9.魔法の特訓
アルトにやってきて数日、その日暮らしの生活を続けた。
しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。
早く魔法を覚え、戦闘もできるようにならなければ、真の冒険者とは言えない。
そうなると、やはり冒険者に教わるしかないが……。
「忙しいんだ、また今度にしてくれ」
「やめとけ、まだ若いのに冒険者なんて」
誰も相手にしてくれない。
やはり、子供相手に本気になってくれる人もいないか。
「……早く魔法覚えたい」
宿のロビーで管を巻いていると。
「あら、あの時の子ね。どうしたの?」
振り返ると、あの時のパーティーの魔法使い、レインがいた。
「魔法を覚えたいんですけど、教えてくれる当てもなくて……」
「じゃあ、私が教えてあげようか?」
「ほ、本当ですか!?」
こうして、レイン直々の魔法特訓が始まった。
「まずは、魔力を感じるところから始めましょうか。体の中で、何かが流れているのがわかる?」
体の中に意識を集中させる。
すると、微かに何かが流れているのを感じた。
「そしたら、流れを手の先に集めてみて」
レインはそう言いながら、手本を見せる。
その手の先に、光り輝く球体が生じた。
俺も、手の先に意識を集中させ、流れを誘導する。
だが、なかなか集まってこない。
「もう少し力を抜いて、魔力が自然に流れるように」
目を閉じ、リラックスしつつ、流れを感じ取る。
「あら、できたじゃない」
レインの言葉に目を開く。
すると、確かに手のひらの上に小さな球が。
「これが魔法の準備段階ってところね。じゃあ、さっそく魔法を練習してみましょう。
まずは風魔法からにしましょうか。頭の中で、風の吹いている様子をイメージして」
頭の中に、青空の草原を描いてみる。
風だけをイメージするのは難しいからな。
すると、草原の草や草花がざわめき出す。
風が優しくほおを撫でた。
光球は、いつのまにか鮮やかな若葉色に変わっていた。
そして、そこから優しい風が生み出されている。
「ここまで飲み込みが早い人は初めて見たわよ。すごいじゃない」
「ほ、本当ですか? よっしゃ」
「でも、ここからが難しいのよ。この風魔法を発展させて、いろいろな魔法を作り出していくの。
……ここじゃあ問題があるし、城壁の外で練習しましょうか」
城壁の外には、先ほど思い描いたような、雄大な草原が広がっている。
先ほどの状態まで進めるのに、さほど時間はかからなかった。
すぐに、手のひらの上に若葉色の球体が生じる。
「じゃあ、もっと魔力を込めて、強い風を作り出しましょう」
手の先に魔力が流れるイメージを作る。
そしてその流れは次第に大きくなり、手の先に集まり続ける。
「っ、けっこうきついな……」
「じゃあ、その風魔法を打ち出してみて。力を込めれば、勝手に飛んでいくわよ」
「はっ!」
手の先に一瞬力を込めると、球体がほどけ始める。
そして、球体が小さくなるにつれて、あたりには風が巻き起こる。
やがて、球体は消滅した。
「これが魔法の第一歩ね。イメージをいろいろアレンジすれば、たくさんの魔法が使えるようになるわよ。
……風刃!」
レインは、手を前に突き出したかと思うと、やにわに魔法を唱える。
球体が生じたかと思うと、すぐさまそれは鋭く尖った風となり、前方へ猛進していった。
そして、たまたまその進行方向にいたスライムが、一刀両断される。
「……こんな感じよ。
他の属性の魔法も、原理は同じ。肝心なのは、想像することね。毎日練習を続ければ、いつのまにかできるようになっているわよ」
そう言い残し、レインは町へと戻っていった。
……もう少しやってみるか。
まずは、あの魔法を出してみたい。
手を掲げ、自らの望むものを思い描く。
そよ風などではなく、ものを引き裂くような強く残酷な風、空気の刃物。
「敵を殺せ…… 風刃!」
瞬間、手のひらから、鋭い何かが飛び出す。
「……できちゃったよ」
かつてスライムだったものを前に、俺はひとり呟いた。
この日から、俺は雑用クエストの合間に、魔法を練習するようになった。
こんな俺に毎日付き合ってくれるレインには、頭が上がらない。
「弟子なんて初めてだから、ついつい気合が入っちゃうのよ」
ある日、レインはそう言って笑った。
さて、魔法にはいろいろ決まった形があるようで。
風刃とやらも、その一つだ。
いろいろな魔法を見せてもらい、その都度実践してみる。
俺と相性のいい属性、悪い属性もわかってきた。
魔法には、炎、水、木、風、鋼、土、光、闇の8属性がある。
その中でも、炎魔法と風魔法は、かなり手に馴染んだ。
毒や精神攻撃などを司る闇属性も、相性がいいらしい。
いっぽう、水や土の魔法は、イメージから魔法に繋げるのが苦手だ。
光魔法に至っては、イメージすらできない。
まあ、これが普通だそう。
2か3、多くても半分くらいの属性しか、操ることはできない。
全属性を操る者など、伝説級の存在だそうだ。
変に気にすることでもない。
俺とは別に、いろいろな人がいろいろな人に魔法を教えてもらっている。
魔術師でない人たちも、それぞれ技術を教わっているらしい。
うちのクラスの戦闘能力も、だいぶ上がってきた。
まずは仲間内で模擬戦を行い、上達したところで討伐クエストに挑むのが、一般的な冒険者の辿る道だ。
俺たちも、さっそく模擬戦をすることにした。
「よし、両者見合って見合ってー、はっけよーい──」
「ちひろ、それ相撲だから! これ魔法だから!」
「ちーちゃんはいつも通りだねー」
土岐枝千尋にツッコミを入れる湯梨浜さくらと、それを微笑ましげに眺める千曲由梨。
お馴染みの3人組といった奴らだ。
……早く試合したいんですけど。
「えっへん。では、始め!」
真面目になった土岐枝の号令と共に、俺は目の前の相手を見据える。
井川翔。
町でも有力な冒険者に魔術を教わったらしく、このクラスでも抜きん出た才覚を表している。
「風よ、全てを吹き飛ばせ! 旋風!」
井川は、小さなつむじ風を生じさせる。
その手の動きと共に、その旋風はこちらへ近づいてくる。
ただのつむじ風と侮るべからず。
巻き込まれれば、たちまちバランス感覚を失い、目を回すことになる。
前回の模擬戦では、城戸がぐるぐる回って地面に激突していた。
「……」
「おいどうした神埼? 早く魔法を出せよ」
こちらが逃げ回るばかりなので、井川は挑発を始める。
俺の後ろを、風が尾けて回る。
やがて、俺は井川の周りを一周する。
「……点火」
瞬間、風に火がついた。
「な、何だ!?」
俺を追い回すことばかりに気を取られ、自分が囲まれていたことに気づかなかった井川。
たちまち、自分の生み出した風に焼かれる。
「くそっ、解除! ……あれっ!?」
井川は苦し紛れに魔法を解こうとするが、それは叶わない。
この風を操っているのは、もはや井川ではない。
俺だ。
「はいそこまでー。まさか翔くんを倒すとはねえ」
土岐枝の合図に、俺は魔法を解除する。
「たまたまだ。井川の出す魔法によっては負けてた」
井川とは以前からプライベートの模擬戦をしていたが、勝てたのはこれが初めてだ。
「それにしてもすごいよ。わたしの精霊術とどっちが強いんだろうね?」
湯梨浜は、精霊術師とかいう珍しい職業についているらしい。
精霊術とは、魔術とはまた違ったアプローチで行われる術。
何でも、世界中にいる精霊と契約し、その力を借りる術なのだとか。
魔素、すなわち空気中に漂っている魔力が一切なくても使えるのが強みなのだそう。
とまあ、皆それぞれ、自分の力を強化しつつある。
こうして、俺も強さを見出すことができたのかもしれない。




