19話 先のこと
織姫はスマホを使い開示請求を調べ、渋い顔になる。それを横でのぞき込んでいた汐織も同じ表情に。
「……これ、大丈夫なの?」
汐織が織姫に聞いた。
「このまま進んだらこのお家の住所バレちゃうよね?せっかく隠してたのに……」
「……うぬぅ……ぁ……」
ゾンビのような妙なうめき声をあげ目を閉じる織姫。ちなみに汐織は織姫が神であることと優星の力のこと、全てを知っている。
ここへ来る前から織姫は沙織と連絡を取り合っており、優星をこの家でゆっくりさせたいという話もきいていた。
「これってまえにケンカしてた人でしょ?住所知ったらくるんじゃない?」
「その可能性は高い……」
「会いたい話させろってすごい言ってたもんね」
「言ってたぁ……」
膝を折り崩れ落ちるように両手を畳につく織姫。
ここまで織姫ちゃんにダメージを与えられるひとはおじいちゃんとお兄ちゃん以外で初めてみたな……と汐織は謎に感心してしまう。
暴言をしたのは悪いけれど、すこし可哀想になった汐織はしゃがみこみ彼女の頭を撫でた。
「連絡はとれないのかな?話してみたらどう?」
「……無理……」
「でもこのままだとここの住所バレちゃうよ。お兄ちゃんを勧誘しにくるんじゃないかな」
「勧誘……?」
「配信とかSNSとかネット掲示板でのあの人の発言を見る限り、多分なにかしらのシーカー関連の人だと思うんだよねえ。ほら、大攻勢でお兄ちゃんも戦ってほしいてきなこと言ってたでしょ」
「……確かに……」
「話し合ってなんとかここの情報だけは守ったほうがいいかも。開示されちゃう前に示談にしたら守れるかもだよ。お兄ちゃんの平穏な暮らしのために」
「……優星の平穏な、暮らし……」
顔をあげた織姫。ぺたんと女の子座りをし、スマホをタップ。
開いたのはSNS。実は何度か木冬木春からはDMがきていたのだが、全てシカトしていた。
そこへメッセージを入れてみる。……みようと、思ったのだが、どう書いていいかわからない。
「……」
人差し指を浮かせたまま固まる織姫。そんな彼女をみかねた沙織が手をさしだした。
「私が書いてあげる。貸して」
すこし呆れた気持ちもありながら、これまでずっと妹のように思っている織姫が困り果て泣きそうになっている姿をみて、なんとかしてあげたい気持ちが湧いた沙織。
社会経験もいちおうあるし、彼女よりはまともに書けるだろうと救いの手を差し出した。
てか、またケンカしはじめたらヤバいし。
「おお、神よ」
ほろりと一筋の涙が織姫の頬を伝う。いや神はあなたでしょ、とツッコミを入れつつ木冬木春へDMを送信。
内容は情報開示請求について話をさせてくださいという旨をあたりさわりなく、暴言を言ったことを申し訳なく思ってます的な風に物腰低く丁寧に。
すると速攻で返信がきた。
『わかりました。では直接お会いして話し合うことは可能性でしょうか。私はナイトガーデンの所属探索者でして、我々の拠点としている施設へ来て頂いてそちらで話をさせて欲しいのですが。そこでなら情報は外部へ漏れにくく、邪神ちゃんも安心して会話ができるかと』
ナイトガーデン……!?
かなり有名なギルドの名がでてきて青ざめる二人。3大ギルドには及ばないものの、ナイトガーデンはその次点に在る巨大ギルドである。
「思ったよりやべえギルドが出てきたな……どうすんだこれ」
「いっとる場合ではないのでは」
織姫のミームにツッコミを入れつつ、ナイトガーデンをネットで検索。
「ナイトガーデンは各地に拠点があるんだね。近いのだと北海道にもある……札幌と函館に二つ」
「え、いくの……!?」
「行ったほうがよくない?電話だと本当にナイトガーデンの人かわかんないし、現地で直接会って話したほうが。最近詐欺とか多いしさ」
「や、で、で、でも……」
「や、で、で、でも、じゃないよ。できるだけお兄ちゃんの情報を隠したいなら、この人に会って直接対面で話した方がいい。多分、拠点に電話したら記録とか残っちゃったりするだろうし……そうなったら、その番号から調べられてここが見つかったりって可能性も」
「……くっ……」
織姫は悩んだ。嫌いな木冬木春のいる拠点へとわざわざ赴かせられる事や、ここまで手のひらの上で転がされてる感じとか、なんか色々癇に障る……。
「えーと、本拠地は……東京か。飛行機予約しないと」
「本拠地!?なんで、わざわざ……道内でよくない!?」
「それだと道内に住んでるって教えてるようなものでしょ。バレたらダメなんだから、そういう小さな情報も与えないようにしないと」
「……たしかに……」
「とりあえず、本拠地へ訪問することDMするね。日程も決めないと……あ、あと泊まりの用意もして」
「……うん……」
沙織は悲壮感を纏う織姫の髪と肌がより白くなったように錯覚し、いたたまれない気持ちになる。
「まあ、でもさ。ついでに羽でも伸ばしてきたらいいんじゃない?」
「う?」
「久しぶりの東京でしょ。どこかで美味しいものでも食べたりさ。人の姿のままどこかに行くのは初めてでしょう?デートしてきなよ」
「……デート……!」
これまでずっと東京では優星の邪魔にならないよう猫の姿のまま側にいた。けれど、今は違う。
デート。その響きは、これから起きる嫌なイベントの数々を乗り越えられそうな程、織姫にとって甘く強い力を持っていた。
デートしたい。ずっとそう思っていた。あの頃、毎日疲れた顔をして殆どの時間を会社に缶詰状態となっていた優星にそれを言えるわけもなく、ただただ猫として側にいた。
けれど、今は違う。金もあるし何より優星は自由の身。デートができる。
「……わかった、デートする為に行く!」
「うん楽しみだね」
「3人でデートだ!」
「3人?私はここに残ってるよ」
「なんで!?」
「誰か留守番は必要でしょ。居なくなった隙にもしかしたらナイトガーデンの誰かが来たりするかもだし。まあ無いとは思うけど、念の為にね」
「……たしかに……」
織姫は感心する。いろんなこと考えてて凄いなぁ、沙織ちゃんがいてくれて良かったなぁ、マジ神。と。
「あとはお兄ちゃんにどう説明するか。連れて行くとなるとある程度シーカー関係の話はしないとダメだよね」
「そうだね……配信バレちゃうね。怒られるよね……うう」
「うーん。お兄ちゃんの性格的にあんま気にしなさそうではあるけど……ただびっくりはするだろうね。てか、ホントにお兄ちゃんシーカーとかダンジョンの事知らないの?」
「私がほぼ全ての情報をシャットアウトしてたから知らないと思う。知っててあれならやばい」
それはそうか。と沙織も思った。自分にあれほどの力があって全国的に目立っていてそれを知りながら、のほほんと平然と鼻歌うたいながら洗車してるとかやばい。
「ニュースとかみないの?」
「それ関係でたらチャンネル変える」
「ネットとかはみるでしょ」
「みるけどダンジョン系の記事や動画とかはスルーしてるし話題振ってそらしてる。というかそもそも本人がそっち系興味ないから」
「そんなことある?」
「簡単に言えば、若い人が政治に無関心で見ないとかそういう感じ」
「いや感心ある人はあるからね。……でもまあ、理解したよ。なるほど……今んとこうまーくダンジョンの情報に触れさせずに済んでるんだね」
「そう。ここまでずっと害獣駆除って体で通してきたから」
「害獣が魔物って知ったらビビるだろうねえ」
「どうしよう……ずっとおじいちゃんが優星に気づかせないようにしてたのに」
「そうだねえ。お兄ちゃんの力やばいもんねえ。誰かに利用されないように、お兄ちゃんが平穏に暮らせるようにおじいちゃんも隠してたもんね」
ダンジョン外では普通の人として暮らしていける。異常なのはダンジョンの中で、魔物を簡単に倒せる力。
だからこそ、熊を怖いものだと思うようにしたりダンジョン外での一般人としての常識を身に着けさせていた。
ダンジョンにさえ近づきさえしなければ、普通の生活ができるように、おじいちゃんが。
『優星があの力を自覚すれば、自分の事を化物だと思ってしまうかもしれん。……そうなれば、精神的に耐えられんだろう。だから知らん方がいい』
そう哀しく微笑むおじいちゃんの言葉を織姫は思い出した。
「っていうか、そもそもなんでダンジョン配信させたの?」
「平穏に暮らすにはお金が必要で……」
「あ、言ってたか。けど他の仕事じゃダメだったの?」
「他の仕事はいいかもだけど……でも、定期的に魔物を間引いてくれないと、あのダンジョンは他のと同様にブレイクして災害になる。だからここに住んでてほしかった……おじいちゃんが居なくなった今、なんとかできるのは優星だけだから」
「そっか。まあ、そうだよね……」
山のようにAやSレートが出現するあのダンジョンは優星でなければ処理するのは無理だ。
お金の問題、ダンジョンの問題、優星の平穏な日常。
どれもを望んだ結果がいまのこの状況なのだ。
「でも、さ」
「ん?」
「それも話したらいいんじゃない?」
「話すって?」
「木冬木春さんに」
「えええっ!?」
「大攻勢が起こるってあの人は断言してた。それを乗り越えるためにお兄ちゃんの力が使いたいって」
「うん……それが?」
「つまりこの交渉はお兄ちゃんを所有している私たちの方が強いんだよ。あの人がナイトガーデンって組織の所属である以上お兄ちゃんの力は何としても逃したくないはず。だから、きっとこちらの要求はある程度聞き入れてくれる……そこにダンジョン関係を誤魔化す感じの要求を盛り込むとか」
「そんなのできるの……!?」
「わかんない!けどやるだけやってみないと。お兄ちゃんの為にさ」
「……」
「みてた感じ、あの人も悪い人じゃないと思うんだよね」
「え、そう?」
「うん。なんか織姫ちゃんに似てるし」
「なんで!?どこが!?似てないよ!?」
「あはは。まあ、とにかく話し合いだね。軽く事前にこっちの事情を話しておこう。ナイトガーデンは、シーカーではなく害獣駆除のハンター関連の組織だって話にしてもらって、魔物も害獣ってことにしてくださいってお願いしとこっか」
「……うん。そうだね。お願いします……」
返信を沙織が打ち込もうとしたとき、小さく「……あ」と漏らした織姫。
「ん?どした」
「……配信、お金のためだけじゃない……私、承認欲求をみたそうとして、それで……」
神ゆえの欲求。信仰を食む神にとって、それは食欲に近いものだと沙織は理解している。
隠されたダンジョンの神はおそらく飢餓状態だったのかもしれない。
涙目の上目遣いのあざとい邪神のあたまを沙織は慰めるようになでた。
「気持ちはわかるよ。私だって、配信みてお兄ちゃんカッコいいー!ってチャットしたりして楽しんでたもん。織姫ちゃんだけじゃないよ、それ」
「……し、しおりぢゃんん……ふえ」
汐織に抱きつき泣く織姫。神として人より多くの年数存在しているが、人としてはまだ幼い。
手のかかる可愛い妹。そんな思いで、汐織は織姫の小さな身体を抱きしめた。
そうして、それから。DMでのやりとりはさくさくと進み、結局配信での暴言関係の部分だけは優星にバレて怒られた織姫。(※シーカー関係は隠せている)
木冬木春の配信での暴言という事にしてもらい、その謝罪の為という名目でいざ東京へ。
ちなみに交通費や宿泊代全てをナイトガーデンで持ってくれた。
――ナイトガーデン会議室――
水色の瞳が水面の様に揺らぐ。小柄な体が微かに震え、短い銀の毛先が揺れている。
「……隊員各位。今日のこの話し合いでこのギルドの……いえ、この国の未来が決まります。気を引き締めていきましょう」
まるで黒いドレスの様にスカートがふわり揺れる。
木冬木春こと、柊椿は制服からウィザード用の戦闘衣へ着替えた彼女は大きな杖を持ち歩き出した。
【重要】
先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。




