二
家へ着くと、居間のテレビで動画が流れていた。
日本のある製品が、海外で高く評価されたという内容だった。
外国人らしい人物が驚き、日本の技術を称賛していた。
画面の下には、
世界が驚愕。
日本だけが持つ奇跡の技術。
と大きく出ていた。
「これ、本当なの。」
私が尋ねると、父は鞄を置きながら言った。
「全くの嘘ではないだろ。」
「全くの嘘じゃなければいいの。」
「お前の動画だって同じじゃないのか。」
私は父を見た。
「同じじゃない。」
「何が違う。」
「国会中継は元の映像がある。」
「これも元の映像はあるだろ。」
「どこで撮ったか分からないし、誰なのかも分からない。」
「峰岸先生が出してる数字だって、俺には分からん。」
「出典は付けてる。」
「見たことない。」
「説明欄に。」
「そこまで見ない。」
父は座布団へ座った。
「でも、嘘なら誰かが言うだろ。」
「言ってるかもしれない。」
「なら、そっちも動画にすればいい。」
「反論は伸びないんだよ。」
口にしてから、言わなければよかったと思った。
父は笑った。
「お前も分かってるんじゃないか。」
「何を。」
「みんな、見たいものを見るんだろ。」
「だからって。」
「俺は面白いから見てるだけだ。」
父はそう言った。
けれど、その夜の食卓で、日本の製造業は本来なら世界一だと話した。
政治が余計なことをしなければ、日本はもっと豊かだったとも言った。
「さっきの動画の話。」
私が尋ねると、
「他でも言ってる。」
と答えた。
「どこで。」
「いろいろだ。」
「いろいろって。」
「専門家も言ってる。」
「誰。」
父は端末を取り出した。
履歴を探し始めた。
私は止めた。
「いいよ。」
「何だ。」
「名前を聞いても、私も知らないと思うから。」
父は少し不満そうだった。
「お前は、峰岸先生のところにいるのに、そういうことは知らんのか。」
「先生だって、全部知ってるわけじゃない。」
「でも、国会では全部答えてるじゃないか。」
「質問してるんだよ。」
「政府より詳しい。」
「分野による。」
「医療も、農業も、経済も。」
「担当者がいる。」
父は箸を止めた。
「先生が考えてるんじゃないのか。」
「最後は先生が決めるけど、資料を作る人は別にいる。」
「何だ。」
父の声から、わずかに熱が引いた。
「普通だよ。政治家が全部一人で調べるわけじゃない。」
「でも、話してるのは先生だろ。」
「そうだよ。」
「なら、先生の言葉じゃないか。」
父はそう言った。
私は、先生の事務所に飾られた紙を思い出した。
人は、自分の言葉でしか、責任を負えない。
「そうかもしれない。」
「何だ、その言い方。」
「別に。」
母は、私たちの話を黙って聞いていた。
食事が終わった後、台所で皿を洗いながら言った。
「あんた、お父さんに意地悪ね。」
「何が。」
「知ってることを、小出しにして。」
「間違ってることを訂正しただけだよ。」
「何が間違ってたの。」
「先生が全部一人で考えてるわけじゃないってこと。」
「お父さんも、本気でそう思ってたわけじゃないでしょう。」
「思ってたよ。」
「そうかもしれないけど。」
母は皿を拭いた。
「嬉しかったんじゃないの。」
「何が。」
「あんたが、立派な人の近くで仕事してることが。」
「だからって、誤解したままでいいの。」
「誤解を直したかったの。」
母は私を見た。
「それとも、期待されたくなかったの。」
私は答えなかった。
「お父さん、あんたが帰るって聞いて、ずっと動画を見てたのよ。」
「何で。」
「話したかったんでしょう。」
「政治のことを。」
「あんたの仕事のことを。」
私は父が見ていた動画を思い出した。
先生が政府を追及する。
字幕が出る。
音楽が鳴る。
題名には、私が選んだ言葉が並ぶ。
父は、そこに私を見ていたのかもしれなかった。




