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こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
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22/48

五

 私が政界へ入る話が出たのは、その頃でした。


 制度改正に関わった弁護士として、私は何度かテレビに呼ばれていました。


 以前のように、発言の一部だけを切られることもありました。


 しかし今度は、切られることを利用できるようになっていました。


 長い説明の中に、必ず一つ、短く抜き出せる言葉を置きました。


「制度上正しいことが、人間にとって正しいとは限りません。」


「説明したことと、伝わったことは違います。」


「自己責任は、選べる人にしか成立しません。」


 それらの言葉は、番組の予告に使われました。


 私は、自分の言葉を守るために、切られる言葉を自分で用意しました。


 ある政党から、立候補を勧められました。


 既存政治を変える。


 専門家と当事者の声を直接国会へ届ける。


 私には、その役割があると言われました。


 私は桐谷に相談しました。


「向いていると思うか。」


「向いている。」


 彼は言いました。


 意外でした。


「反対しないのか。」


「お前は、決めることに躊躇がない。」


「褒めているのか。」


「政治家には必要だ。」


「では、手伝ってくれるか。」


 桐谷は答えませんでした。


「お前の知識が必要だ。」


「私の知識か。」


「そうだ。」


「私ではなく。」


「何が違う。」


「今のお前には、分からないだろうな。」


 私は、また彼が難しいことを言っていると思いました。


「奈緒さんは、何と言っている。」


「賛成してくれている。」


「そうか。」


「お前も来い。」


「考える。」


 桐谷はそう答えました。


 数日後、彼は私の政策スタッフになることを承諾しました。


 その時の私は、友情が続いたと思いました。


 今は、桐谷が何を考えていたのか分かりません。


 私の近くにいれば、私が間違うのを止められると思ったのかもしれません。


 奈緒の近くにいたかったのかもしれません。


 あるいは、自分の知識が現実を動かす誘惑に、彼も勝てなかったのかもしれません。

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