友達
吐息のかかる距離で、エリカは私を諭し続ける。
「生き残るために組んだ急造のパートナーとはいえ、私、あなたのこと好きよ。だから、あなたと二人で生き残りたいの。あなたはどう? 私のこと、嫌い?」
「……好きか嫌いか、さっき言ったじゃん」
「もう一回言って」
「だから、嫌いじゃないって」
「それって、好きってことよね?」
「ああもう! そうだってば! 話しやすいし、それに、あのガートルードよりはずっと優しいし」
「そう。嬉しいわ。まあ、あのガートルードと比べたら、たいていの人が優しいと思うけどね。とにかく、二人の意思は同じ、そうでしょ? だったら、やるしかないのよ」
「そうかな……そうかも……」
「そうよ。私を信じてちょうだい。二人で生き残りましょう」
で、押しに弱い私は頷いた。
そんで、すべてを受け入れた。
なんだか、熱に浮かされたような気分だった。
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そして私たちは、『成金令嬢クリスティン』の捜索に入る。ガートルードのように、派手に音を鳴らしていれば向こうから来てくれるというわけではないので、この広い廃城の中で、たった一人を探すというのはなかなか大変なことだった。
探索しているだけで、息も絶え絶えになりながらエリカは言う。
「はぁ、はぁ。やっぱり、もう初期位置にはいないみたいね。見つけるのに、少し苦労しそうだわ」
「ねえ」
「はぁ、はぁ、……なに?」
「そのクリスティンと、あと残りのもう一人も、私たちみたいにコンビを組んでるってこと、あると思う?」
何気なく聞いた問いだったが、口にしてから、大いにあり得る話だと思った。だって『二人だけ生き残れるルール』なら、絶対にコンビを組んだ方が有利だから。よっぽどの猪突猛進タイプでなければ、話の通じそうな相手を見つけて交渉を持ちかけるのは自然なことだ。
だが、エリカは乱れていた呼吸を整え、それからキッパリと言う。
「それはないわ」
「どうして?」
「あなたの言った『残りのもう一人』のが、かなり疑り深いタイプだからよ。だから、簡単に人を信じたりしない。そして、人を信じられなければ、パートナーなんて作れはしない。だから『コンビを組まない』というより、正確には『組めない』のよ」
「ふぅん。……ねえ、今の返答から察するに、エリカは私のこと、信じてくれてるって思っていいのかな?」
エリカは、やや呆れたように肩をすくめて言う。
「あのねえ。あなたの台詞をまねするわけじゃないけど、さっき言ったでしょ。ほら、ガートルードと戦う前の、作戦会議の時に」
私は、明確にエリカの台詞をまねて、言う。
「もう一回言って」
「さっきの仕返しのつもり? あなた、子供ね」
子供の私は、めげずにもう一度言う。
「もう一回言って」
エリカは整った唇から『はぁやれやれ』といった感じのため息を漏らす。
でも『しつこいわよ』と怒るようなことはなく、私の言う通りにしてくれた。
「信頼してるわ。当たり前でしょ。今だって、『超体力』を持つあなたがその気になれば、平手打ち一発で貧弱な私を殺せるのよ。あなたのことを信頼してなかったら、恐ろしくて一緒に行動なんてできないわ」
わかってた。
でも、やっぱり口に出してほしかった。
私は、けっこうめんどくさい女だった。
「そうだね。……ねえ、エリカのこと、友達だって思ってもいい?」
「今さらね。私は、ずっと友達だと思ってるけど」
嬉しい言葉だった。
浮かれている場合でないのは分かっているが、私はウキウキとした気持ちで探索を続ける。そんな私の頭の中に、聞いたこともない声が響いてきた。
『そいつのこと、あんまり信じない方がいいわよ。嘘つきだから』
……なに、今の?
私は、きょろきょろと辺りを見回す。
何もない。
エリカは、少しだけ離れたところにいる。
また、声が響いてくる。
『こんな形で、いきなり声をかけてごめんね。今、あなたの心に直接語り掛けてるの。私のスキルでね。私は、あなたたちがさっき話してた『残りのもう一人』よ。あなたが、あのエリカと少しでも離れるのを待ってたの。近くにいると、あいつの読心術で、このテレパシーの内容も読み取られちゃうからね。ふふ』
私は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
テレパシー。
こんなスキルもあるのか。
凄い。
いや、まあ、凄いことは凄いが、これが戦いの役に立つかと言われれば、あんまり役に立たない気がする。そういう意味では、私の『超体力』の方が圧倒的に有利だ。もっとも『超体力』を活かした暴力で相手を殴ったりするのは、凄く嫌だけど。
頭の中に、くすくすという笑い声が響いて来る。
『優しいのね。できれば私、あなたとは戦いたくないわ。あっ、待って待って。エリカを呼ぶのはやめて。すぐにテレパシーを打ち切るから。その前に、もう一度だけ伝えておくわね。さっきの繰り返しになるけど』
そこで、急にテレパシーはストップする。
1秒……
2秒……
3秒……
4秒……
5秒……
6秒……
いつまでたっても何も言ってこないので、私が焦れてエリカを呼ぼうとした瞬間。それを見計らったかのようにテレパシーの主はひときわ大きな声で注意を促した。
『エリカのこと、信用しちゃ駄目。あいつはあなたに嘘をついている』




