3-4 何か違う
アジメイト、それは宝物庫。希望を胸に店内を駆けめぐれば、そこにはあなたの欲しいがきっとある! ……おっと、誰か来たようだ。
やはりオタクである以上、アジメイトに来てしまえば、胸が弾まずにはいられない。丁度買いたい物もあったし、何やかんや来ても損はなかったな。
「水谷君! 真田美智留のCDを買ったら限定ポスタープレゼントだって!買った方がいいかしら!」
……俺も内心テンションが上がる方ではあるが、さすがにあんな風に、子供が遊園地に来たようなテンションにはならない。
「いや、それはお前の財布と優先度と相談してな……」
我ながら至極まっとうなことを言う。
「えっ!? あのアニメのOPもう発売してたの!? 買わなきゃ!」
うわー……。オタク特有の使命感、ちょっとわかっちゃうわー……。
「種田さん、まず優先すべき目的を片づけてしまいましょう……」
種田いわく、今回の目的は「吟遊詩人のレジデンツァ」、通称「吟レジ」の購入。そしてトレンドの視察。まず、銀レジを見つけてキープするのが効率的であろう。というか効率的にまわらないといつまで長居するかわからんし……。
「一理あるわね。まずは「吟レジ」がどこにあるか探してしまいましょう」
種田と俺はBLコーナーで「吟レジ」を探す。
……つーか、ここで立ち止まるの、ものすごく気まず。
これ他の人から見たらどういう風に見えるんだろう。彼女のBL購入に付き合う彼氏か?
……だとしたならば、ものすごく気に入らない。俺はそういう戦場にちゃらちゃらした甘い雰囲気を持ち込む輩が大嫌いなんだ。……まあ、ただの嫉妬です。ごめんなさい。
いかんいかんこういう思想は。オタクカルチャーを衰退させるのは、にわかを排斥する玄人だとはよく言った話。
確かにいまの俺はずぶずぶのオタクであるが、オタクになり始めのあの頃、自称玄人たちに「かー、そこは違うんだよねー! これだからにわかは!」みたいなこと言われたらオタクになっていなかったかも知れない。何か考えていたら架空の玄人に段々ムカついてきた。おらどけや。
オタク文化のさらなる発展を目指す人物ならこういう思考はいけないよな。そう考えていると種田が「あった!」と声をあげる。よしミッション・ワン完了かな。
「この乙女ゲーめっちゃ安い! 前欲しかったんだけど何となく買わなかったんだよねー。ラッキー!」
「吟レジ探せや!」
思わず声が大きくなってしまう。すると、俺のツッコミに対して周囲の数人が反応する。ヤバい、いま、俺がいつも毛嫌いしている騒がしい客になってしまっている……。
「あの人、あんなに躍起になって吟レジ探して・・・・・・ホ○なのかな」
近くにいた女の子達が小声で話し合うのが聞こえる。ははは、お嬢様方。中学時代、悪口を探し訪ねて三千里。周囲の評価が気になりすぎて、聞き耳立てまくってた僕の耳にかかれば、そんなひそひそ話は街頭演説に聞こえてきますよ。
「水谷君……いくらクリフォードへの情欲がおさえきれないからって声を荒げないで」
おい種田。なに悪ノリしてんだ。ぶっころすぞ。
「キャーっ!クリフォード狂いよー!」
おい女子AとB。騒ぐな、テンションをあげるな。俺はクリフォード狂いじゃない! というかクリフォード狂いって、普通に認知されてる言葉なの?
「水谷君は中学時代、壮絶ないじめにあって女性不信になった。そこに優しく声を掛けてくれたのが他の誰でもない……翔だったのよね」
「勝手に設定を作るな! 間を溜めて改めて重要な感じを出すな!」
「水谷くんやっぱり受けだったのね! いくら何でも受けオーラだしすぎよ! この村田清美の眼はごまかせないわよ!」
「お前は誰だよ!」
女子Aの名前は村田清美ということが判明した。
「まあ、とにかく。本当に『吟レジ』はおさえたから。行くわよクリフォード慶悟」
「結婚させるな!」
「お幸せに、クリフォード慶悟……。私の名前は……伊集院・クラセリーヌ・円」
「女子B、名前の自己主張が激しいんだよ!」
変なやつらと茶番を繰り広げてしまったがBLコーナーを後にする。背中から「主張激しいだって」、「ひどい……」などと言った声が聞こえたが気にしない気にしない。
「さてと、次は順番にアジメイトをまわっていくわよ」
「いや、もういいんじゃない……。何か疲れたわ俺……」
村田清美とクラセリーヌ麻美の乱入は俺に思わぬ疲労を運んできた。
「いえ、リサーチは大事よ。確かに最優先事項である『吟レジ』はおさえられたわ。けど店内を一周するだけで、いまどんなアニメが推されているか、世間の動向が掴めるの。そこをリサーチしておけば部員を引き込むことに大いに役立つはずだわ」
「いや、だって俺、今期のアニメだったら八割ぐらいはみてるし……」
アニメの第一回放送が始まる直前にまず、俺はあらすじや告知映像をチェックして足きりをする。その結果三割弱が生き残る予定だった選考は結果8、9割残る。まったく、君たちは僕を寝かしてくれないなあ!(歓喜)
まあ、そんな感じなので、俺はわざわざリサーチせずとも、話を振られたらついていける自信はある。それに、ネットサーフィンも欠かさないので、種田にネットで騒がれてるアニメを教えることも出来る。だから、もう帰ろう……。ポテチ開けっ放しだったら絶対カピカピになってるから……。
「水谷君……」
おっ、さすがの種田もこれには引いたか?
「こんの、健全オタクがあ!」
「笑いながらビンタするのやめて!」
種田は満面の笑みでビンタしてきた。それにしても嬉しそうだなあ、コイツ……。
「でもそんな水谷君。アジメイトに来たのはいつぶり……?」
「ん? ……二週間振りぐらい?」
この頻度って多いのか? 俺も種田以外オタクの知人がいないからわかんねえ……。
「二週間……。それだけの月日が流れたら、アジメイトは全くの別物と化しているわよ……。それでも、帰るの?」
「……まあ、一理ある」
確かにこの業界は、次々と新しい作品が入ってくる。二週間。それだけの月日が経ったということはその分、新作も入荷している……。
「……買い物がてら一周するか」
チャリ通で学校に通っている俺は、定期をもっていない。なおかつバイトもせず金が限られている俺にとって、町田までの電車代は貴重である。せっかく来たのだし周らなければ損だ。
「いいわね~。じゃあ、まず新刊コーナーからまわりましょう」
「おう、わかってるな」
そう言うと、種田はふふーんと誇らしげな顔をした。
これはアジメイトに限らないことではあるが、書店や小売店にはいると十中八九入り口に新刊コーナーがある。何回も通っている物にとっては大体そこにお目当てのものがあるので、ここからまわるのが定石だ。
「上松さんのコミックスの売り上げが異常ね……。……ほら! いま、あの娘も買ったわ!」
種田が小柄な体を精一杯上に伸ばして俺の耳元で小声のまま話す。恥ずかしいからやめてほしい。
「確かに。女子の人気がすごいことは有名だけど、男の俺が見てもギャグのキレとかすごいしな。納得の売り上げだ」
上松さんは最近ノリに乗っているギャグアニメだ。これ以上は察してくれ。
「そうよね、特に第六回の話は演出、作画、構成。全てがかみ合ってて恐れすら感じたわ」
「わかってるじゃないか。個人的にあれは演出の沼田さんの働きがあってこそだと思う」
「ふふふ、そっちこそわかってるじゃない水谷君。私もそうにらんでたの。なかなかの着眼点よ」
そう言って手を当てて笑う種田は本当に嬉しそうだった。……ほんとうにオタクの友達が欲しかったんだろうな。
「……まあ、伊達にオタクやってねえからさ」
「ふふ、なにそれ」
種田はそういって優しい笑みを浮かべた。
「まあとにかく、上松さんは確かにトレンドだけど、俺らなら難なくついていけるな」
「そうね。あっ、CDの新盤ももう一回みましょう」
そういって種田はCDの新盤コーナーに向かう。
そんな種田を後ろで見つつ、ひとつ気づいてしまった。
部員集めを手伝うだけのはずの俺が、一瞬でも部員の一員として活動する姿を、ほんの少しでもイメージしてしまったことに。




