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16話 狼煙


 おじいちゃん家の裏山の洞窟。その70階層にはおじいちゃんが作った山小屋がある。

 かなり広めで、ちょっとした別荘のような見た目と内装をしているが、置いてあるものは大剣やダガー、斧、大槌などの武器。どちらかというとちょっとした武器庫である。


 いま優星が片手でぶん回しているのは、そこに置いてあった黒色の大剣。名を『黒狼剣』といい、2メートルそこそこある長物である。


 特殊な鉱物と魔石と織姫の魔力により構築された武器。ただ、刃先が無く斬るというよりは叩き潰す系の得物。剣というよりは平たい黒鉄の鈍器のようなビジュアル。

 普通のシーカーには扱えない異様な性能をしている。


「どう?」


「うん、大丈夫だ。中学生ん時ぶりに握ったが、違和感もない」


「よかった」


 にへらっと破顔する織姫。


「ひとまず安心だな。ありがとな、織姫」


「ううん、えへへ」


 黒剣を肩に担ぐ優星は、空いている手で織姫の頭を撫でてやる。織姫は目を細め、とろんとした甘い表情で心地よさげに微笑む。


『さっきまで悪態ついてた奴とは思えんww』

『確かに』

『こうみるとかわいんだけどなw』

『さすがは邪神』

『いや邪神ちゃんはいつも可愛いだろいい加減にしろ』

『つかまじで軽々もつなwあの大剣もしかしてカーボン素材か?』

『実はめっちゃ軽い素材なのでは?』


 邪神ちゃん

『優星の剣の重さは1.8tだよ』


『ふあ!?』

『いっ……』

『え?』

『待っておかしいだろ』

『あははwやだなあそんな冗談』

『片手で振り回してましたが』

『ナイトとかタンクがもつ大型武器ってどんくらいなん?』

『だいたい300〜600kg』

『三倍っすかww』

『やっぱ人間じゃねえぞこれ』

『すげえ』


 邪神ちゃん

『まあ剣というか拘束具なんだけどねこれ』


『え?』

『どゆこと?』

『敵を拘束するってことか?』

『ギミックつきの大剣か』

『説明求む』

『ほへーただの大剣じゃねえのか』


 木冬木春

『やっぱり。流れる魔力の感じが普通のシーカー用の武器とは全く違うと思った』


『お』

『ついに配信に来たかw』

『ちす木冬木春ぱいせんw』

『これは盛り上がってまいりました』


「……ちっ」


『舌打ちしたぞ』

『ワロタ』

『さっきのもあってかなりイライラ』

『さっきってーかここ最近やりあっとるでこの二人』

『せやねUwitterやら色んなSNSで』

『俺は過去配信のアーカイブのコメ欄で戦ってるのみたぞw』

『ええ』


 木冬木春

『それ材質はなに?なぜそんなに重たいの?』


 邪神ちゃん

『私の愛情が込められてるから』


 木冬木春

『寒っ』


『ww』

『おいww』

『やめろ』

『はええよ』

『タイミングすごいな』

『読んで待ち構えてた?笑』


 邪神ちゃん

『本当だよ。じゃあ実際うけてみる?脳天に直に叩き込んであげる。きっとすみませんでしたーって地面這いつくばることになるよ』


 木冬木春

『え、まじで?言ったね?住所DMしてよ。絶対行くからさ。神様なんだよね?勿論言った事には責任とるよね?お土産なにがいい?』


 邪神ちゃん

『嘘に決まってんじゃんばーか!あほ!まーぬけ!』


『貧弱語彙定期』

『これは可愛いすらまである』

『まーぬけは独特やなw』

『この画面の白髪美女からの暴言となるとね』

『ごち』


 邪神ちゃん

『ごちじゃねーよ!きんも!』


『ww』

『ありがとうございます』

『待ってそれ肉声で頼む』

『変態わきだしたwww』


 そんな感じで一生懸命にスマホでチャットを打っていると、準備運動を終えた優星が織姫の元へ歩いてきた。


「よし、邪神ちゃん。行くぞー」


「あ、うん……いこ!」


 煌めく白髪を揺らし、眠たそうなジト目が彼の背を追う。ほわほわした雰囲気の華奢な少女が、純白のワンピースの裾をふわふわ揺らして無職くんの隣に並ぶ。

 にこにこと僅かに頬が緩みご機嫌な事が見て取れる顔をしていた。


『オモテヅラはええんよな』

『やっぱ好きな人の前では乙女ってことか』

『無職くん顔悪くないしな』

『えカッコいいだろ』

『私すきだが』

『女性ファン多いよな』

『男もおるで』


 邪神ちゃん

『ガチ恋勢は消すからな人カスどもが』


『こわあああww』

『人 カ ス ど もww』

『これマジで言ってるだろw』

『口の悪さマジ邪神ちゃん』

『いやチャット見てるんかいww』

『とんでもない暴言w』

『だがそれがいい』

『歩きスマホだめでしょーが』

『wwww』


 木冬木春

『私も好きなタイプなんだよね無職くん。お近づきになりたいな』


『おおおお』

『煽りか?』

『これはバトルの予感』

『わくわく』

『やばー』


 邪神ちゃん

『あ?なんつった、おお?忘れてやるから二度というなこら』


 木冬木春

『顔が特にいい。すこしあるめのくまが色気あってさ』


 邪神ちゃん

『だまれだまれだまれ!おまえなんて無職くんの強さだけが目的なくせに!』


 木冬木春

『そんな事ない。私恋愛とかしてこなかったけど初めてお付き合いしたいって思った。顔で』


『顔でw』

『顔かw』

『顔www』


 邪神ちゃん

『うるっっっせええ!誰も聞いてねーわ!!!』


 木冬木春

『まあ最近は性格も良いと思うようになってきたけどね。ほらまえにナイトガーデンの配信とか出てたでしょ?無職くん皆のこと守ってくれてさ』


 邪神ちゃん

『あたりまえだろーが!無職くんは優しいんだよ!!』


 木冬木春

『そう!優しいところいいよねー!そこも大好きなんだよね!!』


 邪神ちゃん

『あたりめーだってーの!!大好きだってーの!!』


『なにこれw』

『これが新手の推し活バトルですか』

『いや喧嘩だろww』

『賑やかでおもろいな今日は特にw』

『犬猿の仲ってやつか』

『こいつらみてるだけでもおもろいかもな』

『ww』

『確かに』


 木冬木春

『ところでこの剣って刃が厚くない?斬れるのこれ』


 邪神ちゃん

『むかし見様見真似でつくったから。私刀鍛冶じゃないし。斬れるやつなんてできない』


 木冬木春

『なるほど斬るんじゃなくて叩き潰す感じか』



 おじいちゃん家のダンジョン、80階層はスタート地点周辺は広い草原である。

 そのすこし先からは黒いエリアが広がる。『魔瘴鉄』と呼ばれる、高い魔力を秘めた砂の満ちる大砂漠。


 優星らがそこへ足を踏み入れた直後、砂が足場が揺れ始める。やがてそれは巨大な地鳴りになり、巨大な影が優星の目の前にあらわれた。


 一言でいうなら巨大なムカデ。


『黑鬼百足呪界』


 無数の角が頭部から突出し、中央に巨大なブレードが伸びている。優星の持つ大剣の三倍はあろうかという巨大な刃。

 周囲には黒い塊が電撃を放ち無数に浮き上がっていた。


「……来たな、黒砂糖くん」


『黒砂糖くんw』

『これやばない?』

『わしこの魔物みたことないんやが』

『ヤバい事だけはわかるぜ』

『あのふよふよしとるのはなんや』

『異常な量の魔力が込められてるな』

『つかデカすぎだろ』

『こないだの水龍の数倍あんだろこれ』


 木冬木春

『それどろころかこっちの方が強いよ』


『え』

『まじで?』

『あの水龍より強い!?』

『まってあれってSレートだったろ』


 木冬木春

『このオオムカデは3大ダンジョンの中層辺りにでてくる魔物、黑鬼百足呪界。レートはS』


『なんて?名前やば』

『レートS!?ここ80階層だぞ』

『いやでもAばんばんでてきてたしな』

『つかあれ?水龍もSだったよね?こっちのが強いんだ?』


 邪神ちゃん

『本来あの水龍はAレートの個体。それが無職くんの影響でSクラスまで力が引き上げられた』


『んんん?』

『無職くんの影響?』

『どゆこと?』

『は?』


 邪神ちゃん

『よくもわるくも無職くんの側にいたら皆強化されちゃうんだよ』


 木冬木春

『それはスキル?それともジョブのバフ?あなたの見立てでいいから教えて。無職くんの適性ジョブとスキルはなに?』


 邪神ちゃん

『無職くんの適性ジョブとスキルは』



 ――ドオオオンン!!という轟音の直後、あたりに黒い粉塵が舞う。


 ムカデが自身の周囲にあった黒い魔力の塊を放ち、優星がそれを躱したことによって砂場を吹き飛ばした炸裂音。

 あの黒い塊はムカデの魔力をコアとし砂が引き寄せられて作られた高密度の砂塊。

 触れれば解放され、高威力の爆弾のように周囲を吹き飛ばす。砂の細かい散弾があらゆるものを削り消滅させてしまう。


 しかし優星はそれを剣でガード。そのまま振りかぶりながらムカデへと接近し、片手で約2トンの鉄塊をぶん回す。

 ムカデの長い脚が十数本宙に舞った。


「!」


 頭を狙ったつもりが、ギリギリで回避された。ムカデは優星が迫った瞬間に死の悪寒を感じ取り、身を捩り凄まじいスピードで砂の中へ退避した。そのため脚をわずかに失う程度で済み死を免れた。


 砂の中を高速で移動するムカデ。砂上につったっている優星が剣を肩に担ぎ首をこきりと鳴らす。


「うーん、やっぱ久しぶりだから上手くつかえないか。問題ないと思ったんだけどな……」


 周囲に黒い塊、砂の爆弾がふたたびあらわれる。しかも先程とは違い、数倍の巨大な塊。それが優星の周囲に数十もの数、急速に出現し始める。そして、


 ――チッ


「おっ」


 優星が気の抜けた「おっ」という言葉を発した直後、塊同士が触れ炸裂。


 全てが連鎖的に爆発し、真っ黒な爆風にカメラが覆われ何も見えなくなった。

 画面越しでも伝わる途轍もない爆風の圧と爆発の凄まじさ。


 轟雷が落ちたかのような凄まじい音だけが真っ暗なモニターの向こうで鳴り響いていた。




【重要】

先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。

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