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悪役令嬢デスゲーム~生き残るのは私とあなただけ~  作者: 小平ニコ


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ツンツン

 緊張はしているが、どもったりはしなかった。頭の中でしゃべるのと、実際に喋るのは、やっぱりかなり違うみたいである。皆がテレパシーで会話できるようになれば、私のどもり癖も解決なのにな。


 そんなことを思っていると、オリヴィアからテレパシーが返って来た。


『ごめんなさいね。あなた、かなり悩んでるみたいだったから。気に障ったなら謝るわ』


 どうやら、テレパシーでの交信は可能らしい。彼女は敵なので、それが良いことなのか悪いことなのかは判断に迷うところだが、それでも何らかの情報を引き出せるかもしれない。私は継続して交信を試みた。


『それで、何の御用ですか? 私たち、敵同士ですよね? 話すことなんてないと思うんですけど』


 ツンツンした、嫌な物言いだった。でも、これでいいと思った。もうクリスティンの時のように『仲良くなって、それから殺す』というのは絶対に嫌だった。それなら、最初から嫌な関係の方が気が楽だ。私はワルだ。ワルになるのだ。あのガートルードのように。


 オリヴィアは、気を害した様子もなく、くすくすと笑っていた。


『無理にワルぶっても駄目よ。悪い子が簡単には良い子になれないように、良い子だって簡単には悪い子にはなれないわ。幸せに生きるコツはね、無理しないことよ。これ、お姉さんからの忠告』


 うぐ。

 心の中をまるっきり見透かされたようでかなり恥ずかしい。


 しかし、お姉さんか。

 なんとなく彼女に敬語を使ってしまった理由が、今ハッキリわかった。

 この人、間違いなく私より年上だ。大学生くらいだろうか?


 テレパシーの声だけで、包容力と大人の余裕が伝わって来る。


 こんな人と、戦わなきゃいけないのか……

 もう何度も思ったことだが、凄く嫌な気分だった。


 それにしても、エリカはいったいどうしてしまったのだろう。前と違い、近い距離にいるのに、私がこうしてテレパシーでオリヴィアと話していても無反応だ。読心術で、何もかも分かっているはずなのに。


 その問いに答えたのは、エリカではなくオリヴィアのテレパシーだった。


『答えは簡単。あの子の読心術は、もう効果を失ってるってことよ』


『どういうことですか?』


『ねえ。心が読めるって、制限なしに最初から最後まで使えてしまったら、あまりにも強力すぎると思わない? だから、このゲームの仕掛け人は、読心術にマイナス要素を入れておいたのよ。あまりにも、他のプレイヤーとの差が開きすぎないようにね』


『その、マイナス要素って?』


『時間と共に、読心術の有効範囲と感度が下がっていくの。今は恐らく、肌が触れ合うくらいじゃないと何も読み取れないはずよ。私にあれこれ言われるより、ずっとそばにいるあなたの方が、実感としてわかるんじゃない?』


 そうか。

 そういうことか。


 だからエリカは、私がどれだけ困惑していても、何も言ってこないんだ。

 ずっと疑念に思っていたことが氷解して、私は一人で何度も頷いた。


 その代わりに、別の疑念が湧いてくる。


『……オリヴィアさんは、なんでそんなこと、知ってるんですか?』


『私もね、あのエリカと同じように、かなり多くの情報を与えられてるの。だから、あなたのことも良く知ってるのよ。戸川アカリさん』


『戸川アカリって……もしかしてそれが、私の元の世界での名前なんですか?』


『そうよ。戸川アカリ、高校二年生。東京都在住。家族構成は父・母・妹の四人家族。バスケットボール部所属。動物が好きで、争いごとは嫌い。あのエリカが知っているのと同じ情報を私も知っているわ』


 いや、エリカ以上の情報だ。

 エリカは私の名前は知らなかったから。


『いいえ。そんなことないわ。あの子も知ってたはずよ。でも、あえて言わなかった。なんでだと思う?』


 そんなこと、わかるはずがない。


『簡単よ。本名を教えてしまったら、現実感が強くなって、あなたの意思がハッキリしてしまうから。ねえ、アカリさん。あなた、結果的に、これまでエリカの思う通りに動いてきたでしょ? それって、なんでだと思う?』


 そんなこと、わかるはずがない。


『簡単よ。自分の本名すら知らないあなたの意思は、催眠術にかかっているみたいにボンヤリしているの。だから、強く言えば思い通りにできる。あなた、自分のことを押しに弱いって思ってるみたいだけど、自分が誰かもわからない状態で、リーダーシップのある相手から強く言われれば、誰だって素直に従ってしまうものよ』


『…………』


『あの子はね、自分の弱点を補うスキルを持っているあなたを思い通りに操るため、必要な情報だけ与えて、それ以外は意図的に隠した。すべては、自分がこのゲームで生き残るため。前にも言ったけど、あの子は天才的な嘘つき。もっと言うなら人間の顔をした毒蛇よ。信頼できる相手じゃないわ』


『エリカが嘘つきなのは、私だってわかってます。でも……』


『でも? なに?』


『エリカは、私と一緒に生き残りたいって思ってくれてます。その気持ちにだけは、嘘はない……と思うんです。だから、エリカを信頼するかどうかは、自分で決めます』

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