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17話 ひかれる存在


『これはさすがに死んだか?』

『やば』

『なんじゃこりゃあ』

『邪神ちゃん大丈夫!?』


 まだ黒い霧のようなものが漂う中、数十秒時間が経ちみえてきたのは、超巨大な爆発によりあいた月のクレーターの様な大穴。


 黒い電気エネルギーが舞う砂の間にときたま走り、そこかしこで小さな小爆発もみえる。


 邪神ちゃん

『大丈夫』


『おおお』

『よかった〜』

『まじでびっくりした』

『よかった』

『離れた場所にいたのか』


 優星にここからの階層は近くにいると巻き添えを食らって危ないからといわれ遠ざけられていた織姫。

 結界張れるから大丈夫と抗議し側にいようとしたが却下されて遠巻きに見ていた。ちなみに近距離にあったドローンカメラには織姫の結界が施されているため、ぶっ飛ばされはしたが壊れてはいない。


『いやまて』

『無職くんは!?』

『爆発の瞬間そこにいたよな』

『あれ食らったらしぬだろ』

『モロだからな』

『世界トップクラスのナイトやタンクでも重傷だろ』


 優星の安否を案じるチャット欄が高速で流れていく。その最中、爆発の大穴があった数メートル向こうにまた巨大な、大きな滝が逆流したかのような天へと昇る黒い砂が出現。


 その中から現れたのは、Sレートのムカデの魔物『黑鬼百足呪界』の頭部に剣を突き刺し飛翔する優星だった。


『!?』

『はあああ!?』

『えええ』


 爆発する瞬間、優星は砂漠の中へ潜った。無理やり剣と拳を使い掘り進み、砂の中に潜むムカデの元へとたどり着き一撃。

 それがちょうど地上で大爆発が起きた時だった。


 優星の一撃を尾でガードしたムカデ。ナイトの扱う盾のような形状をした尾は、硬い甲殻を持つムカデのなかでも更に頑強な部位。しかし、優星の一撃はその盾を一撃でバラバラに粉砕してしまった。


 勝ち目が無いと判断したムカデは高速で砂中を移動して逃げようとした。が、優星に追いつかれ、顔面へ剣を突き刺された。


 そのまま地上へ引きずり出され、空中へ。←今ココ


「釣ったどおおおーーー!!」


『古っ』

『は?』

『えええ』

『一本釣りww』

『大物すぎるわw』

『迫力やべえな笑』

『釣ったどおおってww』


 ムカデは頭を貫かれていたが、生命力が高く頭を振り優星を引きはがす。そしてそのまま額の大型ブレードを優星めがけ横長に振り抜いた。


 受けた黒狼剣との間に火花が生じる。


 優星はうまく力を逃し、その巨大なブレードに身体を転がし、回転しながらムカデの頭部に黒い大剣を振り抜いた。


 ギイイイと雄叫びなのか悲鳴なのか、凄まじい鳴き声が放たれた。

 ムカデは身体を捻りふたたびブレードを真上から優星へ落とす。


 巨体とは思えないほどの高速の斬撃。並のシーカーであれば真っ二つ……どころか粉々である。しかし、優星はスレスレで躱す。

 そしてそのまま、大剣をぶん回しブレードの腹へあてた。


 破壊され、砕けた巨大な刃。破片が舞い散る中、優星はムカデの頭を叩き潰す。

 砂上へ叩き落とされた頭部がボンと吹き飛び、二つ目の大きなクレーターがそこに現れた。


「……げほ、うわぁー煙い……俺煙草とか苦手なんだよな」


 手で砂煙をはらいながら、肩に剣を担ぎ現れた優星。いや煙草とは違うだろ、とリスナーがツッコむが驚きのあまり誰一人チャットに打ち込む事はできなかった。


「織姫、大丈夫か?怪我ないか?」


「うん、ありがと……ないよ」


 にこにこと天使のような微笑みを浮かべ、優星の腕に抱きつく織姫。

 その時、目線がドローンカメラへ向き、にちゃあ……と邪悪な笑みへと変貌した。おまえの席ねえからァ!と言わんばかりのとあるリスナーへの圧。


 しかしその圧を受けたであろう木冬木春は、戦闘が開始されるまえに聞いた邪悪ちゃんの言葉に動揺していた。


 それは無職くんの適性ジョブとスキルについての邪悪ちゃんの見解。


『無い』


 そう言っていた。そして、更にこうも。


 邪神ちゃん

『シーカーのジョブやスキルは魔力に適応できた人がその力を自分の扱い安い能力にデザインした結果。本来、ナイトだとかヒーラーだとかそういう括りはない。でも全ての力を扱うことは無理だから、シーカー達はどれか得意なものに特化させ、力をその方向へ育てる。無意識にね』


 ジョブっていうのは分かりやすく区分した名前。識別名称だね、と織姫は付け加える。


 木冬木春

『ゲームで例えるなら、プレイヤーには決められたポイントが与えられてて。だから振り分けられるステータスには限りがあって全部は強化できない。そして成長率、つまりジョブ診断ででたものに振り分けた方が効果が高い』


 邪神ちゃん

『そう。そのポイントが多いか、成長率が高いかによってシーカーの等級が変わる』


 木冬木春

『じゃあ無職くんは?無いってどういうこと?』


 邪神ちゃん

『無いんだよ。特化させる必要がない。ゲームでいうなら全てのステータスの値がMAX。その上ポイントが余って溢れてる』


 木冬木春

『全てが』


『えどゆこと?』

『つまり最強ってことか』

『なるほどわからん』

『誰も勝てねえってこと?』

『最強のプレイヤーって感じか』

『なんでもできるオールラウンダー』

『まじかよ』


 邪神ちゃん

『まあ環境にもよるけどね。私がいないとコントロールしきれないこともあるし。ナイトガーデンの時みたいな』


 木冬木春

『けどあれは?あの時、スキルみたいなのを発動したでしょ?周囲の魔力を分解して操るみたいな』


 邪神ちゃん

『あれは、べつに無職くんがしたんじゃない。勝手に寄ってきただけ』


『??』

『寄ってきた?』

『どゆこと』

『わけわかめ』


 木冬木春

『もしかして、魔力がってこと?』


 邪神ちゃん

『せやで』


『はあああ!?』

『え、まじで意味わからんが』

『それ本当なら魔力は意志があるってこと?』

『魔力が寄ってくガチか』

『良いシーカーは魔力に懐かれちまうってやつか』

『ねーよww』

『それはさすがに嘘だろ』

『きいたことねえぞ』


 木冬木春

『でも確かに。シーカーによって魔力が回復しやすいとか、扱うのが上手いとか、そういうのが実際ある』


 邪神ちゃん

『でも無職くんは特別。あれだけ神に愛される人は他にいないよ。だから魔力が惹かれ寄っていくんだよ』


 木冬木春

『神に愛されると魔力がってどういう意味なの』


 邪神ちゃん

『魔力っていうのは神の持つ力が溢れ現世に現れた物だからだよ。そもそもダンジョンというのは神の持つ力が高まりすぎて形を成した物。だから洞窟内の殆ど全ては神の魔力で作られていて、神は無職くんのことが大好きだから魔力が引き寄せられていっちゃう』


 そこで話が終わり、優星とムカデとのバトルが勃発。

 なんだかスピリチュアルな話になってきたなとリスナーたちは半信半疑だったが、木冬木春はそれならば全て腑に落ちると感じていた。


 むしろでなければ説明がつかない。例えS級シーカーだとしても保有できないであろう、身に余る膨大な魔力量。

 残されたサンダルに傷一つ無かったのは、無職くんの物だから壊さないように守っていたから。

 そして無職くんの持ち物に魔力が集まっていたのは、無職くんの持ち物だから。甘い蜜に虫が群がるかのように。


 そういえば、あの時……と、木冬木春がまたひとつ思い出した。

 無職くんは水龍と対峙してるとき、ぶつぶつ何かに話かけていた事を。あれは、寄ってきた魔力に話しかけていたのか。


 どんどんと砂漠の奥地へ進む無職くんと邪神ちゃん。日照りと砂場の熱気、陽炎が遠くで揺らめいていてかなりの暑さだと思われるが二人は涼しげな表情。


 これもまた魔力に護られているからかと木冬木春は考える。邪神ちゃんは無いとはいっていたが、仮につけるならばスキル名は『神の寵愛』『神の加護』そんなところだろう。


 その場の鉱物や魔物、全てに影響を与えてしまうほどの……扱いきれないくらいの膨大な魔力を神に貢がれる無職。


 木冬木冬

『究極の神垂らしね』


 邪神ちゃん

『おい。おまえ言い方』


 木冬木春

『なるほどね。だからあの大剣は無職くんの魔力を分解し続けているのか』


『ん?』

『分解』

『は?』

『魔力を分解!?』


 木冬木春

『あれは触れてるものの魔力を消失させている。そうよね?』


 邪神ちゃん

『そう。あの黒狼剣は触れたものの魔力を打ち消し続けてる。そういう素材と私の力でつくった特殊な剣だよ。私がいるから大丈夫だっていったけど、また万一あんなことになったらヤバいからって無職くんが武器庫から取り出してきた』


『強すぎるから自ら弱体化させてるってこと?』

『セルフデバフってことかよ』

『やべえww』

『え、待ってその状態でこれなん?』

『いやSレートそれで倒せんのチートだろww』

『わい未だにようわからんねんけども』


 木冬木春

『要するに、いっぱいかってに魔力が集まってきて無職くんなんでもできて最強!でも集まりすぎたら暴走するかもだから剣で魔力打消してるよー、ってこと』


『なるほど』

『やはりチート』

『すげえな』

『がちもんのばけもん』

『ほな無敵やん』

『いや下手したら暴走すっから危なくね?』


 木冬木春

『その通り。かなり危ない。魔物を見る限り、ここのダンジョンはAランクの水神之災禍とは比較にならないくらい魔力がある。もしここで暴走してダンジョンブレイクが起こったら、日本どころか世界レベルの災害になるかも』


『ふあ!?』

『いやたしかに』

『大攻勢こえちゃう案件?』

『世界滅亡で草ぁ』

『もはや無職くんが神だろこれ』

『無職くんに人類の命運がww』

『もう下手に働けとはいえない』


 邪神ちゃん

『そんなの心配ない。私がいるから暴走はしない。絶対に』


 木冬木春

『でもこの前はしたでしょ。そういうイレギュラーな事があるかも』


 邪神ちゃん

『絶対にない。剣あるし。ていうかもう絶対側はなれないから。一生』


 木冬木春

『絶対はない。そうなったら困る。とりあえず無職くんとあわせてよ』


 邪神ちゃん

『は?絶対いや』


『またバトルがww』

『本日の第2ラウンドがwww』

『盛り上がってまいりました』


 木冬木春

『話し合うくらい良いでしょ?配信越しでもいいから』


 邪神ちゃん

『いやです』


 木冬木春

『もしかしてとられちゃうかもって思ってたり?』


 邪神ちゃん

『や、とられないし』


 木冬木春

『まあ邪神ちゃん怖いか。性格悪いもんね。配信しらないんでしょ無職くん。これまでのチャットみたら幻滅されちゃいそうだもんね』


『激しいなw』

『じゃれ合いじゃくなってきてるぞ』

『ガチバトルか?』

『無職の男をかけた熱い戦い』

『どちらが養うのかッ』


 邪神ちゃん

『されないってーの!そんな心せまくねーっての!お前に無職くんのなにがわかるんだよ!』


 木冬木春

『わかるよ。きっと無職くんは怖かったでしょ、あのときダンジョンが崩壊しそうになって。だから頑張って自分の力抑え込もうとしてるんじゃん。セーフティがあんただけで十分ならあれ使わないでしょ。邪魔だし』


 邪神ちゃん

『邪魔なのはあんただってーの!まじでうるさい!私がちゃんと責任もって無職くんと添い遂げるから大丈夫だってば!!神がいってんだよ?信じろよ信仰薄いなぁーもう!!いらいらする』


『信仰薄いは草』

『いらつかれてらっしゃる』

『おお、神よ』

『wwwww』


 木冬木春

『わかったわかった。信仰するからあわせて神様。これでおk?』


 邪神ちゃん

『おい、舐めてっと天罰で殺るぞ木冬木春。邪神の名にかけて、お前を殺すぞこら』


『キレたwww』

『なめられててワロタ』

『ライン越えたww』

『邪神の怒りを感じる』

『シンプルに殺すぞは草』

『天罰www』

『邪神の名にかけるな』

『おいw大丈夫かww』

『あっかーん』

『祟られるけい?』

『怖すぎてちびた』

『やばいよこれwww』

『どんな脅し文句だよ』



 ――その後、木冬木春のコメントを見たものは誰もいなかった。



 邪神ちゃん

『邪神ちゃん勝ちました!ぶい☆(^^)v』




【重要】

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