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こえ  作者: 水川かずみ
両親と私
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15/17

 東京へ戻る前の日、父と二人で買物へ行った。


 父は普段どおりだった。


 薬の話もしなかった。


 車の中で、先生の政党について尋ねた。


「専門家がたくさん入ったんだろ。」


「うん。」


「いいことじゃないか。」


「悪いことではないよ。」


「何か言いたそうだな。」


「専門家が集まっても、意見が同じとは限らない。」


「議論すればいい。」


「最後には、どれかを選ばないといけない。」


「選べばいい。」


「選ばれなかった方は、専門的には正しいかもしれない。」


「だから政治家が決めるんだろ。」


 父は言った。


「峰岸先生みたいな人が。」


「先生も迷ってる。」


「動画では迷ってない。」


「動画だから。」


「なら、本当は違うのか。」


 父は私を見た。


「先生は、本当は何を考えてる。」


「分からない。」


「近くにいるのに。」


「近くにいるから、分からないこともある。」


「そういうものか。」


 父は前を向いた。


 しばらく黙って運転した。


「でも、俺は期待してるぞ。」


「何を。」


「変わることを。」


「何が。」


「何かが。」


 父は笑った。


 その答えを、私は空虚だと思った。


 何を変えたいかも分からず、変化だけを期待している。


 けれど、私も同じだった。


 先生の近くにいれば、何かが変わると思っていた。


 政治が。


 日本が。


 自分が。


 何がどう変わるのか、私は一度も決めていなかった。


「父さん。」


「何だ。」


「薬は飲んで。」


「またそれか。」


「少なくとも、医者に相談するまでは。」


「分かった。」


「本当に。」


「分かったと言ってる。」


 父は面倒そうに答えた。


 私は、それ以上確認しなかった。


 確認すれば、また争いになる。


 父も分かったと言った。


 私は、その言葉を信じることにした。


 駅で車を降りる時、父が言った。


「日本を変えてくれよ。」


「私が変えるわけじゃない。」


「先生を手伝ってるんだろ。」


「動画を作ってるだけだよ。」


「それでもだ。」


 父は手を上げた。


 私は同じように手を上げた。


 電車の中で、先生の過去の動画を見直した。


 政府の隠蔽。


 専門家の利益。


 当事者の声。


 自己決定。


 自分で考えること。


 父がどこから何を受け取ったのか、分からなかった。


 一本の動画ではない。


 一つの言葉でもない。


 見たものが少しずつつながり、父の中で一つの考えになった。


 それを、父自身の考えではないとは言えなかった。


 私たちが与えたとも言えなかった。


 私は父に、医師へ相談したかとメッセージを送ろうとした。


 入力欄に、


 薬、ちゃんと飲んで。


 と書いた。


 命令しているように見えた。


 消した。


 病院、行った。


 と書いた。


 監視しているように見えた。


 それも消した。


 結局、何も送らなかった。


 父からも、連絡はなかった。

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