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ストレンジカメレオン  作者: チャンカパーナ橋本
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3-6 何か違う

 俺が考えるに、学生オタクには二種類のタイプがある。


 ひとつは、「全身全霊を掛けてオタク活動をするタイプ」。そしてもうひとつは、「あくまで趣味のひとつとしてオタク活動をするタイプ」。


 前者のオタクは上記の通り、全身全霊、その身ひとつでオタク活動に励むため資金投資もほぼ全てオタ活にそそぎ込まれる。


 一方、後者のオタクはあくまで趣味の一つとしてとらえているため、資金投資の割合もあくまで一部分である。


 この時、前者の全身全霊タイプは弊害がでる。 それは、オタク界に資金等を注ぎすぎるあまり、他のことに費やす資金を削らざるを得ないケースが生じることである。


 ありすぎる例えが、服にかけるお金を減らす等である。この現象を起こしすぎると、着ている服が余りにもヒドい経年劣化を起こし、見かねたお母さんがくそダサいトレーナーを買ってくるという屈辱的なイベントが発生する。


 このカテゴライズに種田を当てはめるのだとしたら、種田は確実に全身全霊タイプであると思っていた。

 しゃれおつな喫茶店など知る由もなし。何よりそんなとこにお金をかけるぐらいなら、グッズに捧げるとか言い出すタイプだと、失礼ながら考えていた。


 だが、種田が「ここにしようか」と提案してきたカフェは、おっそろしくおしゃれなカフェであった。

 どれぐらいおしゃれかというと、おしゃれカフェ特有の、「異常に陽当たりがいい」、「窓際の席にいる人間がだいたい茶髪」、「店員にコンプレックスが見受けられない」、という俺が独断と偏見でしかない状態で定義した条件をあっさりとクリアしていた。


 しかし、こんなしゃれおつなカフェに堂々と入っていく種田を俺は少し尊敬した。

 やっぱ人間をカテゴライズする行いほど、不毛なものはないってことですな……。


「いらっしゃいませ! お二人様ですか??」

「はいー」


 はきはきとした声の店員の質問に種田が答える。ああ、店員さんのこの明るさ、苦手だ。たぶんいい人なのだろうけど。だからと言ってコンビニにたまにいる「いらっしゃいませ」を「……しゃっせー」とか言っちゃう系の店員に対しては、なんだこの野郎って思ってる。自分にクズな一面が微塵もないという者だけが私に石を投げなさい。


「こちらの窓際の席へどうぞ!」


 そう言って窓際の席へ案内される。ああ、たぶんこの店はいい店。高級フランス料理店とかって、見栄えの良い人しか窓際の席へ通さないとかあるらしいけど、ここは俺みたいな不細工も通すらしい。差別しない良い店だね! まあでも、窓際だと晒されてる気分にも俺はなり得るけどな! 痛い! 石痛い!


「こちらメニューになります。それでは、ごゆっくりどうぞ!」


 そういって店員は席を後にする。とたん、種田はふーっと深く息を吐く。


「はー、緊張したー。正直、こういうとこあんまり慣れてないんだよねー」


 それは意外な答えであった。緊張したような様子は特に見受けられなかったから。


「そうは見えなかったけどな」


 感じたままの感想をぶつける。


「そう? 演技力あるのかなわたし」


 そう言い放つ種田の額には、よく見るとじんわり汗が広がっていた。どうやら本当に緊張していたらしいな。


「つーか大体、俺に言っちまったら演技した意味ねえじゃねえか」

「ははっ、確かに。でもいいの。私、自己保身病だから」

「なんだそれは……」


 まーた、すごいこと言いだしたぞコイツ……。


「自己保身病はね、誰かに何かを言われる前に、自分のやってたことをバラしちゃうの。さっきみたいに。そしたらいきなり指摘されるよりダメージ少ないでしょ?」


 ああ、少しわかる。俺もたまにやる手法だ。

 学生において、見栄や虚飾は断罪の対象。バレたときのリスクがデカすぎる。ならば、十のダメージを被る可能性を残すより、五のダメージを確実にうけて終わらせる。一つの自己防衛手段だ。


「まあ、でも今回に限ってはそれ、言わなきゃバレなかったのにな」

「いいのよ、バレてないかハラハラするよりマシだし。それはそうと、何頼む? 奢るから好きに頼んで良いわよ。常識の範囲内で」

「俺は常識とかいう小さな檻の中じゃ飼われない!」

「捕まる前にその考え改めてね」


 まあ、こんなくだらないことを言っているが、俺は高校生ナンバーワンモラリストであると自負している。遠慮すぎず、図々しすぎない中間の値段のアイスコーヒーを頼むことにした。


「なんか中途半端なもん頼むわねー。もっとドカッと行けばいいのに」


 ……俺の思いやりは中途半端だと一蹴された。 ああ、神様。思いやりとは一方的かつ自己満足的なものでしかないのですね……。


「すいませーん」


 店員を呼んで種田はテキパキと迅速に注文をすませる。


「つーかよくこんな店知ってるな。種田はてっきり俺と同じで、メシ代とか削ってグッズとか買うタイプだと思ってたから」

「……水谷君、ご飯代削ってグッズ買ってるの?大丈夫?」

「え? これオタクあるあるじゃないの?」

「どこのあるあるよ……」


 おかしいな。俺の読んでるマンガだとこういうオタク出てくるんだけどな……。すげえポピュラーな事案だと思ってたわ……。


「いやまあメシ代つっても、俺の場合は外食をなるべく控えるとかだけどな。家にメシはあるし」

「ああ。そういうのだったら、みんなやってるんじゃない? 洋服買うためとか。私は基本的に買いたかったら買う、食べたければ食べるタイプだからあんまり気にしないけど」


 ああ、なるほど。そちらのタイプの方ですか。こういうタイプ、金持ちの奴が多いんだよなあ。今までの横暴っぷりといい、絶対こいつ金持ちだ。(偏見)


「お待たせしましたー!こちら、ハーブティーAセットとアイスコーヒーになります」

「どうもー」


 種田がお礼を言い、俺が会釈すると、「ごゆっくりどうぞー」という声と共に、店員は厨房の方に消えていった。


「とは言ってもさすがにこういう店はお母さんとかに奢らせない限り絶対入らないわね。この私の紅茶とケーキのセット、八百六十円よ。ラノベ一冊、確実に買えるわ」


 うわあ、さっき種田の注文聞いてて、俺も全く同じ換算の仕方しちゃったわ……。


「いわば来客用よ。見栄張ったの見栄」

「……それも自己保身病か?」

「……言うんじゃなかったわね」


 そう言って種田は眉毛をぴくつかせながら紅茶を飲んだ。俺も飲み物を一口も飲んでいないことに気づき、アイスコーヒーを口に運ぶ。うん、よくわからないが、インスタントのよりはうまい。


「……ところで、いつ野田はスカウトしに行くんだ?」


 互いに飲み物を飲んだ後、妙な間が空いたところに俺が本題をぶつけた。色々間をつなぐ話題を考えたがいまいち思いつかなかった。

 しかし世間話をする間柄でもないだろう。話すことと言ったらこういう利害関係ありきのビジネスライクな話がベスト。そう考えつつ、再びアイスコーヒーを口に運ぶ。うん、コクが違う気がする。


「明日よ」

「ゴフッ!!」


 俺は心の中でコーヒーを吹いたが、現実ではモラリストなのでむせる程度で済ませてやった。しかし恐らく50円分ぐらいはむせて味わい損ねた。


「あ、明日は急すぎるだろ。吟レジクリアしてからスカウトしにいくんだろ? なら、徹夜でプレイしても無理じゃないか?」

「今回はクリフォードルートだけでいいでしょう。それだったら多分6、7時間ぐらいしかかからないでしょう」


 どこから来るのだろうこの元気は……。


「……全攻略してないとにわかだって怒るタイプかも知れないぞ」

「玄人は初心者に教えたがるものよ。それに早く人員確保して部を発足したいし」

「後半の理由が全てだろ!」


 ほんと、自分の欲求に素直な奴だ……。


「まあ、お前が勝手にやるんだからいいんだけどよ」

「何言ってるの?」


 種田はキョトンとした表情でこちらを見つめていた。


「あなたも一緒にやるのよ?」

「……は?」


 ちょっと何を言っているのかわからなかった。


「ちょっと待て。確かにお前は吟レジを買ったけど、俺は特に何も言われなかったから買ってないぞ」


 アニメイト巡回中、欲しくもないアレを買うのかと、内心落ち込みまくっていたが、種田は特に購入を強要することはなかった。なのでてっきり、種田がクリアした後、俺に貸してくれるものなのだと思っていた。


「だから一緒にやるって言ってるじゃない。今からウチに来て、明日までにクリアするわよ」

「いやいやいやいや」


 言っていることがいつにも増してムチャクチャであった。


「何よ、とても合理的な発想じゃない。水谷君は吟レジを買っていない。だから共有して一緒にプレイする。しかもそうすれば明日にはもう二人とも勧誘に取りかかれる」

「い、いや、でもいきなり俺が押し掛けても、親御さんに迷惑だし」


 めんどくさかったので、ザ・断り文句を種田に投げかける。

 しかしコイツは、仮にも花も恥じらう女子高校生。そうホイホイと男子を呼ぶことは、こいつの親御さんも余りいい気はしないだろう。


「大丈夫よ。うち、両親出張でいま家居ないし」


 ……その言葉の後には必ず「そしてふたりは夜の街へ消えていった」がついてくるという事実をこいつは知らないのだろうか。


「い、いや、か、仮にも、じょ、女子の部屋に外泊はちょ、ちょっとな……」


 流石のDT力。だいぶドモってしまった。

 そう言うと種田は一瞬首を傾げた後しばらくして、俺の言いたいことに気づいたのか。心底気持ち悪そうな顔で俺の方を向いてきた。


「はあ? なに変な想像してんの? これだからエロゲ脳は困るのよ。脳味噌腐ってんじゃない?ホントにただゲームやるだけよ」


 ちょっと待って! 何か俺がすげえ期待してるみたいになってんじゃん! 何コレめちゃくちゃ恥ずかしい! あとエロゲはしたことねえ! エロゲは今後の楽しみだ!


「い、いやそういうことじゃなくて! じょ、女子がそうホイホイ男連れ込むもんじゃないって言いたいんだよ!」


 最初言葉に詰まったがあとはすんなり言えた。同じようなセリフをちはや○るの太一君が言ってたからだな。ありがとう。

 種田は一瞬、目を見開いて驚いたような顔をしていたが、すぐにいつもの種田の表情に戻った。


「う、うん……。で、でも、まあ、平気よ。水谷君、わたしを襲う気概も理由もないでしょう」

「……まあ確かに」

「ね、大丈夫じゃない。とにかく時間が惜しいわ。水谷君の体調も大丈夫そうだし、とっとと帰ってクリアするわよ」

「……強引なやつだ」


 後ろで伝家の宝刀がギラギラ光っているのを感じ、俺はもはや抵抗をやめた。


「目標に真っ直ぐと言いなさい」


 そう言って、種田はすぐさま飲み物を飲み干し、ケーキもすぐ平らげてしまった。ああ、そんなに八百六十円を無下に……。


「ほら、早く飲まないとラノベ百ページ分ぐらいコーヒー飲むわよ」

「だからラノべ換算やめろって!」


 そう言って俺が一気に飲み干すと、アイスコーヒーに入っていた氷がカランと音を立てた。


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