合理的発想
「何故って……それは……」
「私に。いえ、私たちに、あなたを害する気持ちがないからよ。あなたは恐怖心と不安から、私たちが何かを企んでると思い込んでしまったみたいだけど、私はね、はじめから少しの嘘も言ってないの。私の願いはただひとつ。最初に主張した通り、このデスゲームを平和的に解決したい。それだけよ」
「で、でも……でも……それなら何故、銃のことを黙っていましたの?」
「だって、最初から『銃を持っている』なんて言ったら、逆に警戒されてしまうと思ったのよ。スキルのこともそう。スキルがあることを証明するのは簡単だけど、スキルがないことを証明するのは難しい。だから、あなたに問われない限りは、変に話さない方がいいと思ったの。自分からペラペラ秘密を話す人って、怪しいでしょ?」
「…………」
「もちろん、この銃はあなたに引き渡すわ。これでどう? 私たちのこと、信じてくれる?」
「正直言って、迷いますわ」
「迷う? どうして? 私の言ってること、そんなにおかしい?」
「おかしくありませんわ。すべての言葉に、理屈として筋が通っている」
「それなら……」
「でも、だからこそ恐ろしいのですわ。あなたは私より遥かに賢い。知恵比べの問答では、あなたにとても勝てる気がしない。その気になれば、いくらでも私を騙すことができる。違う?」
「詐欺師みたいに言われると、とても悲しいわ」
「その言葉も、本心かどうかわからない。あなたは危険ですわ。あなたが何を企んでいるにしても、あるいは企んでいないにしても、ここで殺しておく方が、私にとっては安全だと思いませんこと?」
「なるほど、合理的発想ね。では、どうぞ。思うようにするといいわ。さっきも言った通り、私たちの願いは『平和的な解決』。だから抵抗はしない。あなたと友情を築けなかったことは、残念だけどね」
そう言って、エリカは拳銃をポイッと捨てた。撃鉄が上がっていたはずなので、床に落ちた瞬間に衝撃で暴発するんじゃないかとビクついた私だったが、さすがはエリカ、いつの間にか撃鉄は元に戻されており、銃は乾いた音を立てて床に転がっただけだった。
で、でも。
切り札の銃を捨てて、これからどうなるのだろう。
本当に、このままクリスティンに処刑されるつもりだろうか。
それとも、私?
私がこの場を何とかすることを、期待しているの?
た、確かに。
もうどうしようもないって状況になったら。
捨て身の体当たりで突撃するって話だったけど。
できる?
私に?
そんなことが?
無理無理無理!
絶対無理だって!
でも。
でも。
私に期待してるから、エリカは銃を捨てたのでは?
クリスティンを油断させるために。
なら、やるしかない?
私兵はクリスティンの命令を受けてから動くわけだから、こっちの動きに対応するのに、若干のタイムラグがある。私のスキルを『超回復力』だと思い込み、オリンピック選手をも超える高い運動能力があるとは夢にも思っていない今なら、クリスティンの不意を突くのはそれほど難しいことじゃない。
なら、やるしかない?
でも。
でも。
『超体力』で動き回れる私はいいとしても、エリカは俊敏に動くことなどできない。あっという間に、私兵にめった突きにされてしまうのでは……
いや。
でも。
このままだと、二人そろっておしまいだ。
やはり、いちかばちか、やってみる他ない気がする。
そうだよ。
足ばっかり引っ張って。
私だって、エリカの役に立たなきゃ。
エリカのことは怖いし、信じきれない部分もあるけど。
それでも、友達なんだから!
やるしかない……
やるしかない……
やるしかない!
覚悟を決めて地面を蹴り、その反動で一気にクリスティンにとびかかろうとした瞬間だった。クリスティンは頭を抱えるようにして「うぅっ」と喚く。それで急停止したので、私はその場に転んでしまいそうになるが、何とか踏みとどまる。
「うっ……うぅっ……ううぅ……」
クリスティンは自らの頭を抱え、文字通り苦悩していた。『私兵』たちも、彼女の苦しみが伝わっているかのように、悲しげにカチャカチャと動いている。
私は今の状況が理解できず、クリスティンに問いかけた。
「あの……クリスティン……? どうしたの? 何か、苦しいの?」
自分でも、驚くほど心配そうな声が出た。
彼女は、私たちを殺そうとしてる『敵』だというのに。
クリスティンはちらりとこちらを見て、弱々しく目を伏せた。
そしてまた、苦悩の叫びを上げ続ける。
わけがわからない。
私は、助けを求めるようにエリカを見た。エリカはすべてを理解しているといった感じで頷き、それからクリスティンに声をかける。静かな、優しい声で。




