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7話 その理由


「すみませんすみません!」


 まだ濡れてる黒いショートの毛先を揺らし、ぺこぺこと頭を下げるヒーラー。

 彼女を温泉から引き上げた後、平手打ちをくらった優星。

 落ち着きをとりもどした彼女に事情を説明し(裸の)和解した。

 そしていま平手打ちの謝罪を受けている最中である。


「助けて頂いたのに、ぶつなんて……」


「いえいえ、こちらこそ……その、すみません(訴えられるかと思った〜!)」


 二人が頭を下げ合っている最中、後方で織姫が苦虫を噛み潰したような表情でぶつぶつと漏らす。


「……なんで、こっち送ってくるかなぁ……ほんと、最悪……こんどちゃんとあの子に文句いってやんなきゃ、っていうか……ど、どうしようこの状況……」


「織姫?どうした?」


「……な、な、なんでもない……」


 濡れてしまっていたヒーラー用の衣服をタオルで拭き終わり、着込むヒーラー女性。


「私はダンジョンシーカー佐藤さとうゆいと言います。所属ギルドは『ナイトガーデン』で、もうこの格好でおわかりかと思いますがヒーラーです」


「……ダンジョンシーカー……ナイト……ヒーラー……?」


 反応の鈍い優星。ナイトガーデンといえば今のりにのっている最前線で攻略を続ける大型ギルド。

 探索者でなくともその名を知るものが多いし、探索者であれば誰もが憧れる。

 しかし、優星は知らない。織姫に外界の情報を全てを絶たれていたため、そして優星自身もまあそれでいいかなぁーってな感じでのほほんと過ごしていたから。


「あの、ここってダンジョンですよね?この空気中に流れる濃い魔力量……どこのダンジョンなんですか?」


「ダンジョン?いえ、ここは俺……私の家の側にある洞窟でして。魔力はありますけど、そういうのではなく……」


 洞窟に魔力があったらそれはもうダンジョンじゃないですか……そういうボケなの?と佐藤は眉を潜める。そこでふと気がつく。ここがダンジョンなのは間違いない、なのに……Tシャツと短パン(しかもサンダル)。側にアーマーや戦闘服も武器もない。小さな枝が転がっているだけ。


「あなた達、もしかして一般人……!?二人でここに……よく無事で」


「え?ああ、はい……まあ。何度も来てるので、慣れたものですよ。庭のようなもので、はは」


 話がかみ合わず、戸惑う優星。その白い派手な服と杖はコスプレか何かなのかな?と思いつつ、後ろの方でぶつぶつ何かいってる織姫が少し気になりながら、今度は優星のほうから質問をしてみた。


「ところで、佐藤さんはどうしてこんなところに?急に温泉の中から湧いて出て……どこから来たんですか」


「はっ、そーだ!!」


 魔物に飲まれ、転移させられ、死んだと思い目を開ければ、全裸のオッサンがそこにいて、しかもわけわからないことを言っている……怒涛の展開の連続に佐藤は頭が追いついていなかった。

 しかし、今思い出した。そう、彼女のパーティは今ピンチを迎えている。


「このダンジョンすぐ出られますか!?私、今仲間が大変なことになっていて……!」


「あ、えーと……まあ、ここは2層なので外までは急いで1時間と少しくらいですかね(もうダンジョンでいいや)」


「魔物はどれくらいでますか?」


「魔物?魔物って……ダンジョンにでるあれ化物ですよね?でませんよ」


「は!?え、出ない?こんなに魔力が漂っているのに?」


「まあ、はい。害獣の類は住み着いてますけど……魔物なんてでたら恐ろしくて、こうして温泉なんて入りにこられませんよ」


「……」


 みたところ、この二人しかいない。側に他の人の気配もない。……本当にこんな薄着で、護身用の武器すら持たずにここまで?

 なら、魔物もいないのも本当で……い、いや、辺りの魔力量的に絶対にいるはず!けど、ではなぜこの二人は無事で……ダメだ頭変になりそう!


 混乱が混乱を極め、佐藤は頭痛がしてくる。険しい表情で目をつむる佐藤。優星は彼女のその様子を目の当たりにして、具合が悪くなったのか?俺の裸みたせいで?やっぱり訴えられるのか……?と心配になってくる。


 と、その時、織姫が優星と佐藤の間に割って入った。


「……ねえ。佐藤」


 呼び捨て!?と佐藤は驚き顔を上げ、優星もまた驚きさんを付けなさいよ、さんを!と織姫におこだったが、続く言葉が二人を黙らせた。


「……佐藤は今、ダンジョンでエリアボスと戦っていた……その最中、空間転移でここにきた……」


「そ、そうです!エリアボスに飲み込まれて、気がついたらここに!」


「……ダンジョンでたまにある事故。密度の高い魔力溜まりには、ブラックホールにもにた転移ポイントが生まれる……そこを通るとたまにこうして、繋がった別のダンジョンに出てしまうことがある……」


「そうです!!」


 年配者の方よりなぜこの中学生くらいの女の子のほうが話通じるんだと、内心ツッコミつつ佐藤は織姫との会話を続ける。


「私、すぐに戻らないとまずいんです!パーティが壊滅しそうになっていて……だから、このダンジョンからでられませんか!?」


 二人の話を理解できないなりに聞きつつ、なんかとにかく佐藤さんの仲間がヤバいんだな……とその鬼気迫る様子に、それだけは理解できた。


「……結論からいうと、この洞窟と佐藤がいたダンジョンはかなり距離が離れてる。ここからでて、パーティのところへ戻っても助けられない……あきらめた方がいい……」


 佐藤と優星はその言葉に顔を顰める。


「……諦められません……」


 歯を食いしばり、佐藤は震えた声を漏らす。そこへ織姫が問いかけた。


「なぜ?佐藤がもし間に合ったとしても、たぶん助からないよ……それなのに?」


 自分の命が助かった、だから良いでしょう。あの魔物相手にあの実力のメンバーでは勝てないし、逃げ切ることも難しい……死にに行くようなもの。織姫はそう続けようとした時、優星が口を開く。


「出口まで案内します。こっちです」


「山彦さん……!」


 佐藤を連れ1層へと向かって歩き始める優星。


「織姫、行くぞ」


「……なんで……?意味ないよ」


「でも、佐藤さんの仲間は彼女を待っているんだ。今も必死で戦ってるはずで、生きてる。俺はダンジョンがどんなところかも知らないし、戦ってる魔物ってのも想像もつかないし助けられない……でも、できることはしてあげたいよ。まだ、今、生きてるんだから」


 俺は間に合わなかったから……そう続く言葉が言わずとも織姫には感じ取れた。

 織姫は佐藤の気持ちはわからない。神である以上に興味がないからだ。

 けれど、優星の気持ちはわかる。同じ時間を過ごし同じ経験をし、芽生えた心……彼に重なる部分があるから。


 おじいちゃんが大切でその死目にあえなかった寂しさは理解できた。


 ……そうか……。と、織姫は唇を微かに開く。


「……なら、下層に行ったほうが良い……」


 織姫は提案する。


「下層に?そんな時間は……」


「いや、待ってください佐藤さん。織姫、考えがあるんだな?」


 織姫はこくり頷く。


「どういう事ですか……?」


「私が向こうへ通じる道を繋ぐ」


 ぽかんと呆ける佐藤。半開きの口がどれ程驚いているのかを物語っていた。いや、どちらかというと呆れの割合が大きい。


「もう冗談なんてやめてください、時間がないんですよ!そんなことできるわけ」


「大丈夫ですよ、佐藤さん。織姫は誰よりこの祠に詳しいんです。彼女がやれるっていったのなら、やれるんだと思います」


「そんな無責任な……」


 元々責任などない、それは佐藤もわかっていた。けれど、この切羽詰まった状況と仲間の危機に追い詰められ苛立ちが募りぶつけてしまった言葉。

 なのに、優星はにこりと微笑み佐藤に行こうと促す。大丈夫だと安心させるように、けれど嫌みにならないよう……これは会社員時代に業務に潰されそうになっていた部下を安心させるために培ったものだった。


 佐藤は優星のその表情をみて落ち着きをとりもどす。本気でこちらのことを思ってくれているその気持ちだけは伝わってきたから。


「わかりました」


 そして冷静になった佐藤は状況を鑑み諦めの気持ちが湧いてくる。あのエリアボスの強さを思い返すと、確かに織姫の言う通りたすかる可能性は絶望的に低い。たとえヒーラーが居たとしてもだ。


(……でも、山彦さんに悪いから)


 これだけ真剣に自分達を思ってくれている優星の気持ちは無碍にできない。その部分が辛うじて諦めに落ちかけた心を繋ぐ。


 ――下へ。温泉から近かった3層への階段を降り、佐藤の背筋が凍る。


(……こ、この……階層……)


 2層とは比較にならないほどの魔力の濃さ。肌を刺す威圧感。


(……かなり強い魔物が、いる……!!)




【重要】

先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。

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