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魔女の部屋のクローゼットには、エンジ色のブレザーがひっそりと眠っていた。
まだ人間の少女だった頃、魔女はその制服に腕を通し、挑戦者たちと同じ中学へ通っていた。
両親は、ほとんど家には帰って来なかった。
身の回りのことは、使用人がしてくれた。
取り巻きはいたが、友達はいなかった。
少女は人形を愛した。
少女にはお気に入りの絵本があった。
美しく孤独な魔女が王子に恋焦がれ、その心を欲し、策を弄したが空回るばかり。
魔女は、王子と姫の結婚式に乗り込み、王子以外の人間を人形に変え、姫を追い出した。
世界に残された人間は、魔女と王子の二人だけ。
そうなれば、王子の心も……と夢を見たが、王子の心は変わらなかった。
王子は、魔女には目もくれず、姫だけを求めた。
手に入らないのならばいっそ……と、魔女は魔法で王子の心を抜き取り、自分の胸の中に取り込んだ。
王子は空っぽの人形になった。
美しいだけの人形になった。
王子の笑顔が魔女に向けられることはない。優しく声をかけられることもない。
それでも、魔女は満足した。
望んでいた形とは違ったが、王子の身も心も手に入れた。
望んでいた形とは違うけれど、だからこそ。
もはや、姫にも奪い返せない。本当の意味で、元通りの王子を取り戻すことは出来ない。
王子の心は、魔女の中。
それは、魔女を満たしはしなかった。
それでも、手放すつもりはなかった。
魔女も王子も姫も。
誰もが満たされない結末を魔女は選んだ。
なのに、姫は。
空っぽな王子を愛で満たした。
空っぽだった王子に新しい心が育まれ。
王子は、人間に生まれ変わった。
新しい王子は、やっぱり魔女には目もくれず。
ただ姫だけを求めた。
満たされないのは、魔女一人だけだった。
絵本の主人公は姫だったけれど、少女は魔女に惹かれた。
本当に欲しいものは手に入れられなかった魔女。
最後まで満たされなかった魔女。
魔女の心を満たしてあげたかった。
自分の心を満たしてほしかった。
絵本の世界に飛び込んで、魔女の親友になりたかった。
だけど、とすぐに思い直した。
絵本の世界は、姫が主人公の世界。
ならば、いっそ――――。
手に入らないもののことなんて忘れて。自ら切り捨てて。
その箱庭から飛び出してきて欲しいと願った。
だって、彼女は魔女なのだから。
その魔法の力で、境界線を飛び越え。
箱庭の外へと、自らの力で――――。
その願いが最高潮に達した、昼か夜。
少女は世界の真理に触れた。
救世の女神と持て囃され、破滅の魔女に貶められた女の祈りを垣間見た。
少女は夢と片付け通り過ぎたりせず。
呑まれて狂うこともなく。
祈りに同調した。
運命なのか。偶然なのか。
少女は、魔女へと至った――――。
運命なのか偶然なのかは、至ってしまえばどうでもいいことだった。




