一
選挙が終わってから、私は一度、故郷へ戻った。
母から、たまには顔を見せろと言われたのだ。
先生の事務所へ入ってから、私は以前より帰らなくなっていた。忙しかったこともある。けれど、帰れば何をしているのか説明しなければならないことの方が大きかった。
私は政治家ではない。
政策を作っているわけでもない。
国会で質問しているわけでもない。
ただ映像を切り、字幕を付け、題名を考えていた。
その仕事を、父と母にどう話せばよいか分からなかった。
母は、東京で映像の仕事をしていると思っていた。
父は、先生の広報をしていると思っていた。
どちらも間違いではなかった。
駅まで迎えに来た父は、私を見るなり言った。
「忙しい人が、よく帰ってきたな。」
「別に、そこまでじゃないよ。」
「先生、勝ったじゃないか。」
選挙のことだった。
「先生だけじゃない。」
「お前の動画も効いたんだろ。」
「分からない。」
「何だ。謙遜か。」
「本当に分からないんだよ。」
父は笑った。
「政治家みたいなことを言うな。」
私は返事をしなかった。
車の中で、父は先生の演説について話した。
日本には力がある。
政治が生かしていない。
失われた三十年を取り戻す。
専門家が政治へ入れば、言い逃れはできなくなる。
どれも、私が何度も編集した言葉だった。
「よく見てるね。」
「お前が作ってるんだから、見るだろ。」
「全部、私が作ったわけじゃないよ。」
「峰岸先生のは、お前だろ。」
「一部は。」
「いい仕事じゃないか。」
父は前を見ながら言った。
「今まで、国会なんて見ても何を言ってるか分からなかった。お前の動画なら分かる。」
私は、礼を言えばよいのか迷った。
「短くしてるから。」
「長けりゃいいってもんじゃない。」
「削ったところもある。」
「大事なところは残してるんだろ。」
父は、当然のように言った。
私は答えなかった。
「残してるんだろ。」
「大事だと思ったところは。」
「なら、いいじゃないか。」
父はそれで話を終えた。
私は窓の外を見た。
大事だと思ったところ。
誰にとって大事なのか。
何のために大事なのか。
父は尋ねなかった。
私も、自分には尋ねなかった。




