避けてんじゃねーよ
「おい、避けてんじゃねーよ」
「よ、避けるに決まってるでしょ!? なんなのよ、いきなり!?」
「いきなりもクソもねーよ。転生候補者同士が出会ったんだ。なら、戦闘開始だろ? くくく、あ、そっか。お前、何も知らねーんだったな。今の横っ飛びはなかなかのもんだったから、『何らかの運動能力スキル』を与えられてるみてーだけど、情報は与えられてねーんだな。くくくくっ。あー、かわいそ。お前、ハズレだな。クソザコが」
実際は、エリカによって様々な情報が与えられているが、それをペラペラ話すメリットはない。私はキュっと唇を結び、ガートルードを見る。もう一度衝撃波が飛んで来ても、予備動作を確認できれば、ほぼ確実に回避できる。私は、まばたきすら忘れ、"敵"の姿を視界にとらえ続けた。
そう。
敵。
ほんの少し前までの、『意外と話が通じるんじゃないだろうか』という甘ったれた考えは、もう完全に吹っ飛んでいた。この、目の前の狂った女騎士は、問答無用で私を殺す気の"敵"だ。
いや、問答無用ってのはちょっと違うかな。
お喋りするする気は満々みたいだ。
ガートルードは剣を上段に構えたまま制止し、私に話しかけてくる。
「俺のスキル、すげーだろ。一発で扉も柱もバラバラだぜ。早いとこ人間に当ててみたかったから、お前と出会えて最高に嬉しいよ。キスしてやりたいくらいだ」
話しながら、剣を振り下ろすタイミングを見計らっている。それくらい、私にも分かる。困ったな。上段から振り下ろすだけなら、予備動作は必要ない。すぐに衝撃波が飛んで来る。私の反射神経で、それを回避できるだろうか? 結果はわからない。だって、こんな経験、一度もないんだもん。
その、結果の分からない勝負を恐れるように、私は言葉を返した。ガートルードは割とおしゃべりが好きなタイプみたいだし、会話をしている間は、剣を振り下ろしはしないのではないかと思ったから(そんな保証、どこにもないんだけど)。
「そ、その衝撃波で私をバラバラにしたら、キスできなくなるわよ? いいの?」
自分でも思わず笑いそうになるくらい、間抜けな言葉だった。ガートルードは私に本気でキスしたいと思っているわけではなく、単なる軽口を叩いただけなのに、こんな台詞を返して何になるのか。しかしガートルードは、私の言葉がおかしかったらしく、プッと吹き出して笑う。
「ぷっ、くくっ、お前、おもしれーな。心配すんな。バラバラにした後にキスしてやるから。俺、血とか、グロいのとか、そういうの平気なんだよ」
ああ。
駄目だ。
この人、おかしい。
正直、こんなデスゲームに乗り気なエリカも変わってるって思ったけど(彼女と組んでる私も、あまり人のことは言えないが)、この人に比べれば全然まともだ。少なくとも、いきなり殺そうとせずに、色々と重要な情報を教えてくれただけ、私にとっては最高にありがたい存在である。
ブンッ。
何の音?
ガートルードが、剣を振り下ろした音だった。
しまった。
反応が遅れた。
やっぱり予備動作なしだと、かわすのが凄く難しい。
しかし、ギリギリで回避。
本当にギリギリ。
まさに紙一重。
スカートの裾が衝撃波で破けた。
ガートルードはもう、余計なおしゃべりをしなかった。
一撃めの後、二撃、三撃、四撃と、立て続けに衝撃波を飛ばしてくる。
私ももう、何かを考える余裕はない。
エリカのことも、頭から吹っ飛んだ。
"おとり"作戦のことも、頭から吹っ飛んだ。
ただ無心に、ガートルードだけを見て、右に左に回避を続ける。
そこで、自分の『超体力』が思った以上に優れたスキルであると気づく。
ガートルードの『超攻撃力』は強力だが、凄い破壊力の衝撃波を飛ばせるだけで、本人の動きが特別に早いわけじゃない。それに、彼女に与えられた特権が『攻撃力』なら、『防御力』はごく普通のはず。
頑丈そうな甲冑に身を包んでいるけど、中身は所詮女の子。オリンピック選手よりも体力・筋力のある今の私が、思いっきり体当たりしたら、それだけで戦闘不能――気絶させられるんじゃないだろうか?
これなら『銃で撃ち殺す』のとはまったく違う。
少なくとも、すぐさま命を奪うわけじゃない。
血がブシャーって出るわけでもない。
気の弱い私でも、なんとかできそう。




