なら、あなたが撃つ?
「そんなに不安なら、あなたが撃つ? 私はそれでもいいわよ?」
「え゛っ!?」
「さっきから、当然私が撃つ前提で議論してきたけど、あなたが銃を持ち、『超体力』で敵に接近。そのまま至近距離で接射。これなら射程距離なんか関係ないし、そっちの方がいいかもね」
予想もしていない言葉だった。
いかに心が読めても、体力がまったくないエリカにとって、拳銃は自らの命に等しい武器のはず。ほんの少し前に急造のコンビを組んだだけの私に、普通なら預けられるものじゃない。
「そうね。でも私、あなたのこと、信じてるから。はい、どうぞ」
くるりと華麗に銃を回し、私の方にグリップを差し出すエリカ。私はゴクリと唾を飲み込み、その銃を……受け……受けと……受けと……らなかった。いや、"受け取れなかった"。
エリカはちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべ、もう一度くるりと銃を回す。銃口を上に向ける形で、彼女の手の中に拳銃は綺麗に収まった。その流麗な動きは、西部劇さながらだった。
「ま、そうでしょうね。私のほうから『あなたが撃つ?』なんて言っておいてなんだけど、あなたには無理よね。至近距離で『誰かを撃ち殺す』なんて」
その通りだった。
さっきまでワイワイきゃあきゃあと、まるで『ゲームの敵をどう倒すか』というように盛り上がっていたが、本物の拳銃を渡される段階になって、私は完全に怖気づいた。命を懸けて戦うこと――殺されるのも、殺すのも、恐ろしかった。
私は腰抜けだった。
「いいのよ。あなたは清廉で無垢な『聖女プリシラ』。誰も傷つけなくていい。血濡れた汚い仕事は『悪役令嬢エリカ』にまかせておきなさい」
「ごめん……」
「だから、いいってば。それに拳銃って、オドオドして狙いが定まらないと、どんなに至近距離で連射しても全部外れることもあるそうよ。ネットの知識だけどね。だから、最初からあなたに任せる気はなかったの。結果的に、からかうような形になって、こっちこそごめんなさい」
「いや、そんな……エリカが謝るようなことじゃ……」
「あと、あなたは腰抜けなんかじゃないわ。だって、一番勇気が必要な"おとり役"を引き受けてくれるんだから。殺すのも殺されるのも嫌なのは、誰よりも優しいからよ」
え゛っ。
ちょっと待って。
まだ"おとり役"を引き受けるなんて言ってない。
「ああ、良かった。あなたが"おとり役"を引き受けてくれて。さあ、早速ガートルードをおびき寄せるための行動を開始しましょう。二人で生き残りましょうね」
うあああああ。なんか、いい感じの話の流れで、もう"おとり役"を断れる空気じゃなくなっちゃった。ま、まさかこの子。こうするために『あなたが撃つ?』なんて言い出したんじゃ……。
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で、私たちは今、廃城ベルバースの一階。かつては食堂があったと思われる大部屋にいる。エリカは半分崩れかけている大きな棚の上(もちろん、そこまで運んだのは私だ)に身を隠し、狙撃体勢に入っている。
かなり大きな棚なので、身長2メートルはある長身の人でもない限り、一目で視界にとらえることはできない、絶妙な隠れ場所だった。崩れかけの影の部分に、エリカの小柄な体がちょうど収まるのも僥倖だった。
エリカのネット知識によると、銃というものは、高い位置からの射撃だと、多少は射程距離が伸びる傾向があるそうなので、当初の予定の3~4メートルではなく、なんとか5メートルくらいまで敵を引きつけてくれたら、何とかなる"かも"とのことだった("かも"というのが実に不安である)。
それで、私はというと、大部屋の真ん中で、厨房から持ってきた鍋をお玉でガンガン叩いている。わざわざ言うまでもないことだが、音でガートルードをおびき寄せているのだ。
ガートルードだけではなく、残り二名の候補者も集まって来て、ここで一気に決戦になったらどうするのかと尋ねたが、エリカはアホを見るような目でこう言った。
『それはないから安心しなさい』
アホの私は、当然こう尋ねた。
『なんで? なんでそれはないって断言できるの?』
『今はとにかく、ガートルード一人を倒すことに集中して。余計なことを考えていると集中力が落ちるわ。二人して生き残れたら、色々と疑問に答えてあげる』
もったいつけないで、今答えてよと思ったが、『余計なことを考えていると集中力が落ちる』というのは確かにその通りなので、私はとりあえず、目の前のミッションに集中することにした。押しに弱いが、素直なのが私の良いところである。




