↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢デスゲーム~生き残るのは私とあなただけ~  作者: 小平ニコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/27

本当のお嬢様

「あなたみたいな人に、あれこれと詰問して、『私兵』で取り囲んで、血を流してスキルを見せるように強要したり、今となっては恥ずかしい限りですわ。本当にごめんなさい」


 そう言って恭しく頭を下げる動作は優美で、一般庶民とは違う何かを感じさせた。たぶんこの人は、『元の世界』でも、本当のお嬢様だったんだろうな。


 クリスティンは続いて、エリカの方に向き直って丁寧に頭を下げる。


「エリカさんも、ごめんなさい。私の無礼な振る舞い、どうか許してくださいまし」


 本当に深い、丁寧なお辞儀だった。

 後頭部が露になるくらい、丁寧なお辞儀だった。


 その。

 露になった後頭部に。


 エリカはさっき放り捨てた銃を突きつけた。

 私とクリスティンが抱き合い、泣いている間に拾ったのだろう。


 笑えないジョークだった。

 だから、私は言おうとした。


『こんな時に、つまんないジョークはやめてよ。せっかく皆で、わかり合えたのに』


 でも、言えなかった。


 私が言う前に、エリカがこう言ったからだ。


「こっちこそ、ごめんなさいね。私の振る舞いは、別に許さなくてもいいわよ」


 パァン。


 弾丸が放たれた。


 クリスティンが死んだ。


 後頭部を撃ち抜かれたのだ。


 即死だろう。


 即死だろう。


 即死だろう。


 ……

 …………

 ………………?


 何を……


 いったい、何をしたの……?


 私の腕には、さっきまで抱き合っていたクリスティンの温もりが残っている。


 私の心には、さっき聞かされたクリスティンの言葉の温かさが残っている。


 手が。

 口が。


 わなわなと震える。


 ああああ。


 ああああああああ。


 死んじゃった。


 クリスティン、死んじゃった。


 どうして?


 なんで殺したの?


 私は、その通りに問いかけた。


「なんで殺したの?」


 エリカは一度リボルバーの弾倉をチェックし、それを戻してから事も無げに言う。


「え? なんでって。最初から、そういう話だったでしょ?」


 その通りだった。

 確かに、最初から、そういう話だった。


 私たちはクリスティンに話しかけ、油断させ、騙し討つ。


 そういう話だった。


 でも。

 でも。


「こ、殺す必要なんてなかったでしょ? 皆でこんなゲーム、ボイコットして、それで……」


「それで、皆で消されるの? 私は嫌よ。あなたと二人で生き残りたいもの」


「消されるかどうかなんて、わかんないじゃん!」


「いえ、わかるわ。言ったでしょ? 私には他の候補者より多くの情報が与えられてるって。そろそろゲーム開始から一時間くらい経つわよね? これから、この廃城ベルバースの外周が消え始めるの。比喩ではなく、空間ごと消えていくの。対戦型ゲームで、終盤になるにしたがってマップが狭くなるのがあるでしょ? あれと同じよ」


「そ、それがなんだっていうの?」


「わからない? 戦えるフィールドが狭まっていき、最後にはなくなっちゃうの。そこにいる候補者ごとね。それまでに『生き残りの二人』になってなきゃ、確実におしまいなの。そういうルールなの。これは決まってることなの。だから、やるしかないの」


「じゃあ、クリスティンに言ったこと、何もかも嘘だったの? 全部わかってて、戦わない道にも希望を持たせるようなことを言ったの? あの、優しい女の子を騙すためだけに!」


 静かに問いかけているつもりだったが、最後の方は感情が爆発し、叫び声になってしまった。エリカはそれに対し、怒るでも悲しむでもなく、ごく普通の表情、ごく普通の声色で答えた。


「そうよ? だって、最初からそういう話だったでしょ?」


 私はもう、へなへなとその場に座り込むしかなかった。

 私はもう、何も言い返す気力がなかった。


 エリカは、まだ話し続ける。


「あなたがクリスティンを懐柔してくれて、本当に助かったわ。おかげで、ノーリスクで後頭部を接射できた。うふふ、馬鹿よね、あの子。"敵"の前で無防備に頭を下げるなんて」


 エリカは、まだまだ話し続ける。


「あなたはクリスティンのことを『優しい女の子』っていったけど、ああいうのは『甘ったれ』っていうのよ。私たちを『私兵』で取り囲み、『処刑するぞ』と脅しておいたくせに、結局はできずにべそをかき、挙句の果てに、心を込めて謝りさえすれば、何もかも丸く収まると思ってるんだから。救いようがないわ」


 やめて。


「最初はね、銃を捨てて油断を誘い、その隙にあなたが『超体力』で大暴れして、私は捨てた銃を拾い、クリスティンを狙い撃つ――そういうつもりだったけど、これってかなりリスキーよね。勝算はよくて五分五分。だから、あなたがクリスティンを"上手に騙して"くれたのは、最高のサポートだった」


 やめて。


「いえ、サポートというより、これはほとんどあなたの手柄ね。たまたま、引き金を引く役目が私だっただけ。クリスティンを仕留めたのは、実質的にはあなた……」


「もうやめて!」


「…………」


「私、あの子のことを『上手に騙そう』だなんて思ってなかった……ただ……争いを止めて……分かり合いたかっただけなのに……」


「…………」


「エリカ、なんでそんなに楽しそうなの……? おかしいよ……。ううん、あなたの言う通り、最初からこういう話だったんだから、今さらになってこんなことを言う私の方がおかしくて、あなたの言葉を借りるなら『甘ったれ』なんだと思う。でも、なんでそんなに楽しそうなの? 人を殺して、楽しいの? 絶対おかしいよ……」


 泣き崩れた私を、エリカは優しく抱きしめた。

 ついさっき、私がクリスティンにそうしたように。


「ごめんなさい。逆転の勝利に高揚して、ペラペラと喋りすぎたわね。優しいあなたは、クリスティンの死が悲しいのね。あの、どうしようもないガートルードの死すら悲しんでいたものね」


 エリカの声も、抱きしめる温もりも。

 ゾッとするくらい優しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。