八
私と奈緒が結婚したのは、初当選から一年後でした。
交際を始めた時期については、今も正確に書けません。
私たちは、いつから恋人だったのかを確認したことがありません。
奈緒の活動を手伝い、二人で各地へ行き、深夜まで資料を作り、互いの家へ出入りするようになりました。
ある時、私は奈緒に、結婚しようと言いました。
彼女は驚きませんでした。
「桐谷さんには話したの。」
最初にそう尋ねました。
「なぜ、桐谷に話す必要がある。」
「ずっと一緒にやってきたから。」
「私たちの結婚と、仕事は別だ。」
奈緒は少し考えました。
「そうね。」
それだけでした。
しかし私は、その日のうちには桐谷へ話しませんでした。
翌日も話しませんでした。
話す機会がなかったわけではありません。
私は、彼がどう受け取るかを考えていました。
驚くだろう。
奈緒との仕事に影響が出るかもしれない。
選挙区や事務所へ漏れれば、政治利用だと批判されるかもしれない。
適切な時期に、適切な方法で伝えるべきだ。
私はそう考えました。
どれも、もっともな理由でした。
しかし本当は、私は桐谷に言いたくなかったのです。
なぜ言いたくなかったのか。
その答えを、私はすでに知っていたのだと思います。
桐谷は奈緒を愛していました。
そのことを、彼自身から聞く前から、私は知っていました。




