


 私は、彼がどう受け取るかを考えていました。


 驚くだろう。


 奈緒との仕事に影響が出るかもしれない。


 選挙区や事務所へ漏れれば、政治利用だと批判されるかもしれない。


 適切な時期に、適切な方法で伝えるべきだ。


 私はそう考えました。


 どれも、もっともな理由でした。


 しかし本当は、私は桐谷に言いたくなかったのです。


 なぜ言いたくなかったのか。


 その答えを、私はすでに知っていたのだと思います。


 桐谷は奈緒を愛していました。


 そのことを、彼自身から聞く前から、私は知っていました。

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