七
私が当選した後、最初に取り上げたのは、奈緒の関わった制度でした。
桐谷が質問原稿を作りました。
資料は十分にありました。
制度改正後も、運用が徹底されていない地域がある。
本人の理解確認が形式化している。
支援者の同席を認めない事例が残っている。
政府も、一定の問題を認めざるを得ない内容でした。
ただし桐谷は、質問原稿の冒頭に、こう書いていました。
制度改正後の運用実態について、全国的な傾向を示す十分な調査は存在しない。以下は限定的な事例に基づく指摘である。
私は削りました。
質問時間が短かったからです。
国会で私は、大臣に尋ねました。
「制度を変えたはずなのに、今も全国で同じ被害が起きています。政府は、いつまで当事者を見捨てるのですか。」
大臣は、全国的な実態は把握していないと答えました。
私は言いました。
「把握していないこと自体が問題なんです。」
その場面が動画になりました。
大きく拡散されました。
国会で初めて、私は自分の言葉が直接国民へ届いたと感じました。
テレビではない。
新聞でもない。
誰にも切られず、自分が言ったことが、そのまま広がっていく。
私は興奮していました。
後日、桐谷が言いました。
「全国で同じ被害という根拠はない。」
「全国から相談は来ている。」
「同じ原因とは確認できていない。」
「政府も把握していない。」
「政府が把握していないことは、お前が断言していい理由にならない。」
「問題を可視化するためだ。」
「見えないものを、見える形に作っただけだ。」
「結果として調査が始まった。」
「それで、断言が正しくなるのか。」
「調査すらしなかった政府よりはいい。」
桐谷は黙りました。
その沈黙を、私は敗北だと思いました。




