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推し活で出会った人と  作者: さくら優


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8/9

8.熱

サ終が発表されてから、何曲か新曲が出て、キャストさんたちのトーク番組の配信とか、色々盛り上がった。常に寂しさは付きまとってたけど。


スマホアプリの方も、最後のイベントが今日のお昼に終わる。


これで、本当にみんな終わりだ。


アプリはまだしばらくは遊べるけど、イベントが終わる今日が実質最終日という感覚だった。


俺はスマホを操作しながら、今日何度目かになる深い溜息を吐いた。


この前、山崎さんに教えてもらったコンテンツのアニメを見た。


ストーリーは面白そうだったし、もしかしたら好きになれるかもしれない。けど、今はまだよくわからない。


当然だ。何年も好きだったものと比べて、最初から同じ熱量で好きになれるものなんて、早々ないだろう。


そんなことを考えていたら、12時過ぎてイベントが終わった。


いつも通りの、あっさりとした最後だった。


「はぁー」


机に突っ伏して目を閉じる。


しばらくボーっとしていると、ふいにスマホの通知音が鳴った。


「あ、二条さんだ⋯」


『今から会える?』


届いたメッセージを見て、俺は少し迷う。


今は家にいるし、この後特に予定もない。けど、正直なところ人と会いたい気分じゃない。


ちょっと今は都合が悪いと返すと、すぐにわかったとだけ返事が来た。


再び机に突っ伏す。だけど、少しして後悔の念が襲ってきた。


誰かに会える気分じゃなかったはずなのに、1人でいるのがなんか寂しい。


かと言って1度断ったのを撤回するのも気が引けて、二条さんに送ったメッセージを睨んでいると、ふと玄関先で人の気配がした。


「?」


カサッ、と音がした後、すぐに去っていく足音が聞こえる。それと同時にスマホにまたメッセージが届いた。


『ドアにケーキ掛けといたから、良かったら食べて』

「えっ⋯?」


すぐに玄関を開けると、ドアノブに有名なケーキ屋の袋が下がっていた。


外を見るとまだ二条さんの車がアパートの前に停まっていて、慌てて駆け寄る。


「二条さん!」

「あ、良かった。やっぱり家にいた」

「なんで⋯?」


ケーキの箱と二条さんの顔を交互に見つめる。


「今日、バイトも休みって言ってたから、そしたらアプリのイベント終わるまで家にいるかなって思って」

「――⋯」


会える?とメッセージを送ってきた時には、きっともうケーキを買ってこの近くにいたのだろう。1人になりたいと言った俺の気持ちを優先して、これだけ置いて帰ろうとしたんだ。


気遣いに胸のあたりがあったかくなった。


「じゃあまた⋯」

「あっ、あの!」

「うん?」


こんなにも自分のことを考えてくれる人が、今までいただろうか。


「上がっていきませんか?」

「いいの? 都合悪かったんじゃ?」

「⋯もう済んだので」


そう言うと、二条さんはくすっと笑った。

都合が悪いと言ったのが嘘なのは多分バレてるだろうから、ちょっとバツが悪い。


とは言え、特にそこは突っ込まれずに、二条さんは駐車場に車を回した。



   ✦✦✦


コーヒーを淹れて、買ってきてくれたケーキを一緒に食べる。


「理人君の家来るの、久しぶりだな」

「そう、ですね⋯」


自分の家なのに、ちょっと落ち着かない。


「ここのケーキ、ずっと食べたかったんだけどいつも並んでてさ。今日たまたま通ったら空いてたから」

「有名なお店ですもんね。すごく美味しいです」


食べながらチラチラと二条さんの様子を伺う。ゆっくり食べてもすぐに無くなってしまって、手持ち無沙汰になってしまう。


「あ、あの、二条さん」

「うん?」


言わないといけないことがある。けど、なかなか切り出せない。


「えっと⋯、あ、これ、知ってますか? この前同じ大学の子から教えてもらって」


結局俺は、山崎さんに教えてもらったコンテンツの話で誤魔化してしまった。


「へえ。面白そう」

「結構面白かったです。アニメの1話が配信されてるので、見ますか?」

「うん」


タブレットを準備し、一緒に1話を鑑賞した。すでに見たやつだから全然いいんだけど、内容が全くと言っていいほど頭に入って来ない。


集中している二条さんの横顔を、またしてもチラチラと伺ってしまう。


アニメは20分ちょっとで終わってしまい、俺はまた落ち着かない気持ちになる。


「理人君」

「え、あ⋯、なんですか?」

「なんか、俺に話したいことがあるんでしょ」

「!」


バレてた。


何から話したらいいのか。テンパった頭では、話が上手くまとまらない。


「⋯今日、ごめんなさい」

「え?」

「都合悪いって言ったの、嘘なの、気付いてましたよね⋯」


それなのに、責めることも、からかうこともしない。せっかく買えた自分が食べたかったケーキを、置いて帰ろうとして。


「誰だってひとりになりたい時はあるよ。そういうのは嘘とは言わないと思うよ」

「二条さん、優しすぎます」

「そんなことないよ。前に理人君怒らせちゃったし」

「あれは、俺が悪いので⋯」


この前のことがあったから、今日はそっとしておいてくれようとしたんだろう。


「それに、最近優しいのは、下心があるからだし」

「最近だけじゃなくて、初めて会った時だって銀テ譲ってくれて、その次も話しかけてくれて、すごく嬉しかった。二条さんは最初からずっと優しい」

「褒め殺しだな」

「好きです」


時間が、止まったような気がした。


二条さんの瞳が一瞬大きく瞠られて、それからふっと緩む。


一気にしゃべってしまい、ちゃんと伝わったのか自信がなかったけど、ギュッと抱き締められて安堵した。


「――うん。ありがと」


熱い吐息が耳にかかる。思わず溜息が漏れると、そっと唇が重なった。


「ん⋯」

「キス、2回目なの、覚えてる?」


唇が触れそうな距離で囁く二条さんに、俺は小さく頷いた。


「やっぱり起きてたんだ。ずるいな」

「どっちが。覚えてなかったら困ります。ファーストキスだったのに」

「ふーん」

「⋯なんでそんな嬉しそうなんですか」

「嬉しいよ。当たり前だろ」


もう1度、軽く唇に触れた後、すぐ隣のベッドの上に抱え上げられた。


二条さんが覆い被さってくるのに、ドキッと心臓が跳ねる。顔を見ていられなくて視線を逸らすと、そっと顎を捉えられた。


「口開けて」


言われた通り僅かに口を開けると、深いキスをされた。


頭がボーっとして、唇が離れる時に聞こえた水音が、近いのに遠く感じる。


「んっ、ぁ⋯、に、じょうさ⋯」

「理人君、嫌だったら言って」


首筋を濡れた感触が走り、鎖骨に歯を立てられる。

ピリッとした微かな痛みが、感覚を鋭くしていくみたいだった。


耳許で切羽詰まったような声で何度も名前を呼ばれ、荒い呼吸が聞こえる。それが、なぜかひどく安心してしまった。


この人が、こんなにも激しい情欲を内に隠していたなんて。


今は受け止めるだけで精一杯のそれを、いつか同じだけ返せたらいいなと思いながら、俺はしがみついた腕にぎゅっと力を込めた。


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