8話 汚泥に塗れる希望
――って、いや……いやいやいやッ!!やっぱり魔物いるじゃないですかああーーーッ!!!
と叫びそうになり口を塞ぐ佐藤。何が魔物の類は出てこないですか、と思わず叫びそうになり深呼吸する。
「あ、ちょ……ちょっ」
そうしている間にずんずんと優星と織姫が奥へと進んでいく。
熱帯雨林のような木々の生い茂る景色。天井が高く、しかし空が広がる。洞窟の中なのに。
そう、この各層が全く別の異世界に通じていることこそ、ダンジョンの一番の特徴。
なのに、ふざけているのかからかっているのか、優星はここを洞窟といっていた。嘘のかけらもない、大真面目な顔で。
佐藤は言いたいことがたくさんありすぎて逆に何も言えないまま、腰の高さまで伸びた植物の葉を揺らし二人を追う。
「……ラッキーかも……」
「ん?」
織姫がぽつり呟き優星が反応する。
「この階層まで上がってきてる」
「ああ、チョコレートスティックの親玉か。確かにいるな……もしかして、あいつを駆除するのか?それが佐藤さんを送るのに必要?」
「そう。チョコレートスティックの親玉と、その子分たちの魔力を撚り合わせて佐藤を送る」
「……理屈はよくわからないし、どうでもいいけど、とりあえず呼び捨てはやめな?佐藤さんな?」
チョコレートスティック、親玉……?佐藤は更に混乱していく。と、そこでハッとする。
このメンバーで魔物と出くわしたら、どうするんだろう……と。
織姫もハッとする。チョコレートスティックの親玉仕留めるなら、配信しないと……と。
ついで優星もハッとする。家に鍵かけてきたっけ……と。
田舎だし、回り田んぼだらけだし、大丈夫だろう。泥棒なんてはいらないさ……優星はそう思いつつも、都会ぐらしが長かったため頭のなかにゆっくりと不安が広がっていく。
織姫はドローンを起動。どうせ転移させたらこの人間とはもうこれっきりだろ、バレやしない……とこっそり配信することを決めた。(っていうか、ふつーに1層出口から帰らせたらここのダンジョンの場所バレるとこだった……あぶなぁ(汗 )
「「「あ、ちょっと待って」」」
3人の言葉が重なる。綺麗なシンクロだった。
織姫はそのままスマホを操作し、急いでUouTubeのライブ配信をスタートさせるべくネットサーフィンと数多の論客とのレスバで磨いた指捌きを駆使し、素早くスマホをフリック&タップ。
優星は佐藤を先に喋らせるべく視線を向けた。
佐藤はここには魔物が存在していること、そして戦えるのが自分しかいないので、現れたらすぐに自分の後ろへ移動してくださいと指示しようとした。
その瞬間、背後から冷たい刺すような殺気。
――ガキィンーッ!!
空気を斬り裂いて飛んできた大鉈の斬撃、佐藤は杖で受け雑草の上を転がる。
そこにはリザードマンがいた。漆黒の頑強な鱗と平べったい頭部、長い首をゆっくりと動かし佐藤をみている。
「二人とも下がって!!近づくと死にますよ!!」
佐藤はヒーラーであり身を守る技術に長けている。今のように近接に狙われ攻撃されることも多いため、対処する訓練を多く積んでいる。
(……上手く、斬撃の力を逃したと思ったのに……!)
それでも、杖で受けた手が痺れていた。今の一撃で理解した。ここのリザードマンのレベルは、かなり高いことを。
立ち上がり杖を構える。魔力を通わせ、杖に刻まれた術式を発動。
薙刀のような魔力が杖の先から出現した。
ヒーラーも一人で戦わなければならない、こうした緊急時の為の武器と技術を持つ。
佐藤はなかでもなかなりのハイレベルな探索者。下手な近接シーカーよりも戦闘力は高い。
だが、その佐藤でも……。
(……これは、勝つことは出来ない……かも……)
ヒーラーが……いやヒーラーで無くても、ソロで勝てる魔物じゃない。そう考えた佐藤は、優星と織姫へにつたえる。
「……この魔物、かなり強いです。なので、逃げます」
「え?」
優星から間の抜けた声が漏れ出る。死線の真っ只中にいるこの状況に腑抜けた返事、しっかりしてと言わんばかりに佐藤が声を張り上げた。
「私が時間を稼ぐので、すぐに離れてください!!行って!!」
「!?、は、はいっ!!」
佐藤がリザードマンへと駆け出す。彼女が魔物と武器を撃ち合った数秒前、ドローンのカメラは既に起動し配信が開始されていた。
『なんぞなんぞ!?』
『急すぎて草』
『いきなりすぎるだろ予告しろよ!』
『ってかもう戦ってね?』
『戦闘中!!?』
『リザードマンじゃん』
『チョコレートスティックな』
『あれ?』
『無職くんじゃなくね?女?』
『ヒーラーだろこの白い戦闘服』
『ほんとだ』
『しかもこのデザインあれだろ有名なギルドの』
『え、まってこの顔』
『佐藤結じゃね』
『えええええ!?』
『可愛い』
『美人すぎるヒーラーの結ちゃん!?なんで!?』
『ナイトガーデンの凄腕やんけ』
『A級ヒーラーがなぜ?』
『無職くんとお友達なのか?』
『まっておかしい今ナイトガーデン配信してるんだぞボス戦』
『ほんとだメンバーに結花の名前あるw』
『なんでここに??』
『無職くんは?』
『あれ居なくね!?』
『邪神ちゃんもいないが?』
佐藤は杖を長く持ち、リザードマンとの距離を取るように牽制し振り回す。
大鉈の切っ先でそれを打ち払いリザードマンはじりじりと佐藤に寄っていく。
大きな頭を揺らしながら、ゆったりとした動きで、姿勢を低く老婆のように腰を屈め。
まだ、魔力が戻っていない――。
佐藤は歩きながらも少しずつ魔力を回復していたが、全快には程遠く……今の自分では走り逃げ切ることもできないかもしれない。そう、優星と織姫を逃したときどこかで感じていた。
目線だけで後方を確認。二人の姿は無い。逃げてくれたようだ、と安堵する。瞬間、リザードマンが切っ先を深く伸ばしてきた。
ギギ、と杖に擦れ歪な金切り音。それが佐藤の首筋へと触れ、上へと跳ね上げた。
ギリギリ、命は絶たれなかった。
転がり、距離をとる。後方にあった泥に白い衣服と顔を泥で汚し、素早く立ち上がりまた杖を差し向けた。
なぜか、追撃がこない。
追い打ちをかければ殺せるだろうこのタイミングで、リザードマンは距離を詰めるでもなく、再び大鉈を構えゆったりとした動きでこちらを見ている。
そこで気がつく。
前々からそうだった。ひとつの事に集中すると周りが見えなくなる、癖。
これまではパーティの仲間がいて何とかなっていた悪癖。
顔の泥を撫でる汗が落とす。
……死ぬ……。
いつの間にか近づいてきていた、リザードマンの群れ。斧や槍などの様々な得物を手に持ち、大鉈の個体同様じりじりと距離を詰めてくる。
『うわああやばいって!』
『どうすんのこれ』
『いや無職くん逃げろとは言われてたけども!』
『ガチで逃げてて草』
『え、逃げたの?』
『まあ、先行けと言われましたし』
『真面目www』
『笑ってる場合か殺されるぞおい』
『邪神ちゃんいねえし』
『結やばくね』
『さすがにヒラ1でリザードマンこの数無理だろ』
『40はおるでこれ』
『ヤバいヤバいヤバい』
「……は、はぁ、はぁ……ふ、は……っ」
恐怖に全身が震える。呼吸がまともに出来ない。涙がでてきた。
エリアボスに飲まれた時は一瞬で、頭が混乱していて、あまり実感はなかったけれど。
今、初めてリアルに感じる――明確な死の気配。
周囲にも誰もいない、頼れる仲間も、何もかも。
そうだ、仲間はもう助からない。
現実的に考えて、織姫ちゃんの言う通り……あの状況じゃ、どうにも……。
だから、私はこうなってどこか不思議と安心していた。
皆が戦死したのに……自分だけ生き残るなんて、きっと耐えられない。
(……最期に、誰かの為に命を使えてよかったな……)
シーカーとして、守れたから……これは、これで。私の命にも意味が、あったよ……ね。
リザードマンが襲いくる。大鉈を横へ一閃、それを杖で受け体ごと弾きとばされた。
杖はその弾みで彼方へ――もう、届かない。
そうして倒れ転がる佐藤の元へ屍肉へと、群がるハイエナのように巨躯の蜥蜴が這い寄ってきた。
ふと、
優星と織姫の顔が過る。そして――
「……くろのすけ……」
名前が溢れた。
大切な愛猫の名が。
(――あ……死にたくな――)
ドッ、ゴシャ――ッッ!!!
ドドドド、ドゴッ――!!!
ゴッ、ゴシャ、ドゴ――グチュ、グチャッッ
振り下ろされた凶器の数々。
泥が跳ね、土が吹き飛び、撃ち込まれた刃がそこにあった全てを躊躇いも容赦もなく破壊した。
『うわあああ』
『おわた』
『うげえ、これマジで?』
『結花ちゃんぐちゃぐちゃ』
『おえええ』
『放送事故』
『これは助からないだろ』
『逝った』
『通報だろこれは』
『ええええええ』
『マジかこれ』
『あかんやつやこれ』
『おいおいおいおい』
『まじ?』
『うーわ』
『終了』
「……くろのすけ……?」
――そう、優星の声が聞こえた。
「……え……」
死んで……ない……。
樹上、ぶらぶらと揺れる。腰を抱えられ、佐藤は抱え上げられた猫のように目を丸くする。
いや、実際画的に抱えられた猫の図だ。
隣には優星……そう、彼女を抱えていたのは優星だった。
ドローンカメラがあまりの速さに優星を追尾できず、数秒後にそちらへフォーカスした。
『おおおお!?』
『は?』
『え、いやいやいや、なんだそれ』
『速すぎだろww』
『なにがおきてん』
『無職くんが瞬間移動使いだった』
『結ちゃん生きてる!!良かったああ!!』
間の抜けた声を漏らし、ただただぽかんと口を開いて佐藤は優星をみていた。
「はっ……!!あ、いや、こ、こ、これは……!ごめんなさい!!」
優星は地上へと飛び降り、慌てて佐藤を降ろす。依然目をまんまるにして優星をみている佐藤。
やべえ、これ……ボディタッチ……訴えられる!と心臓がばくばくとし始める優星。
「なんか、危なそうだったのでつい!べつに変な、あれはなくて……って、なに変なこと言ってるんだ俺は!?落ち着け、おい!誤解されるだろ!」
ひとりテンパり挙動不審になる優星。
「あ……の、逃げたんじゃ……」
それよりももっと聞くべきことはある。しかし、こちらもテンパっていた故の第一声がそれだった。
「え?あ、はい……先に逃げてましたけど、佐藤さん全然追いついてこないから、様子をみに戻ってきて……そしたら、害獣に囲まれてたから」
「が、害獣……?」
『ww』
『驚いてて草』
『魔物を害獣て』
『結ちゃんのレア顔w』
「は、はい……なんか、佐藤さん転んでたし、いくら相手がチョコレートスティックって言っても、ちょっと危ないかなって……はは」
何を言われてるのか、理解ができず完全にフリーズする佐藤。そしてその様子に更に焦る優星。
「あ〜、えーと……そう!時間、ないんですよね?なら、ひとりで駆除するよりふたりの方がいいですよ。俺、……あ、いや!私もやります!さっと終わらせちゃいましょう!」※今更ながら一人称を私にする優星。
『あー!無職くん後ろ!!』
『ヤバい』
『きてるきてるー!!』
『いつの間に!?』
『あかん』
『チョコレートスティックがああ』
姿勢を低くし、這い寄ってきていたリザードマンが優星めがけ刀剣を振りかぶる。そしてその刃は佐藤が声を出す間もなく、優星の頭に――
「ほっ」
――当たらなかった。
優星はそれを見ずに躱し、「ほっ」という謎の掛け声と共に膝をリザードマンの腹へ深く突き刺す。まるで蹴り飛ばされたサッカーボール。とんでもない速度で木々をぶち折りながら彼方の岩壁へ激突。パァーンと真っ赤な花が咲いていた。
『うほ』
『きたきたきた』
『うおおお』
『ヤバつえええ』
『鬼かよww』
『おおおおおおお』
『かっけええ』
そのまま佐藤を狙い攻撃しようとしていた3匹に接敵。まず1匹目を飛び蹴りで頭部砕いて殺し、それが持っていた斧を奪い、投げつけ2匹目を処理。そのまま宙でからだを大きく捻りラストを踵落とし、頭蓋を潰して沈めた。
この間、約0.7秒。
「な……っ、な」
口を鯉のようにパクパクさせる佐藤。
木陰でみている織姫がにやにやと、優星の活躍を目の当たりにした、コメ欄の反応と佐藤のリアクションで愉悦に浸る。
――カメラの前、優星による無双が始まった。
『リザードマンって発泡スチロールかなにか?』
『バカかてえ鱗を素手でww』
『どっちが魔物かわからんくなってきたなこれww』
『どんどん消されてくんだが』
『うわ……はええ』
『あっという間にもう3匹に』
『悪魔かよww』
『かっけー』
『みろよ結ちゃん直立不動で見入ってるぞw』
『そらそーなるだろw』
『なんかいつの間にか木の枝使ってる!』
『その辺にあったやつかな』
『いややっぱえぐいてw小枝で魔物斬り裂く絵面w』
『結さんもさすがに、え……って声出てるしw』
やがて1分も経たずに追加で来たリザードマン含めた73匹を撃破。
魔物の遺体の山が築かれた。
(……あ、あれ?佐藤さん、動かない……どーしたんだろう……ていうか、俺のほうみてないか……?え、なんで?怖い怖い、何その異常者を見るような目は……!?)
優星が佐藤の謎の視線に怯え、内心ドギマギと動揺している最中。彼女は小さく呟いた。
「……山彦さん……あなた、いったい……」
それは佐藤にはとてもではないが信じることのできない時間だった。
配信をみている一般のリスナーよりも、やはり実際に魔物と戦いその強さを身にしみて理解している彼女ら探索者が受ける衝撃の方が遥かに大きく、痛烈なものだった。
(……わけが、わからない……このひと、なんで……)
人類最強兵器と呼ばれるS級シーカー、守護神と呼ばれる鉄壁のS級シーカー。他にも沢山の、人とは思えない化け物じみた強者がいる。
だが、佐藤がいま目にした彼、優星は……
(……次元が、違う……)
いくら強いシーカーでも魔力が通った武器が無ければ攻撃は通らない。スキルがあれば可能かもしれないが、しかし彼はそのスキルを使った気配すらない。
それどころか、魔力が……無いに等しい程薄い。
(……こんな……魔力を纏わずに……それじゃあ、どうやってあの動きと攻撃力を……)
思考を巡らせていた佐藤。だが、
――ぞわっ、と凄まじい悪寒が彼女の全身を覆った。
(……な……なに、これは!?……息がっ……!!)
呼吸ができなくなるほどの強大で禍々しいプレッシャー。
それを同じ場にいて同様に感じているはずの優星は、特に気にするでもなく普通な表情でそちらを向いてこう言った。
「……織姫じゃないけど、ほんとラッキーだな。あっちから来てくれた」
『でけええええ!?』
『こんなバカでかいリザードマンいんの?』
『やエリアボスだろこれ』
現れたのは、鼻先に大きなブレード状の角が伸びるリザードマンの統率者。
体格も通常の個体より一回り以上大きく、全身の筋肉が肥大化している。鱗も分厚く、当然その分リザードマンのものより頑強である。
纏う魔力オーラもまた、王である事を証明するかのように赤黒く迸る。
『ジェネラルリザード』レートB
二本の巨大な剣を両手に携え、優星の前へと現れた。ぐるる、と低く唸り声を上げ、片方の剣を優星へ向けそしてもう一本は肩に担ぐ。
常に膝を曲げながら歩くそれは、いつでも強襲できるようにする為の構え。優星の隙を伺いながら、円を描くように一定の距離で移動する。
配下であるリザードマンを全てやられ、本来であれば退くしかない状況。
だが、ジェネラルリザードにもはや帰る場所はない。帰る気もない。
故に、目の前の優星を殺す事にした。
敵討ち、ジェネラルリザードとしての矜持、なによりも魔物としての闘争本能がそうさせた。
邪神ちゃんがドローンカメラを手動で操作し、優星とジェネラルリザード、そして佐藤がおさまるように広く映す。
そしてチャンネル主のコメ欄にメッセージが打ち込まれた。
邪神ちゃん
『無職くんVSジェネラルリザード!リアクター佐藤さん(ナイトガーデンギルド所属)』
『リアクターにされとるww』
『いや反応いいけれども』
『なんでそもそもコラボしてるんだよ』
『よく出来立てのこのチャンネルにでたなw』
『勢いあるから?』
『ナイトガーデンコラボ初だろこれ』
『許さない事で有名だもんね』
『それも込みで美味しいからやってんだろな邪神ちゃん』
『邪神ちゃんすげー』
『さすが探索者配信マニア』
『A級ヒラがリアクターとか贅沢過ぎだろww』
わいわい賑わう画面の向こう。対して現場の佐藤はそれどころではなかった。
あらわれたジェネラルリザードの纏うオーラは歴戦の猛者のように鋭く膨大で、その動きも全く隙がない。
これを相手に逃げることなど、もはや不可能。
助かった、生き残った……その微かな希望は、一瞬で消え失せた。
この優星は確かにおかしな力を持つ。だが、比較して魔力も少なく筋力も平均のシーカーより下のように見える。
なにより……気の抜けた顔で、ぼんやりとしていて……覇気も無ければ、まともな構えすらしていない。構えもなにも武器持ってないんだけど。
あるのは片手に握る短めの小さな枝。
もう詰んでいる。完全に。
(……結局死ぬのなら……生きたい、なんて思わなければ良かった)
幾度となく直面した絶望とストレスは、佐藤の心を蝕みだす。
「さっきの」
「……え」
唐突に優星が口を開く。普通の声色で、至ってリラックスした雰囲気で。
もうすぐ殺されるというのに、呆れるほどの柔らかい声。
「くろのすけって、もしかしてペットの名前だったりして?」
「……あ……えと……、ねこ……うちの、……」
「あ、やっぱり!猫って可愛いですよね〜!くろのすけってくらいだから、黒猫なんだろーな。あ、ちなみにウチにも猫がいて……っていっても飼い猫じゃなくて、たまにふらーって来る感じのノラなんですけどね」
「……え……あ、はい……」
『おいw猫トーク始めたぞww』
『この場面で雑談とか』
『状況www』
『すげえなさすが無職くん』
『てかジェネラルリザードなんで攻めてこねえの?』
『確かに』
邪神ちゃん『攻められないんだよ。怖くて』
『え?』
『こんだけ隙だらけなのに』
『がち?』
『いけるだろ』
『見かけ倒しかよw』
『びびりってーこと?ww』
邪神ちゃん『臆病でもなんでもなく、先手をとったら死ぬって理解してるんだよ。ここまでの無職くんの戦闘をみてそう判断したの。頭いいからね。さっき子分のリザードマンの戦闘をみて分析してた』
ジェネラルリザードは優星の視線が自分から外れているにも関わらず、攻めることができなかった。
仮にこのタイミングと距離で仕掛けたとしても、リザードマンよりも遥かにパワーとアジリティのあるジェネラルリザードだが、カウンターを決められ致命傷を負わされる事が彼には容易に想像できた。
リザードマンの統率者となるまでには、無数の戦いを経て死線を潜らねばならない。
そのこれまでの経験が、直感となりジェネラルリザードに生と死の隔たりを明確に感じさせていた。
「そいつは雪のように綺麗な白猫で、名前をシロチョコってつけてて……あ、名前の由来はまんま白いチョコレートみたいだからなんですけど」
「……」
『結ちゃん顔引き攣ってるww』
『いやそれはそうw』
『そんな場合じゃねえよこれ』
『無職くんの空気の読めなさやべえな』
佐藤は不思議に思っていた。なぜ、ジェネラルリザードは攻めてこないのか……と。
一見するだけでもわかる圧倒的強者のプレッシャー。優星を挟んで距離が離れているとはいえ、腰が抜けそうになるほどの恐怖感。
瞬きひとつを経て、次の瞬間には自分が肉塊になっていても不思議ではないレベルの敵。
ここにタンクやナイトがいて攻撃防御バフを使用すれば別だが、優星にはそんなものなにひとつかかっていないし佐藤にもかけられていない。
(……って、いうか……なんで、このひと……こんなに余裕なの……!?)
テンションの差がおかしい。この状況での温度差。
まるで、これが平常だと言うかのような、普通の……害獣駆除……。
いや、いやいや、まって!普通じゃないから!そもそも害獣駆除とかもこんなんじゃない!こんなゆるい感じでやらないよ!
そう、これは……雑草を抜きながら、喋ってるかんじ……。
ふと、くろのすけを拾った時の事を思い出した。実家で草むしりをさせられていた時、まだ子猫だったくろのすけが現れて。
にゃあにゃあと鳴くくろのすけに、話しかけながらのんびりと作業を終わらせた……。
――にゃあ!と、自分を呼ぶ声が聞こえた気がした――。
(……もう一度、くろのすけに会いたい……ひとりぼっちで家にいる、あの子の元に帰りたい……触れたい、あの柔らかなぽふぽふの毛並みに……)
「……かえりたい……」
くろのすけの元へ、また会いたい。
ぼそりと溢れた言葉。自分でも気がついていない、その一言に優星が反応する。
「はは、猫の話してると会いたくなりますよねえ!よし、それじゃあさっさと終わらせましょう。はやく帰って、くろのすけ撫でてあげないと!」
フッ――と優星が消えた。
ジェネラルリザードが優星を見失い、僅かに動きをとめる。全神経を集中させ、あたりを警戒
――ズルッ……
するよりも早く、首が落ちた。
頭を失ったジェネラルリザードは、そのまま立ち尽くす。死んだことをまだ理解できてない頭。首を跳ねられ飛んでいった先、突然視界を覆った草の中、彼は意識を失い絶命した。
「…………は……?」
同じく直立不動で固まる佐藤。首のないジェネラルリザードの向こうに、いつの間にか移動していた優星が振り返る。
「チョコレートスティックBIGサイズ、駆除完了っと」
『おおおあおおいいい』
『なんじゃそりゃ』
『はあああ!?』
『レートBも瞬殺!?!?』
『いやいやもっとこう見応えのある』
『こいつやべーわ』
『がちで化物じゃん』
『すごすぎて漏らしたわ』
『もう怖いww怖すぎて怖いww』
『かっけえわやっぱww』
『信じらんねえ一撃とか』
邪神ちゃん『ふはははは!!見たか!!これが私の推しぞ!!もっと褒めい!ひれ伏せい!崇め奉れええ!!』
『ちょーしに乗ってて草』
『何だコイツww』
『いやいうだけあるだろこれは』
『ナイトガーデンにスカウトされてねーのかこれ』
『そういうこと?』
『コラボじゃなくて所属するから一緒に配信してるのか』
邪神ちゃん『あ、それは無いです。無職くんは完全無所属でいきますので。スカウトとか間違ってもすんなよお前ら』
『即答で草』
『否定がはええw』
「織姫!ほら、終わったぞ!急ぎだから早くしてくれ」
「……あ、うん……!」
『いやギャップよw』
『人格がww』
『さすがネット弁慶』
『いつか痛い目にあうだろこれ笑』
呼ばれ優星の元へ駆けていく織姫。いまだ唖然としている佐藤の横をドヤ顔で横切りジェネラルリザードの遺体の元へ。
「……さてさて、それじゃあ……佐藤、さん……こっち来て」
「あ……は、はいっ……!?」
織姫が優星の倒した魔物たちから魔力をかき集める。織姫の差した指の先、ゆっくりと黒い靄がブラックホールのような穴が出現した。
「今、これに触れて」
これがあのダンジョンとの繋がり。確証はないけれど、その穴から漏れ出している魔力は彼女の元いたダンジョンAランク『水神之災禍』のものだとわかった。
……今は信じるしかない、この希望を……!
「……ありがとう、織姫ちゃん……!」
手を伸ばし穴に触れる直前、佐藤は躊躇う。優星へ顔を向け、彼にもお礼をと口を開く。
ありがとう、では伝えきれない。けれど、表す言葉が今は思いつかない。
だから、
「……山彦さん!」
「あ、はいっ!?」
「こんど、くろのすけ……見に来てください!私の家に!」
『おおお!?』
『家に!?お誘い!!』
『まじかよ!?』
『あの結ちゃんが』
『美人すぎるシーカーのお誘い!!』
『まじかよ!うそー』
『無職くんモテ期!!』
『いや邪神ちゃん顔顔!ww』
『睨んでて草』
むっ、と顔を顰める織姫。何だコイツ的な視線で佐藤をみあげる。
たいしてなんの疑問も持たない猫好きの優星は、
「はい!是非!」
と、笑顔で返事した。
お礼はその時で。聞きたいことも、沢山ある。このエリアボス戦で、もしも万一生き残ることができたなら……また、彼と会えたなら。
トクン――と、胸奥で感じる鼓動に、生きたいという願いが強まるのを感じる。
(……いや。生き残ってみせる……必ず、山彦さんにウチの子を……)
深淵の奥へと呑まれ、彼の姿は消失した――。
「……あれ?」
【重要】
先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。




