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6話 ダンジョンの秘湯に浸り癒される


 まだ肌寒い5月の始まり。久々の洞窟探索で祖父の手紙を読み、この土地を守ろうと決心してから3日。

 母親や親族に事情を話し、祖父の置き手紙が遺言書となって一応は優星がこの土地の権利と財産を譲り受けることになった。


「……」


 祖父の家に住むとになった優星。縁側に座り、ぼんやりと空の雲が流れる様をみていた。

 なぜかテレビとネットをみることを織姫から禁じられていた優星。なのでぼーっとお茶を飲み外を眺めているくらいしかやることもない。


 ちなみにスマホもみていると織姫に、おめめ悪くなるからほどほどに……っていうか、かまって!とやめさせられる。自分はしょっちゅうスマホをみてPCをつかって何かしてるのに、と優星は思ったが、けれど会社員時代もネットやテレビをみる暇もなかったし、どちらかというとこのゆったりとした時間をこうして過ごしている方が優星は好きだった。


 ただただ過ぎゆく時間。無意味に流れる、けれど意味のある時の流れ。

 まったりとした雰囲気の中、鳥の囀りを聞きつつ、黒い湯呑みに淹れた熱い緑茶をあおり、ふう……と息をつく。


(……この湿った土の匂い……)


 会社員時代、雨上がりの外でかいで、どうしようもなくこの家が懐かしく恋しくなったのを思い出す。今思えば、あれはこの場所にというよりはあの頃の日々に、だったんだなと優星は思い当たる。

 戻らない、だからこそ大切でかけがえのない大切な日々。匂いと共にそれを思い出し、味わうようにゆっくりと食む。

 生臭い土の香り……けれど、好きな匂い。


 膝に頭を乗せさながら猫のように横たわる織姫の頭を時折なでながら、心が満たされていくのを優星はたしかに感じていた。


(……こんなに、ゆっくりできる日が来るなんて思わなかったな)


 まるで老後のおじいちゃんのようだな……と、優星は苦笑する。まだそんな歳でもないのにと。


「……さて、と。そろそろ飯だな」


 優星は織姫が人外の神だとは知らない。あくまで親戚の女の子。祖父のその説明をずっと信じている。

 なので初日に家には帰らないのか?と優星は聞いた。そして帰ってきた答えは、ここに私も住むだった。


 祖父が亡くなるまでの間、ずっと一緒にこの家に住んでいたとの事で、継続していたいとの事だった。

 優星は、織姫の見た目もあり若干の引け目を感じつつ、それならまあ……となし崩し的に同居を了承した。


「織姫、悪い……夕食作るから起きてくれ」


「……ん、ぅ……」


 目をこすりながら身体を起こす織姫。ジャンプーか香水か、彼女が側で動く度に鼻腔をくすぐる花のような匂いを吸い込む度に、優星はいけない事をしている気分になる。

 そしてそんな事を意識してしまう自分が気持ち悪いなと思い少し気落ちするのだった。


「何か食べたいもあるか?つっても作れるものしか作れないんだが……」


 優星は料理が苦手だ。会社員時代もカップ麺やコンビニ弁当、ゼリーなどで済ませてばかり。料理などほとんどしたことがない。


「……なんでも大丈夫だよ」


「なんでも……カップ麺でも?」


「うん。優星と食べるごはんは、なんでも美味しいから」


「そっか」


 にんまりと唇の端をあげる織姫。その言葉は嬉しいが、やはりこのままというわけにはいかない。

 この地を守っていくと約束した。で、あれば健康的な生活をしてできるだけ長生きする必要がある。そのためにはまず、バランスの良い食事。

 せっかく時間もできたんだ、料理を学ぶのも悪くない。優星はそんなことをお湯を沸かしつつ思っていた。


 ふと、またひとつ記憶が蘇る。


 それは学校での事。高校生の頃、自分にとても懐いてくれていた小学生がいた。

 彼女はアパートの実家の向かいに住んでいて、親同士が仲がよく、そのため年はかなり離れていたものの、優星とその女の子も親しかった。


 お兄ちゃんお兄ちゃんと事あるごとに優星を訪ねてきて、勉強をみてやったりおままごとに付き合ったりしていた。


 夫婦になったときの練習……なんて、微笑ましいセリフ。よくある話で、ちいさな子は年上の優しい異性にあこがれるもの。すぐに薄れる関係だと思っていた。


 けれど、驚いたのは優星が町をでるまでずっとそれは続き、果てに小学生ながらも立派なお弁当まで作ってくれたりしていた。

 断るのも悪いからという理由で受け取っていたが、これがかなりの腕前で物凄く美味しかったのを強く記憶している。もちろん親に手伝って貰いながらであろうが、彼女の弁当を食べるお昼が1位2位を争うくらいの高校生活での楽しみになる程美味しかった。


(また食べたいな……)


 しかしもうそれは叶わないだろう。あれからかなりの時が過ぎた。最期に会ったのもいつだったか。

 彼女はいくつになったのだろう、結婚はして幸せな暮らしを送っているのだろうか……妹のように思っていた彼女にはそうなっていて欲しい。

 そう言えば、母さんがすぐに話題に出しそうなものなのに、全然なかったな……と、違和感を覚えつつ、好物だった彼女お手製のハンバーグを思い出して腹の音が鳴った。



「ごちそーさまでした!」


「ごちそうさま」


 ふたりそれぞれカップ麺を平らげ、手を合わす。ゴミを片付けつつ、明日は買い出しに町へ行こうかなと優星は思う。

 車は母親に借りたのがある。どこかへ行く時に足(運転手)になることを条件に使わせてもらうことに。


 肉か魚か……失敗したら織姫に悪いから、それを持って親の家に。勉強がてら何か作ってもらって食わせてもらおう。

 優星は目的が変わりつつあることを自覚しながら、母親に何を作ってもらおうかと考えていると、


「……優星、お風呂いこう」


 織姫が山の方を指さし立ち上がった。


「ああ、温泉か……久しぶりに良いな」


 暗い夜道を手に持った懐中電灯で照らす。手ぬぐいやタオルなどの入浴セットを肩に掛け、羆に恐れをなしつつも洞窟の入り口へたどり着いた優星。対照的ににこにこととしている織姫。……また中にいないだろうな?とビビりまくる恐怖心から逃れるように、優星は足早に洞窟の中を進んでいく。


「……歩くの、はやっ……」


「湯冷めしたらまずいからさ」


「……まだ温泉入ってないのに……?」


「あ、ちがうヒートショック怖いから」


「……あー……」


 手を引かれる織姫。羆を怖がり謎の言い訳を展開するほどテンパってる優星が可愛いな……と思いながら、にまにまご機嫌な邪神ちゃんだった。

 そんな感じで道中そこら辺にあった枝を拾い、2層へ。


 2層は広く、規模的には小さな田舎町くらいある。今回目指すはおじいちゃんの書斎があった方向と反対。


「……チョコレートスティック……いるかな」


「いや、いないんじゃないか。こないだ斥候のやつら駆除したし、上がってくるのにも慎重になってるだろ」


「たしかに」


「チョコレートスティックの本来の生息地は6層。少ないけど斥候がこの2層にいた事を考えると、親玉を引き連れた本隊は3層を探索してる途中かな。3層は2層よりも遥かに広いし……ヤバいのがここまで上がってくるのはまだまだかかるさ」


 チョコレートスティックことリザードマン等の竜種は、種族間で特殊な念波を飛ばし合い情報のやりとりをする。優星は昔祖父からそう教えてもらっていた。


 駆除されたリザードマンにより、本隊は2層へくる事を躊躇い、3層の制圧と探索を優先するだろうと判断。

 彼らが3層の魔物と戦い疲弊したところを全滅させるも良し、そのまま探索途中で力尽き全滅してくれても良し。


 リザードマンの戦闘部隊はかなりの数がある。それを全ていちいち駆除していくのは面倒だからなー3層広いしなーと優星はとりあえず様子見をしていた。


(……しかし、斥候の奴らが2層の害獣減らしてくれてたのは嬉しい)


 特段、道中の害獣を駆除するのは疲れもしないし時間もかからない……が、ただただ面倒臭いと感じてしまうのだ。

 空になった歯磨き粉や洗顔料をかえるような、夜尿意を覚えてトイレに起き上がるような、ほんの少しだがたしかに感じる面倒くささ。


 そうして段々と温泉特有の匂いと白い湯気の漂うエリアへ近づいてきた。

 ここまで来れば害獣こと魔物が襲ってくる心配はない。なぜなら、温泉から発生しているなにかしらの有害なあれで、魔物は死ぬからである。


 優星と織姫はその湯けむりの中を何食わぬ顔で歩いていく。

 すると、みえてきた巨大な入浴場。ここは祖父が岩と木で作り上げたもの。


 木造りの湯船から、岩で囲い作られたもの、様々な風呂が八つある。


「前から思ってたんだけどさ」


「……う……?」


「ここの温泉つかって商売したら儲かるんじゃないかなって」


「……害獣危ないでしょ……」


「あ、それもそうか」


 その場で衣服を脱ぎ出す織姫。優星がそれに気が付き、離れた場所へ移動する。

 この温泉は大岩に囲まれていて、天井が吹き抜けになっている。この上は1層エリアがあるはずなのに、なぜか外の景色がみえるのだ。

 星の明りがきらめく夜空。そこに大きな月がゆっくりと泳ぐ。


 相変わらず凄い景色だよな……と感嘆しつつ、優星も大岩の陰で服を脱ぎ始めた。

 そうして腰にタオルを巻いて、いざ入浴。優星が岩陰から一歩出たところで、身体が固まった。


 Q.それはなぜか?


 A.全裸の織姫が立っていたから。


「ちょ、おおおおーーー!!?」


「!?、な、なに……びっくりしたぁ」


「それはこちらのセリフだす、な、んで!?」


 噛み噛みで羆を恐れ歩いてた時よりもテンパり、後ろを向く優星。


 すらりのびた美しい手足、ふっくらとした胸、一糸纏わぬその全てを直視してしまい、恥ずかしさと罪悪感と困惑入り乱れ、頭に血が昇る優星。


「ちょ、ちょっと、なんで!?」


「なにが……?」


「なんで裸なんだよ!」


「お風呂はいるから」


「ちが、そーれはそーだけれども!そーでなくて!タオル巻くとかさ……!」


「……タオル……?」


「胸とか隠せよ!なんですっぽんぽんなの!」


「なんで隠すの?前は隠してなかった」


「それは子供の頃の話でしょーが!」


 織姫は目を丸くしぽかんとする。優星の慌てよう、頬を赤らめ動揺している表情、小さな子供の頃からの付き合いだけれどこれほどまでに動揺した姿は見たことがない。そんな一面を目の当たりにして、織姫は胸が高鳴る。……なんか、すっごく可愛い!と。


 背を向け、はやく隠せという優星へそろり近づく織姫。そして、


「……ぴとり……」


 優星の背に抱きついた。


「ちょ、おおおいい!?おま、何して……」


 手を前へ回し身体を密着させる織姫。


「わあ、すごい……かたーい」


「まて!その言い方はまずいだろ!!誤解が生まれかねないぞ!!筋肉がといえ!!……じゃなくて、何抱きついてんだよ!離れろ離れろーー!!」


「あは、優星おもしろー……はは」


 けたけた笑う織姫。胸、腹、押しつけられた柔らかな膨らみに意識を持っていかれそうになり、慌てて首を横にぶんぶんと振り邪念を吹き飛ばす。


「お前、まじで離れろって!こんなの、もし誰かにみられたら……」


「なにかだめなの?」


「ダメだろこれは、こんな……裸で、お前みたいな小さな子と」


「小さな子?私、優星と同じくらいだよ?おとな、おとな!」


「それもそうか……とは、ならねーよ!!はよ離れて隠せ!!」


「……ぷっ、あはは!たのしー!」


 何とか宥め、温泉に浸かるふたり。別々の湯船にはいらないか?と優星が提案するも、またタオルはずして抱きつくよ?と脅され一緒にはいることとなった。


 これまでの人生、こうして織姫やお隣さんの小学生などの女の子と関わりはあれど、女性と付き合ったことなど無い優星。

 社会人になり、大人になればそういうこともあるんだろうなぁ、なんて漠然と想像していたが、蓋を開いてみれば仕事の忙しさでそれどころではなかった。

 つまり、女への耐性が全くないのだ。


 タオル1枚纏っただけの少女が隣に。優星と同い年、大人とはいえ、見た目は未成年にみえる織姫の隣で同じくタオル1枚の自分がいるこの光景は万一誰かに見られようものなら、社会的に死ぬのでは……と恐怖を覚える。


「……優星……あれ、みて……!」


 ちょんと肩を肩で叩かれ、ドキリとする。そんな優星の気持ちを知らない織姫の視線は上へ向けられていた。

 吹き抜けになっている洞窟の天井。岩がめくれ上がり、暗い海を流し込んだかのような夜空が広がる。そこへ流れる星々。

 煌めく光の曲線がいくつも引かれていく。


「おお……流星群……」


 目を奪われる優星。都会のデスクからみた空の星を思い出した。

 優星は肩まで湯に落とす。少し熱いくらいの湯の温度。

 背後の岩に頭を乗せ、寝るように空を仰ぐ。

 血行が良くなり、ぼんやりとする意識の中、優星は心が温もりに解かされていくのを感じていた。

 絶景を見上げながら、温泉に入る……そういえば、会社員時代は風呂もまともにはいれなかった。


「……いい湯だな」


 溢れた言葉に、織姫が反応し優星に顔を向けた。


「いいゆだねえ」


 いたずらっぽく微笑む織姫。長い睫毛、眼尻がゆるみ、にっと唇の隙間から白い歯がのぞく。

 真っ白な雪髪、水滴が撫でる赤い頬、湯煙も相まって触れれば淡く消えてしまいそうに儚げだ。


 美しい、とはこの子の為にある……そう言われても頷けるな、と優星は思った。


 もしこの世に女神がいたら、案外こんな少女なのかもしれない……そんな事を考えては、気恥ずかしくなり、沈めるように水面へと優星が視線を落とすと。

 それを目の当たりにして、また織姫はけたけたと笑うのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ――Aランクダンジョン、『水神之災禍』


 辺りを流れる水流。いや、水流なんてものではなくもはや激流だ。

 逆立つ鱗に触れ、放たれた怒りのままに暴れ狂う龍の如く、洞窟のそこら中に縦横無尽に水の流れが発生している。


 遠くにみえる大滝は、巨大な槍の様に1層から最下層の346層まで貫くように通っているとされている。


 ここはその300層、主エリア。


 エリアボスとも呼ばれる、魔物が支配しているワンフロアである。


 大型ギルドの第14隊である十数名はこの主を討伐すべくここまで降りてきた。しかし、難易度の高いこのダンジョンで300層までこられたのは僅か4人。


「――まて!下がり過ぎだ!!タンクのバフが効かなくなるぞ!」


「けど、一発当たったら致命傷でしょ!!そんなバフに意味なんて無いわよ!!」


 大きく剣を振り回し叫ぶナイト。そこへウィザードが言葉を重ねるように返す。


 激流の中から無数の水槍が放出され、大盾を持った剣士が魔力により巨大なシールドを展開。薄い紫で覆われた一帯の中に収まった4人に、その水槍は届かずシールドに弾かれた。


「大丈夫、シールド内にいてくれれば僕が守るよ!」


 体格の良い男が盾を構え言う。


「甘やかすな!お前のシールドは魔力消費が大きいんだ、あまり使用するな!」


「甘やかす!?はあ、誰を!?こっちだって計算して距離とってんですけど!」


 ナイトとウィザードが口喧嘩をしながら、エリアボスの次の攻撃を警戒。すると、流れる水の中から巨大な魔物が数匹飛び出してきた。


 大きな目玉をぎょろつかせ、全身が青く光る鱗に覆われている。手や足の指の間に水かきがついており、背中から続いている、大きく鋭利な刀剣のように伸びた尾びれを4人へサソリのように向け、近づいてくる。


 魚人族の魔物。『魔魚人マウト』水龍の守り人とされる亜人種である。レートはC。


「天才魔法使いだかなんだか知らねえが、それならさっさと片付けてくれよ!」


「はあ?あったまきた!なにその言い方!隊長としてどーなのよ、それ!?」


 タンクはヒーラーを守りつつ、魔魚人と切結ぶ。ナイトとウィザードがいがみ合いながらも強力し、1体ずつ処理すべくヘイトを逸らしながら戦闘に入る。


「いい加減にしてくださいよ、2人共!4人しかいないんですよ!冷静になってください!!」


 イライラが最高潮に達したヒーラーの女性。

 4人ではエリアボスなんて倒せるはずがない。なのに、隊長であるナイトはエリアボスを倒そうと奮闘し粘っている。

 しかし気持ちはわかる。ここまで来るのにかけた多額の費用、人件費は馬鹿にならない。更に、幸い死人はでてはいないが、怪我人が多く治療費がかなりの額になることが予想される。


 このままエリアボスを打倒せず戻れば、上から何を言われるかわからない。


 けれどこのままでは、この場の4人は死ぬ。タンクへヒーラーが魔力を供給しているから、まだシールドは持つだろうけどそれも長くはもたない。


「……く、そうだな……ここは、撤退するか。魔力がある内に」


「はあ!?なんでよ!」


 そして、ナイト以上に問題なのはこっち。ウィザードの方である。僅か15という年齢で高ランクダンジョン攻略作戦のメンバーに選ばれた天才高校生。

 これまで苦戦する戦闘も特になく、増長気味であり、隊長が冷静さを欠いているのは少なからずそのせいもあるのかもしれない。


「あたしの初の高ランクダンジョンで、エリアボス戦を失敗で終わるとか絶対に嫌なんですけど!」


「言ってる場合か!まともに攻める手だても無いんだぞ!!お前の魔法も届かない!もう引くしかない!」


 と、その時――


「しまっ――」


 ヒーラーが最期に目にしたのは、牙の羅列。大きく開かれた顎の奥にのぞく深淵。

 タンクが魔魚人に気を取られ、僅かに離れたタイミングでヒーラーを狙っていた巨大なエリアボスが喰らいついた。


「佐藤ーー!!!」


 視界が闇に消え、隊長の叫びも途切れた。死んだ、とヒーラーは思った。丸呑みされた今あとは胃袋で消化されるだけなのだと。


 流れるように奥へ吸い込まれていく。奥へ奥へ。その途中、微かに聞こえた。



 ――……はぁ、もぅ……いっぺんだけやわぁ……。



 銀鈴の可愛らしい、幼子のような声がした。呆れ返ったような、溜息をひとつついて気配が消える。


 直後、液体の中へ落ちた。熱い液体。思ったよりも胃液はさらさらしているのだと思った。

 この中でゆっくりと溶かされていくのだろう。その前に溺れ死ぬか。

 皆もおそらく、おそかれはやかれ……か、と悔しい気持ちに潰されそうになる心。

 ヒーラーのいないパーティの生還率は低い。しかも4人。


 もう少し、私がしっかりしていれば……。


 そうだ。隊長だとかそういうのを気にせず、もっと積極的に発言していれば。……なんて、今更遅いか。


 息が苦しい。ぼこぼこと口から気泡が上へと登っていく。死ぬ、死にたくない、家に残してきた……くろのすけは、私が居なくなったら誰が面倒をみるの……。


 手を伸ばした。上か下かどこにいるのかもわからない、けれど藻掻いた。


 すると、何かに触れた。


 ……?


 声が聞こえる。人の声だ。男の人?

 まさか、あのあとすぐに二人が食べられて……?


 ……だめだ、もう……意識が……。


 暗闇に呑まれかけたヒーラー。ところが、突然腕を引かれる感触がした。そして、


「あ、あのー、え……と、大丈夫ですか……?」


 胃液の中から引っぱり上げられた……と思われたが、驚くべき事に、そこはもうエリアボスの胃液の中ではなかった。

 あたりに広がるは、揺れる水面と白い湯気。


(……これ、は……お湯……?)


 そこは、優星達が入浴していた温泉の湯の中だった。


 どういうわけか、優星たちが入浴していた湯の中に彼女は居たのだ。


 途切れかけた、ぼんやりとした意識の中、ヒーラーの女性が目にしたのは。


「…………き、」


 自分を抱きかかえている、素っ裸のオッサンだった。


「きゃああああーーーー!?!?」


 くわっと目を見開きそのヒーラーは失いかけた意識を覚醒させる。





【重要】

先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。

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