↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢デスゲーム~生き残るのは私とあなただけ~  作者: 小平ニコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/27

天使

「もう一度言うわね。ごめんなさい。私が無神経だったわ。でも、これは仕方がないことなの。生き残るためには、どんな方法を使ってでも勝ち残らなきゃいけないの。そして、敵はあと一人。ゲームの終わりは、もう見えているのよ。ね? もう少しだけ、頑張りましょう? 苦しいことも、二人なら乗り越えられるわ」


 最後の方の言葉は、少し掠れていた。

 そこで私は、ずっと伏せていた顔を上げる。


 エリカは、涙を流していた。

 心を震わせるような、可憐で、綺麗で、悲痛な泣き顔だった。

 きっと、天使の泣き顔って、こんな感じなんだろうな。


 エリカ……


 そっか……


 エリカだって、つらいんだよね。


 でも、どんな手段を使っても、勝たなきゃ未来はない。誰よりも多くの情報を与えられてる分、誰よりもこのゲームの残酷さを理解している。誰よりも、このゲームの『仕掛け人』の冷酷さを理解している。だから、必死なんだよね。


 エリカ……


 ごめん……


 私、酷いこと言っちゃった……


『人を殺して、楽しいの?』って。


 ひどい。

 本当にひどい。


 楽しいわけないじゃない。


 エリカは自分のことを『無神経だった』って言ったけど。

 無神経なのは私の方だ。ひどい。あまりにも、無神経すぎる。


 だいたい、私はいまだに自分の手を汚していない。

 ガートルードだって、エリカが倒してくれたから。

 エリカが倒してくれなければ、私はとっくに死んでいる。


 それなのに『人を殺して、楽しいの?』って。

 よくもそんなことが言えたものだ。


 私は後悔の涙を流し、エリカを抱きしめ返す。それで、少しだけ驚いたのか、さっきまでは氷のように冷静だったエリカの頬が赤く染まった。


 すぐ近くに、エリカの顔がある。


「あっ……かっ……」


 まるで、掠れた呻きのような声をエリカが漏らした。

 意味のない呻き。そのまま、エリカは黙り込む。


 エリカは頬を染めたまま。

 切なげに潤んだ瞳で私を見ている。


 私の、目を見ている。


 私も、エリカの目を見ている。


 私は後悔の想いを謝罪の言葉に変えて、そろり、そろりと吐露していく。


「ごめん。ごめんね、エリカ。私、凄く酷いこと言っちゃった。エリカだって一生懸命なだけなのに。責めるようなことを言ってごめん。クリスティンのことは悲しいし、残念だけど、もう二度と、あなたを責めたりしないよ。本当にごめんね……」


「あなたが謝ることなんてないのよ。全部、あなたの優しい気持ちを傷つけた私が悪いの。ごめんね。私の方こそ、ごめんね。ごめんね。ごめんね……」


 私たちは、お互いに『ごめんねごめんね』と謝罪の言葉を続けた。大喧嘩した二人の幼稚園児が、泣きながら謝り合うような、幼稚だけど、限りなくピュアな感情の交錯。とても、懐かしい感覚。それはきっと、どんな人にでも、幼い頃、こういう経験があるからだろう。


 私は、泣きながらはにかんだ。


「なんだか私、謝ってばっかり」


 エリカはもう、泣いていなかった。


「そうね。でも、その素直さがあなたの良いところよ。さあ、気持ちが落ち着いたなら行動を再開しましょう。タイムリミットは刻々と近づいている。時間を無駄にはできないわ」


 私は頷き、涙を拭う。

 そして、二人は立ち上がった。


 最後に私は、ちらりとクリスティンの亡骸の方を振り返って、それから部屋を出て行く。その際、エリカが思い出したように呟いた。


「あ、そうそう。『人を殺して、楽しいの?』っていう、あなたの問いに対する答えだけど……」


「そ、それはもういいよ。楽しいはずがな……」


「楽しいわよ」


「えっ」


「私、ずっと気に入らない奴らをぶっ殺したいって思ってたから」


 私にはもう、この子が天使なのか悪魔なのか、わからなった。


・

・

・


「最後のターゲットは『暗き森の魔女オリヴィア』よ。原作の『黒薔薇リンカネーション』じゃ、主人公の『聖女プリシラ』に魔導具をくれたり、色々とアドバイスをしてくれたりするお助けキャラなんだけど、このデスゲームの中では、恐らく最強の敵ね。彼女のスキルは『魔法全般』。つまり、いろいろな魔法が使えるの。厄介よね」


 廃城内を探索しながら、最後の転生候補者の説明をするエリカ。

 私は「へえ」と気のない返事をする。

 エリカはこちらを振り返ることもなく、語り続けた。


「しかも、困ったことに、その『いろいろな魔法』がどんなものなのかは、具体的には分からないの。だからガートルードやクリスティンのときのように、有効な作戦を立てにくい。今回ばっかりは、オリヴィアと遭遇してから、その場の判断で戦うしかないわ。それでも二対一。私たちの優位は動かないと思うけどね」


 彼女の後に続きながら、「そっかぁ」と生返事をする私。


 エリカに対する不安と恐怖、そして友情と思慕の想い。

 それらが複雑に絡み合い、私のメンタルはもうグチャグチャだった。


 ……いや、エリカが『人を殺すのは楽しい』とハッキリ述べたことで、今は友情よりも恐怖の方に感情が傾いている。当然だろう。人殺しを楽しむ者に対し、恐怖を抱かない人間がどれだけいるだろうか。


 スキル『読心術』の持ち主であるエリカに、私の恐怖と不信感が分からないはずはないのだが、エリカは特に何か言ってくることもなく、驚くほどいつも通りだった。それが、余計に不気味だった。


 だけど私は、エリカを裏切ったり、逃げ出したりする気はなかった。


 どうしてだろう?


 怖いけど、やっぱり、エリカのことを友達だと思ってるからかな。


『私、あなたのこと好きよ。だから、あなたと二人で生き残りたいの』


 あの言葉を、信じているからかな。

 それとも、信じたいだけなのかな。


 よく分からなかった。


 ただ、今さら一人になって別行動を開始したところで、私だけで生き残れるとはとても思えなかった。結局のところ私は、『生き残るための打算』でエリカと行動を共にしているのかもしれない。


 なんてずるい。


 甘ったれで。

 臆病な。

 卑怯者。


 それが私だった。


『そんなに自分を卑下することないわ。強者と行動を共にするのは、こういったデスゲームでは優秀な戦略よ。少なくとも、序盤から中盤にかけてはね』


 この声。


 というか、このテレパシー。


 聞き覚えがある


 エリカのことを『嘘つき』と言った、『最後の転生候補者』だ。彼女が『暗き森の魔女オリヴィア』なのだろう。こっちから交信が可能なのかどうかわからないが、私は頭の中で言葉を思い浮かべた。


『あなたが、オリヴィア……さん? 人の頭の中を勝手に読むのはやめてほしいんですけど』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。