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こえ  作者: 水川かずみ
両親と私
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14/17

 父は、以前から血圧と腎臓の治療を受けていた。


 大きな病気ではないと、私は思っていた。


 薬を飲み、定期的に検査を受けていればよい。


 父自身も、そう言っていた。


 ところが、その帰省中、母が私に小声で言った。


「お父さん、薬を減らしてるみたい。」


「医者に言われて。」


「自分で。」


「何で。」


「薬ばかり飲むと、かえって悪くなるって。」


 私は父に尋ねた。


「薬、飲んでないの。」


「飲んでる。」


「全部。」


「必要な分は。」


「誰が決めたの。」


「俺だよ。」


「医者じゃなくて。」


「自分の身体だぞ。」


「だからって勝手に。」


「医者の言うことが全部正しいのか。」


 前にも聞いた言葉だった。


「少なくとも、父さんよりは知ってる。」


「医者も間違う。」


「間違うことはあるよ。」


「政府も専門家も、都合の悪いことは言わない。」


「それ、どこで見たの。」


「いろいろだ。」


「先生の動画。」


「峰岸先生も言ってるだろ。」


「先生は、薬をやめろなんて言ってない。」


「そんなことは分かってる。」


「分かってないから、やめてるんだろ。」


 父の顔が変わった。


「お前は、何でも動画のせいにするのか。」


「実際、見て決めたんだろ。」


「前から疑問だった。」


「何が。」


「薬を増やすばかりで、よくなってる感じがしない。」


「だから医者に相談すればいい。」


「相談したら、飲めと言うに決まってる。」


「当たり前だろ。」


「話にならん。」


 父は立ち上がった。


「自分で考えるのが大事なんじゃなかったのか。」


「誰が言ったの。」


「お前たちだよ。」


 父は言った。


「政府の言うことをそのまま信じるな。専門家にも利害がある。数字の裏を見ろ。自分で判断しろ。」


「それは、何でも疑えって意味じゃない。」


「都合がいいな。」


「父さん。」


「自分で考えろと言っておいて、自分と違う答えを出したら間違いか。」


 私は何も言えなかった。


 先生の動画で、政府の安全説明を批判した。


 専門家の利益相反を扱った。


 行政が副作用報告を十分に公表していないと追及した。


 どれも、父の治療とは別の話だった。


 けれど、父は別だと思わなかった。


 私は、別だと説明できなかった。


 違う制度。


 違う薬。


 違う危険性。


 違う根拠。


 詳しく説明すればできたかもしれない。


 しかし、私はその分野の専門家ではなかった。


 先生も違った。


 私たちは、担当者が作った資料を基に、政府へ問いを投げていただけだった。


「今度、医者に一緒に聞こう。」


 私は言った。


「子ども扱いするな。」


「してない。」


「自分の身体くらい、自分で決める。」


 父は部屋を出た。


 母が、台所から私を見ていた。


「強く言い過ぎた。」


「でも、薬は。」


「私からも言ってる。」


「なら、何で。」


「言えば聞くと思ってるの。」


 母は言った。


「お父さんは、あんたに説得してほしかったんじゃないの。」


「私が言っても聞かない。」


「説得じゃなくて。」


「何。」


「聞いてほしかったんじゃないの。」


「何を。」


「薬を飲みたくない理由を。」


 私は、父の言葉を思い返した。


 よくなっている感じがしない。


 相談しても飲めと言われる。


 自分の身体は自分で決めたい。


「聞いたよ。」


「間違いを探しながらでしょう。」


 母は言った。


 私は返事をしなかった。

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