3-5 何か違う
買い物も無事に済ませ、俺たちは会話をしつつ、駅の方に向かっていた。
「……なかなか収穫のあるリサーチだったわね」
鼻高々に種田は両手いっぱいに戦利品を掲げていた。……つか、コイツいつも一回の買い物でこんなに買ってんの?
「いや、リサーチつっても、ただ買い物しただけだったけどな」
かくいう俺も、何やかんやで大量の戦利品を右手に持っている立場ではあるが。
「何言ってんの。最新マーケットのトレンドをリサーチすることで、現在のオタクの需要も掴めたし、当面の目標である野田さん確保のためにも大きな収穫になったわ」
「それっぽい言葉使って、体裁保とうとしてませんかー?」
「何より店内をまわって目に付いた作品を、新入部員である水谷君と語り合うっていう、部長としての交流も図れたしね」
「だから俺は手伝いだけだって……」
そんなことを言っておきながら、さっき既に部員であるように錯覚してしまったことを思い出す。こういう風に宗教とかってハマっていくのだろうか。危ない危ない。
「まあ、手伝いでも何でもいいわ。どうせ最終的には部員になるのだし」
「どっから来るその自信は……」
そう、自分で言っておいてすぐに「あ、そうか脅迫材料持ってましたね……」と気づき、勝手に自己解決した。
「自信なんてあるに決まってるじゃない。だって私とオタトークしている時の水谷君すごく楽しそうだったもん」
しかし、種田の返答は想像していたものとは大きくかけ離れていた。
「……オタクたるもの、議論には参加する余地があるから」
自分でも何を言っているのかよくわからなかった。俺はそんなに楽しそうに話してしまっていたのか。そこだけがただただ疑問で、返しがまったく思いつかなかったから。
「なにそれ。まあよくわからないけど、今日は突然だったのに来てくれてありがとね」
種田が歩みを止めてそう言ったとき、俺たちはあっという間に駅前にいることに気がつく。
……ああ、なるほど。そういうことか。
「ああ、別に俺も買い物が出来たからいい。それじゃ、じゃあな」
種田も万が一、同級生に会って俺なんかと噂されるのは厄介だろう。母ちゃんと買い物してるのを同級生にみられるのは恥ずかしいのと一緒だ。俺は本屋にでも寄って時間差で帰るとしよう。
「えっ、何言ってんの? 一緒に帰るんじゃないの?」
「は?」
いやだってお礼言ってお別れな流れなんだと……。
「……あー。そういうこと! ごめんごめん! 誤解させちゃったね。さすがに私も、呼びつけた人間を無下に帰すほど性悪じゃないよ」
か弱き男子高校生捕まえて、脅しにかけてる人間が、どの口ひっさげて言っているんだろう。
「しかし、いまの言葉を別れの挨拶だと類推するあたり、水谷君、マイナス思考に成らざるを得ないつらい生き方をしてきたんだね……」
やめろ! 過去を想起させるような言葉を俺に投げかけるな! 精神に異常をきたすから! 次元を越えたところでなら、これ以上ない経験をしているから! うっ、過去のこと思い出したら気分が……。
「……水谷君、目に見えて顔色が悪くなったけど、だ、大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫大丈夫。俺には絵梨佳もいるし、つかさもいるし、メイフェスもいる……」
「水谷君は何の話をしてるの!?」
自我の崩壊を防ぐために歴代の嫁たちを思いだす。小規模な思考の旅に出た俺は、幸せに包まれていた。ああ、二次元っていうのは人に活力を与えるんだね……。
そして種田にツッコませたのは何気に始めてのことなのじゃないだろうか。アーカイブ「種田にツッコませる」解除。やったぜ(やってない)
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと過去の闇にのまれて、精神に異常をきたしかけただけだから」
店のウィンドウ越しに見える俺は、ものすごく清々しい表情をしていた。
「話してる内容は全然大丈夫じゃなさそうだけど……。まあ、確かにいままで見た中で一番きれいな表情をしてるし、なぜかものすごく声もさわやかだわ……」
CV誰似かな。声優業界への進出も視野に入れたいので、ぜひ教えていただきたい。
「でも、逆に心配ね。カラ元気って可能性もあるし」
「大丈夫大丈夫。こういうの慣れてるから」
「……イヤな慣れね。まあ、とにかく考えたら、今日のお礼もしてなかったし、それも兼ねてどっかでお茶でも飲んで休憩しない?」
「いやいやマジで大丈夫だからさ」
脅迫をしてきている対象に対して気を遣う俺は、マジで聖人君子の生まれ変わりなのではないだろうか。それとも、ただ単に奢られ慣れてないだけだろうか。オーディエンスが後者に百パーセント挙げても俺は前者であると信じたい。懐かしいな。
「いいから行くわよ。部員の体調管理も部長の役目だし、つべこべ言ってるとオタクなことバラすわよ」
「ああ、そんな使い方も出来るんですね……」
本当に、大丈夫なのに……。




