6.デート
『デート、してみない?』
そう言われた翌週、俺は家まで迎えに来てくれた二条さんの車に乗って、お台場に来ていた。
自慢じゃないが、俺は女の子とデートをしたことがない。
そんな俺は、カップルが多いお台場で、ついつい周りのカップルの様子を伺ってしまう。
え、手とか繋いだりするの? まさかね。
「理人君、どこか行きたいところある? 特になかったら向こうでショッピングでもいい?」
「あ、はい」
この辺りは景色がいいところもあるし、天気が良ければ外を歩くだけで楽しそうだけど、あいにく今日はどんよりと曇っていて、気温も低くて散歩には向かない天気だった。
どこかぎこちない感じになってしまう俺とは違い、二条さんはいつも通りでスマートだ。店で服を選ぶ時も、レストランに入る時も。やっぱり、オタクだということを差し引いても普通にモテそうなのに、なんで俺なんだろうと思ってしまう。
「理人君、今日静かだね」
「えっ、そう、ですか⋯?」
「うん。⋯デートって言ったから、緊張してる?」
「っ⋯、」
耳許で囁かれて心臓が跳ねる。軽く睨むと二条さんはくすくすと笑った。
「いつも通りでいいのに」
「そう、言われても⋯」
「そう言えば昨日、先月買ったCDやっと聞けてさ」
「え?」
突然の話題転換について行けない俺は、何の話だ?と二条さんの顔を見つめる。
「WEBラジオのCD、先月出たでしょ」
「あ、はい。ありましたね」
俺は買ってないんだけど。CDはたくさん出るから、お金のこともあって全部は買えない。中古が出るのを待ったり、財布と相談しながら取捨選択だ。
WEBラジオは配信してる時に何度も聞いたから、CDを買ってはいなかった。
「あれ面白いよね。珍しい組み合わせのメンバー同士の話とか聞けて」
「ですよね!」
WEBラジオは、キャストさん本人ではなくキャラクターの、アイドルたちのトークが聞ける。
「理人君の推しの2人組、なんかカップルみたいだったし」
「そうなんですよ。裏話とか、失敗談とか話してる時も、くすくす笑いながら『しょうがない人ですね』とか言って。お前ら付き合ってるだろ、みたいな」
俺が熱く語り始めると、二条さんはうんうんと頷きながら小さく笑う。
やば、ついいつもの調子で語っちゃった。
「すみません、ちょっと興奮しちゃって」
「全然いいよ。元気になったみたいで良かった」
「別に、元気じゃなかったわけじゃ⋯」
ああでも、やっぱりどこか落ち込んではいたかな。
食事が済むと、車で家まで送ってくれた。辺りはすっかり暗くなっている。
結局、ただ一緒に出かけただけでデートっぽいことは何もしていない気がする。いや、推し活抜きで一緒に出かけるのが大事なのかもしれないけど。
こういう、友達同士と変わらない感じで良かったのかな、と俺が思っていると、二条さんはシートベルトを外して僅かに距離を詰めてきた。
「理人君」
「な、なんですか?」
至近距離でじっと見つめられると、落ち着かない気持ちになってくる。
「ハグしてもいい?」
「えっ⋯」
二条さんの表情は、笑ってもいないし、かと言って怖い顔をしているわけでもなく、真剣な眼差し?というのか、こっちの出方を伺ってるみたいだった。
顔を見ていられなくて視線を外す。
断っても良かった。けど、別に嫌なわけじゃないし、友達同士でもそれくらいすることあるし。
気付けば俺は、小さく頷いていた。そっと背中に腕が回ってきて抱き寄せられる。
心臓の音が聞こえそう。吐息が二条さんの首元にかかりそうで、息をするのにも気を遣った。
多分ほんの1分くらいだったけど、すごく長く感じた1分後、そっと腕が離れていく。外はもう暗いから、誰にも見られていないはずだ。
「じゃあ、またね」
「⋯はい」
車を降りてアパートの自分の部屋へ向かった。ドアの前で振り返ると、二条さんの車が走り去るところだった。
なんか、まだ心臓がドキドキしてる気がする。
俺は1人の部屋で、僅かに火照った頰を隠すように両手を当てた。




