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こえ  作者: 水川かずみ
両親と私
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12/17

 家へ着くと、居間のテレビで動画が流れていた。


 日本のある製品が、海外で高く評価されたという内容だった。


 外国人らしい人物が驚き、日本の技術を称賛していた。


 画面の下には、


 世界が驚愕。


 日本だけが持つ奇跡の技術。


 と大きく出ていた。


「これ、本当なの。」


 私が尋ねると、父は鞄を置きながら言った。


「全くの嘘ではないだろ。」


「全くの嘘じゃなければいいの。」


「お前の動画だって同じじゃないのか。」


 私は父を見た。


「同じじゃない。」


「何が違う。」


「国会中継は元の映像がある。」


「これも元の映像はあるだろ。」


「どこで撮ったか分からないし、誰なのかも分からない。」


「峰岸先生が出してる数字だって、俺には分からん。」


「出典は付けてる。」


「見たことない。」


「説明欄に。」


「そこまで見ない。」


 父は座布団へ座った。


「でも、嘘なら誰かが言うだろ。」


「言ってるかもしれない。」


「なら、そっちも動画にすればいい。」


「反論は伸びないんだよ。」


 口にしてから、言わなければよかったと思った。


 父は笑った。


「お前も分かってるんじゃないか。」


「何を。」


「みんな、見たいものを見るんだろ。」


「だからって。」


「俺は面白いから見てるだけだ。」


 父はそう言った。


 けれど、その夜の食卓で、日本の製造業は本来なら世界一だと話した。


 政治が余計なことをしなければ、日本はもっと豊かだったとも言った。


「さっきの動画の話。」


 私が尋ねると、


「他でも言ってる。」


 と答えた。


「どこで。」


「いろいろだ。」


「いろいろって。」


「専門家も言ってる。」


「誰。」


 父は端末を取り出した。


 履歴を探し始めた。


 私は止めた。


「いいよ。」


「何だ。」


「名前を聞いても、私も知らないと思うから。」


 父は少し不満そうだった。


「お前は、峰岸先生のところにいるのに、そういうことは知らんのか。」


「先生だって、全部知ってるわけじゃない。」


「でも、国会では全部答えてるじゃないか。」


「質問してるんだよ。」


「政府より詳しい。」


「分野による。」


「医療も、農業も、経済も。」


「担当者がいる。」


 父は箸を止めた。


「先生が考えてるんじゃないのか。」


「最後は先生が決めるけど、資料を作る人は別にいる。」


「何だ。」


 父の声から、わずかに熱が引いた。


「普通だよ。政治家が全部一人で調べるわけじゃない。」


「でも、話してるのは先生だろ。」


「そうだよ。」


「なら、先生の言葉じゃないか。」


 父はそう言った。


 私は、先生の事務所に飾られた紙を思い出した。


 人は、自分の言葉でしか、責任を負えない。


「そうかもしれない。」


「何だ、その言い方。」


「別に。」


 母は、私たちの話を黙って聞いていた。


 食事が終わった後、台所で皿を洗いながら言った。


「あんた、お父さんに意地悪ね。」


「何が。」


「知ってることを、小出しにして。」


「間違ってることを訂正しただけだよ。」


「何が間違ってたの。」


「先生が全部一人で考えてるわけじゃないってこと。」


「お父さんも、本気でそう思ってたわけじゃないでしょう。」


「思ってたよ。」


「そうかもしれないけど。」


 母は皿を拭いた。


「嬉しかったんじゃないの。」


「何が。」


「あんたが、立派な人の近くで仕事してることが。」


「だからって、誤解したままでいいの。」


「誤解を直したかったの。」


 母は私を見た。


「それとも、期待されたくなかったの。」


 私は答えなかった。


「お父さん、あんたが帰るって聞いて、ずっと動画を見てたのよ。」


「何で。」


「話したかったんでしょう。」


「政治のことを。」


「あんたの仕事のことを。」


 私は父が見ていた動画を思い出した。


 先生が政府を追及する。


 字幕が出る。


 音楽が鳴る。


 題名には、私が選んだ言葉が並ぶ。


 父は、そこに私を見ていたのかもしれなかった。

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