三
翌朝、父は新聞を読みながら言った。
「今度の選挙で、もっと議席が増えたら変わるか。」
「何が。」
「日本が。」
「分からない。」
「先生は何て言ってる。」
「変えるって。」
「なら、変わるんだろ。」
「そう簡単じゃない。」
「またそれか。」
父は新聞を畳んだ。
「お前たちは、できると言って選挙を戦ったんじゃないのか。」
「私は戦ってない。」
「動画を作った。」
「それで政策を決めたわけじゃない。」
「でも、できるように見せたんだろ。」
父の言葉に、私は詰まった。
「見せたつもりはない。」
「じゃあ、何を見せた。」
「先生が言ったこと。」
「そのまま。」
「短くして。」
「なら、そのままじゃない。」
父は笑った。
「俺でも分かるぞ。」
私は少し腹が立った。
「短くしないと、誰も見ないんだよ。」
「俺は見た。」
「短いから。」
「なら、短くして正解だろ。」
「でも、短くすると意味が変わることがある。」
「変えたのはお前だろ。」
父は簡単に言った。
責めている様子はなかった。
ただ、事実を言っただけだった。
「仕事だから。」
私は言った。
「仕事なら、仕方ないのか。」
「仕方ないとは言ってない。」
「じゃあ、何だ。」
「分からない。」
父は新聞を開いた。
「先生みたいだな。」
その言い方に、少し皮肉があった。
私は居間を出た。
母が廊下で洗濯物を畳んでいた。
「あんた、昔からお父さんと話すと、勝とうとするね。」
「勝ってない。」
「勝てなかったから、怒ってるの。」
「そういう話じゃない。」
「じゃあ、どういう話。」
私は答えなかった。
母は畳んだ衣類を重ねた。
「峰岸先生って、そんなに偉い人なの。」
「偉いかどうかは。」
「お父さんは、すごい人だと思ってる。」
「分かってる。」
「あんたも。」
「私は近くで見てるから。」
「だから、すごくないと思うの。」
「違う。」
「じゃあ。」
「分からない。」
母は手を止めた。
「分からないのに、動画は作れるの。」
「正しいかどうかを決める仕事じゃないから。」
「何を決めるの。」
「どこを使うか。」
「それは、正しいかどうかと違うの。」
私は、もう話したくなかった。
「仕事の話だから、簡単には説明できない。」
母は少し笑った。
「便利ね、それ。」
先生も私に、便利な言葉ですねと言った。
私は、家に帰っても同じことを言われていた。




