4-2 出来損ないのカメレオン
今日一日、放課後まで何度授業を抜け出そうと考えたことだろう。
俺はその疑問に答えあぐねながら、重い足取りで種田の家に向かっていた。
授業を抜け出すあと一歩がどうしても踏み出せなかったのは、種田にどんな顔して会えばいいのかわからなかったからだ。
俺は種田の苦しむ様をただただ傍観するのみであった。あまつさえ知らない顔をして平然と教室に向かおうとしていた。
そして、種田と目が合った。
平然とそこに立ち尽くしていた俺に対し、種田はどんな感情を抱いたのだろう。
……考えただけで罪悪感が胸一杯に広がる。
確かに種田と過ごした時間なんてここ二、三日程度だったし、俺が思っている以上に種田は俺のことなんか気にしていないのかも知れない。
だけど少なくとも、俺にとっては楽しい時間であった。
今後、数パーセントでも、小数点以下の確率だろうと、種田を助けられる可能性があるのならば、俺は何が何でも助けてやりたいと思った。
そして何より、俺は種田に謝らなければいけない。
許されるとは思っていない。人に見捨てられるということはどれだけ心細いことであるか。それはすでに経験済みであった。でも見捨てた。
……これはただの自己満足なのだろう。
俺の謝罪の気持ちを伝えたい。それを種田がどう捉え、どう対応しようが構わない。
ただ、誤解を含んだままで終わりたくはなかった。断罪される前にただ懺悔をしたい。そんな幼稚な考えだった。
「……着いた」
昨日のおぼろげな記憶頼りではあったが、何とか種田の家の前にたどり着いた。
「……」
いざ家の前に来ると、気まずさから、自分がさっきまで考えていたことを全てないがしろにし、ここから逃げ出してしまいたくなる。
……しかし、このまま試作を重ねようが、たどり着くのは結局、謝罪をしたい気持ちであろう。一度出した結論を覆す必要はない。
とにかく、インターホンを押してしまえば、もう退路はふさがれる。
……押そう。そして、俺の情けなさをありのまま伝えよう。
俺は意を決してインターホンを押した。
しかし、反応が返ってこない。しかも扉越しに人の気配を全く感じない。
そのまましばらく待ってみたが、相変わらず反応は無いままであった。
……出ないか。流石に無理やり進入することもできない。
ならばと、俺は携帯電話を取り出す。昨日、種田がかけてきた電話番号が履歴に残っているはずだ。
「出てくれよ……」
しかし、その願いもむなしくワンコールで聞こえてきたのは電源が入っていないという情報を伝える無機質な声だけであった。
そして、それははっきりとした種田の拒絶の意志表明であった。いまは誰とも会いたくない。そんな心境なのであろう。
……いまこの時点で俺ができることはなくなってしまった。
俺は種田の家を後にしようとする。
とにかく、何度でも来よう。今の俺に出来ることはそれしかない。
―――じゃあな。種田。
種田の家を横目で見ながら、心の中でそう唱えた。この調子だと、種田は明日も学校に来るかはわからない。それはまずいことのようにも感じられるが、同時に懸命な判断なようにも思えた。
今日の様子だと、野田は相当腹を立てている。
のこのこと学校に来て危険にさらされる可能性があるならば、自宅にいた方がいい。
そして、あのとき教師が止めに入ったからその後の対応が行われるはずだ。そうすれば、種田が今より学校に来やすい。そうやって環境が整ってから学校に足を運べばいい。
そしてそのとき、俺は種田を助けてやればいい。
……しかし、これは俺がただ種田に会うことが怖いから自分に言い訳しているだけなのかもしれない。……いや、でも種田が拒絶の意志を示している以上――
……やめよう。無駄な押し問答だ。
結局、俺が種田をその場で助けられなかった。会って罵られることを恐れている。ただ、それだけのことだ。
自分の矮小さに飽き飽きする。現状何も出来ない俺に出来ることは、種田にひたすら「ごめんなさい」と心の中で唱えることだけだった。




