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こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
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24/48

七

 私が当選した後、最初に取り上げたのは、奈緒の関わった制度でした。


 桐谷が質問原稿を作りました。


 資料は十分にありました。


 制度改正後も、運用が徹底されていない地域がある。


 本人の理解確認が形式化している。


 支援者の同席を認めない事例が残っている。


 政府も、一定の問題を認めざるを得ない内容でした。


 ただし桐谷は、質問原稿の冒頭に、こう書いていました。


 制度改正後の運用実態について、全国的な傾向を示す十分な調査は存在しない。以下は限定的な事例に基づく指摘である。


 私は削りました。


 質問時間が短かったからです。


 国会で私は、大臣に尋ねました。


「制度を変えたはずなのに、今も全国で同じ被害が起きています。政府は、いつまで当事者を見捨てるのですか。」


 大臣は、全国的な実態は把握していないと答えました。


 私は言いました。


「把握していないこと自体が問題なんです。」


 その場面が動画になりました。


 大きく拡散されました。


 国会で初めて、私は自分の言葉が直接国民へ届いたと感じました。


 テレビではない。


 新聞でもない。


 誰にも切られず、自分が言ったことが、そのまま広がっていく。


 私は興奮していました。


 後日、桐谷が言いました。


「全国で同じ被害という根拠はない。」


「全国から相談は来ている。」


「同じ原因とは確認できていない。」


「政府も把握していない。」


「政府が把握していないことは、お前が断言していい理由にならない。」


「問題を可視化するためだ。」


「見えないものを、見える形に作っただけだ。」


「結果として調査が始まった。」


「それで、断言が正しくなるのか。」


「調査すらしなかった政府よりはいい。」


 桐谷は黙りました。


 その沈黙を、私は敗北だと思いました。

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