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こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
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23/48

六

 選挙では、奈緒の話を前面に出しました。


 私が政治を志した原点。


 制度に見捨てられた家族。


 声を持たない人の声を国会へ。


 分かりやすい物語でした。


 それは嘘ではありませんでした。


 ただ、全てでもありませんでした。


 私は以前から、政治家になりたいと思っていたのかもしれません。


 テレビで自分の言葉を切られた時から。


 あるいは、弁護士になった時から。


 私は、自分が正しいと証明できる場所を求めていました。


 奈緒の体験は、その欲望に理由を与えました。


 桐谷は、選挙用の政策集を書きました。


 彼の原稿には、条件と留保が多く付いていました。


 段階的に実施する。


 地域差を考慮する。


 既存制度との整合が必要。


 短期的な財政負担が生じる。


 対象範囲について追加調査を要する。


 私はそれらを削りました。


 選挙公報に入らなかったからです。


 桐谷は文句を言いました。


「これでは、できることになっている。」


「できないことを書く選挙公報があるか。」


「できる条件を書け。」


「読まれない。」


「読まれないなら、約束するな。」


「約束しなければ、選ばれない。」


「選ばれてから、できないと言うのか。」


「できるようにする。」


「どうやって。」


「国会で動かす。」


 桐谷は私を見ました。


「お前は、国会に入れば、現実が言葉に従うと思っている。」


「言葉で動かすのが政治だ。」


「違う。動かした後に残るものを引き受けるのが政治だ。」


 私は、その言葉を選挙演説で使いました。


 現実を動かした後に残るものまで、私たちは引き受けます。


 拍手が起きました。


 桐谷は演説会場の後ろに立っていました。


 彼がどんな顔をしていたか、私は覚えていません。

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