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こえ  作者: 水川かずみ
先生と遺書
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21/48

四

 制度改正の後、奈緒は各地から講演に呼ばれるようになりました。


 私は彼女の資料作りを手伝いました。


 桐谷も、政策的な説明を補いました。


 三人でいる時間が増えました。


 奈緒は、話すたびに上手くなりました。


 最初は資料を見ながら、起きたことを順番に話していました。


 やがて、どこで間を置けば聞き手が集中するかを覚えました。


 どの言葉で拍手が起きるかも分かるようになりました。


 私はそれを成長だと思いました。


 桐谷は、少しずつ黙るようになりました。


 ある講演の帰り、彼は奈緒に言いました。


「最初の頃と、話が変わっている。」


 奈緒は顔を曇らせました。


「どこが。」


「弟さんが説明を受けた場面だ。最初は、説明内容を覚えていないと言っていた。」


「今も、内容は覚えていません。」


「今日の話では、職員が一方的に読み上げ、質問を遮ったことになっていた。」


「家族から、後で聞いたんです。」


「いつ。」


「最近です。」


「記録は。」


「ありません。」


「では、事実として話すべきではない。」


 奈緒は黙りました。


 私は言いました。


「本筋には影響しない。」


「本筋を強くするために、事実を足していいのか。」


「嘘だと決まったわけではない。」


「本当だと確認できてもいない。」


「桐谷。」


 奈緒が言いました。


「あなたは、私の話を信じていないんですか。」


 桐谷は、すぐには答えませんでした。


「信じることと、事実として扱うことは違う。」


 奈緒の目に涙が浮かびました。


「私たちは、ずっと、そう言われてきたんです。」


「分かっている。」


「分かっていません。」


「奈緒さん。」


「あなたは、何があっても、自分が傷つかない場所から見ています。」


 桐谷は何も言いませんでした。


 私は奈緒の肩を抱きました。


 桐谷の前で、初めてそうしました。


 彼は私たちを見ました。


 その時、私は桐谷の顔に何かを見たはずです。


 しかし、私は見なかったことにしました。


 奈緒を慰める方が重要だと思ったからです。

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