シンプルタクティクス
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エリカの作戦は、拍子抜けするくらい単純だった。
スキル『超体力』を持つ私が"おとり"となり、ガートルードの目をひきつけ、銃の射程範囲に誘導し、隠れているエリカがタイミングを見計らい、ガートルードを撃つ――それだけである。
えぇ……? 本当に、こんなシンプルな作戦でいいの? いや、まあ、あんまり複雑な作戦だと、覚えるのも大変そうだから、シンプルなこと自体は別にいいんだけどさあ。
でも……。
「こう言っちゃなんだけど、子供でも思いつきそうなアイディアだよね。エリカの話し方って理路整然としていて、凄く知的だから、もっと『あっと驚くような作戦』が飛び出てくるかと思ってたのに」
「失敬ね、あなた。"おとり"作戦は古今問わず、あらゆる国、あらゆる軍隊で多用される戦術よ。『孫子の兵法』を読み込んでないの?」
「孫子を熟読してる女の子とか、普通いないよ……」
「そうかしら。とにかく"おとり"を使わないと、私の銃はまずガートルードに当たらないと思ってちょうだい」
エリカはそう言って、拳銃を軽く持ち上げた。
まじまじと観察すると、凄く銃身の短い銃だった。
映画とか、漫画でよく見るタイプの銃の、三分の一くらいの長さしかない。
「なんか、すっごい短い銃だね。ダックスフンドの足みたい」
「ええ。銃身が短ければ短いほど、射撃正確性が落ちるのは、なんとなくわかるでしょう? しかも、この銃はアンティーク。正直言って、悲しいほどに命中精度が悪い」
「試し撃ちでもしてみたの?」
「弾がもったいなくて、そんなことできないわ」
「じゃあなんでわかるの?」
「『黒薔薇リンカネーション』のゲーム本編で、一発も当たってないからよ」
「ただの一発も?」
「ただの一発もよ」
「えー……」
「ちなみに、射程距離も信じられないくらい短いわ。高確率で命中させられる有効半径は、せいぜい3~4メートルってところね」
「みじかッッ!」
「まあ『いちかばちか』って感じで撃つなら、5メートルくらいまで射程は伸びると思うけど、当たる確率はガクッと落ちる。よほどの事態じゃない限り、そんな無謀なギャンブルはすべきじゃないわ。弾丸も貴重だし」
「むむむ……」
「だから、この銃をもっとも有効に使う方法は、"おとり"が敵の目を引いて至近距離に誘導し、その隙をつくことなの。二人が組むことで、やっと役に立つポンコツ武器ってわけ」
「『敵の隙をつく』っていうなら、"おとり"なんて使わないでさあ。いきなり敵の前に現れて、バンバンバン! ってわけにはいかないの?」
「どうやって、いきなり敵の前に現れるの?」
「えっと、さっきみたいに隠れて、タイミングを見て一瞬で飛び出すとか……」
「隠れてるところから、運動能力ゼロの私が、一瞬で飛び出せると思う?」
「無理かな?」
「無理よ」
「じゃあ私が、銃を構えたエリカを、お姫様抱っこして飛び出すとか」
「もの凄く間抜けな絵面ね。……いや、でも、それは案外ありかもね」
「おっ、採用決定?」
「……いえ、やっぱりやめておきましょう。さすがの『超体力』も、私を抱えていては、絶対にスピードがにぶる。そこを『超攻撃力』の衝撃波で狙われたら一網打尽。目も当てられないわ。それに、不安定に抱えられた状態での射撃は、まず間違いなく命中率が落ちるでしょうから」
「あー、確かに。めちゃ撃ちにくそう。肩車ならどうかな?」
「ぐらついて、もっと撃ちにくいわ」
「うーん、じゃあ『いきなり飛び出し作戦』の応用で、通路の曲がり角とかで待機して、ガートルードと鉢合わせる瞬間にバンバンバン! これでどう? あの人、ガシャガシャ鎧を鳴らして歩いてるから、接近を察知するのは割と簡単でしょ?」
「あなた、意外と良いアイディアを出してくるわね」
「えへへー」
「でもそれだと、出合い頭に一瞬で狙いを定め、確実に頭部を撃って勝負をつける必要がある。そうしなきゃ、すぐに反撃されて終わりよ」
「何も、難しい頭を狙わなくても、的の大きい胴体を撃てばよくない?」
「馬鹿ね。あいつは頑丈な甲冑を着てるのよ」
「うごご。狙いやすい部分は完全にカバーされてるってことね」
「そういうこと。仮に、露出してる腕か足に弾丸が当たったとしても、意識は飛ばない。間違いなく反撃される。やっぱり狙うなら頭」
「うんうん」
「でも、映画みたいに一瞬で頭を撃ち抜くなんて、生まれて初めて実銃を握った私には、かなり難しい注文だわ。弾はたったの5発だから、無駄に射撃練習するわけにもいかないし」
「んー……そっかあ」
「こっちと違って、向こうはすでに、何度も剣を振って手馴れてる。至近距離戦は、不意を突いてもこっちが不利よ。残念だけど」
「んんんー……なるほど。はぁ、それにしても、エリカの銃の射程範囲が超短いっていうのが最大のネックだよね。もうちょっと遠距離から撃てるなら、もっと色々な作戦が考えられるのに」
「仕方ないわ。私の体が激弱なのを考慮しても、『射程距離の長い銃』なんて与えたら、明らかに他の候補者より有利すぎるもの。射程が凄く短いから、公平なゲームが成立するのよ」
「そだね」
「やっぱり、最初の作戦で行きましょう。シンプルタクティクス・イズ・ベストよ。敵の目が"おとり"のあなたに向いている状態で、落ち着いて狙うことができるなら、確実に当てる自信はあるわ」
「あのさ、もしかして、私に危険な役目を押し付けようとしてない?」
「失礼にもほどがある発言ね。私はあくまで、私たち二人が生き残る確率が最も高い方法を提案してるだけよ。大丈夫。安心して任せて。本物の銃を持つのは初めてだけど、私、FPSは割と得意だから」
「なんか、凄く不安」




