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こえ  作者: 水川かずみ
両親と私
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16/17

 東京へ戻ると、選挙後の仕事が待っていた。


 議席が増えたことで、先生の質問時間も増えていた。


 事務所には、以前より多くの資料が届いた。


 医師、研究者、事業者、患者、家族、被害者、支援者。


 誰もが、国会で取り上げてほしい問題を持っていた。


 私は、それらが動画になった時の形を想像した。


 強い数字があるか。


 当事者の言葉があるか。


 政府が答えにくい問いか。


 短い題名にできるか。


 以前より早く、判断できるようになっていた。


 そのことを、成長だと思えなかった。


 ある日、先生が新しい質問原稿を読んでいた。


 医療に関する内容だった。


「先生。」


「何です。」


「この質問、薬全体が危険だと受け取られませんか。」


 先生は原稿から顔を上げた。


「全体とは言っていません。」


「でも、切り抜かれたら。」


「あなたが切るんでしょう。」


「私だけじゃありません。」


「では、どうします。」


「誤解されないように、最初に対象を限定するとか。」


「質問時間が減ります。」


「でも。」


「水野さん。」


 先生は原稿を置いた。


「あなたは、誤解する人がいる限り、何も言わない方がいいと思いますか。」


「そうは言っていません。」


「では、どこまで配慮します。」


「分かりません。」


「私も分かりません。」


 先生は言った。


「ただ、問題があるなら問います。」


「誰かが別の治療まで危険だと思っても。」


「それを理由に、問題を黙りますか。」


「違います。」


「では。」


 私は答えられなかった。


「身近に、何かありましたか。」


 先生が尋ねた。


「父が、薬を少し減らしていて。」


「医師の指示で。」


「違います。」


「動画を見て。」


「たぶん。」


 先生は少し黙った。


「私の動画ですか。」


「含まれていると思います。」


「直接、その薬について話しましたか。」


「いいえ。」


「なら、私の責任ではないと言ってほしいですか。」


「そういう話では。」


「では、私の責任だと言ってほしい。」


「違います。」


「どちらでもない。」


「分かりません。」


 先生は私を見た。


「分からないまま、動画を作れますか。」


「仕事ですから。」


「また、それですか。」


 私は黙った。


「お父様へは、何と言いました。」


「医者に相談するように。」


「聞きましたか。」


「分かったとは。」


「信じていますか。」


 私は答えられなかった。


 先生は原稿へ目を戻した。


「私たちは、人がどう受け取るかを完全には決められません。」


「はい。」


「だから責任がないとは、私は言えません。」


「では、どうすれば。」


「分かりません。」


 先生はまた言った。


「少なくとも、分からないことを理由に、なかったことにはしない。」


 その言葉を、私は父のことだと受け取った。


 先生自身のことを言っていたのかもしれない。


 私はその日の夜、父へ電話をかけた。


 父は出なかった。


 母へかけると、


「寝てる。」


 と言った。


「薬は。」


「飲んでると思う。」


「思う。」


「いちいち見てないわよ。」


「病院には。」


「来月。」


「もっと早く行った方が。」


「本人に言って。」


「言ったよ。」


「なら、あとは本人が決めるでしょう。」


 母は疲れていた。


「何かあったら連絡して。」


「あんたも、少しは帰ってきたら。」


「仕事が。」


「お父さんより大事なの。」


 私は答えられなかった。


 母は、すぐに言い直した。


「そういう言い方はよくないね。」


「うん。」


「忙しいのは分かってる。」


「うん。」


「また連絡する。」


 電話が切れた。


 私は父の端末へ、


 体調、変わりない。


 と送った。


 既読は翌朝に付いた。


 返事はなかった。


 私は、問題がないという意味だと受け取った。

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