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魔女の仕掛け絵本ーRー  作者: 蜜りんご
第3章 洋館の魔女
15/20

4 ***

 魔女の部屋のクローゼットには、エンジ色のブレザーがひっそりと眠っていた。

 まだ人間の少女だった頃、魔女はその制服に腕を通し、挑戦者たちと同じ中学へ通っていた。


 両親は、ほとんど家には帰って来なかった。

 身の回りのことは、使用人がしてくれた。

 取り巻きはいたが、友達はいなかった。


 少女は人形を愛した。

 少女にはお気に入りの絵本があった。

 美しく孤独な魔女が王子に恋焦がれ、その心を欲し、策を弄したが空回るばかり。

 魔女は、王子と姫の結婚式に乗り込み、王子以外の人間を人形に変え、姫を追い出した。

 世界に残された人間は、魔女と王子の二人だけ。

 そうなれば、王子の心も……と夢を見たが、王子の心は変わらなかった。

 王子は、魔女には目もくれず、姫だけを求めた。

 手に入らないのならばいっそ……と、魔女は魔法で王子の(ハート)を抜き取り、自分の胸の中に取り込んだ。

 王子は空っぽの人形になった。

 美しいだけの人形になった。

 王子の笑顔が魔女に向けられることはない。優しく声をかけられることもない。

 それでも、魔女は満足した。

 望んでいた形とは違ったが、王子の身も心も手に入れた。

 望んでいた形とは違うけれど、だからこそ。

 もはや、姫にも奪い返せない。本当の意味で、元通りの王子を取り戻すことは出来ない。

 王子の心は、魔女の中。

 それは、魔女を満たしはしなかった。

 それでも、手放すつもりはなかった。

 魔女も王子も姫も。

 誰もが満たされない結末を魔女は選んだ。

 なのに、姫は。

 空っぽな王子を愛で満たした。

 空っぽだった王子に新しい心が育まれ。

 王子は、人間に生まれ変わった。

 新しい王子は、やっぱり魔女には目もくれず。

 ただ姫だけを求めた。

 満たされないのは、魔女一人だけだった。

 絵本の主人公は姫だったけれど、少女は魔女に惹かれた。

 本当に欲しいものは手に入れられなかった魔女。

 最後まで満たされなかった魔女。

 魔女の心を満たしてあげたかった。

 自分の心を満たしてほしかった。


 絵本の世界に飛び込んで、魔女の親友になりたかった。

 だけど、とすぐに思い直した。

 絵本の世界は、姫が主人公の世界。

 ならば、いっそ――――。


 手に入らないもののことなんて忘れて。自ら切り捨てて。

 その箱庭から飛び出してきて欲しいと願った。

 だって、彼女は魔女なのだから。

 その魔法の力で、境界線(絵本と現実の境)を飛び越え。

 箱庭(世界)の外へと、自らの力で――――。


 その願いが最高潮に達した、昼か夜。

 少女は世界の真理に触れた。

 救世の女神と持て囃され、破滅の魔女に貶められた女の祈りを垣間見た。


 少女は夢と片付け通り過ぎたりせず。

 呑まれて狂うこともなく。

 祈りに同調した。

 運命なのか。偶然なのか。


 少女は、魔女へと至った――――。


 運命なのか偶然なのかは、至ってしまえばどうでもいいことだった。


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