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1年C組異世界冒険譚  作者: 神埼時雨(仮)
第5章 王都
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72.救出劇

「待って、結界が張ってある」

 土岐枝が手を横に伸ばし、後に続くものを牽制する。

 足音を殺して屋敷へと侵入しようとしていた4つの影は、彼らの体が痺れるわずか数ミリ前で止まった。

「どれどれ……本当だ、しかもすごく強力なやつだね。複雑すぎて仕組みがわからないよ」

 日比野は目を凝らすと、数秒の後首を横に振った。

「大丈夫だよ、みつき。そこは私たちに任せてよ」

 盗賊職の腕の見せどころとばかりに、土岐枝と三城の2人が前に進み出る。


 やがて、ガラスの砕け散るような鋭い音とともに、結界は破られた。

「行こう。早くしないと、結界が壊されたのに気づかれるかもしれない」

 4つの影は、先頭を争うかのように勢いよく歩を進める。




 屋敷の扉を開けて中に入った瞬間、三城茉里は言葉で表しようのない不快感に襲われた。

 過剰なまでに磨き上げられた柱、砂土の1粒すら拒絶する純白の床、調和をもって空間を彩る美術品の数々。

 そのどれもが、美しい見た目とは裏腹の、底知れぬ不気味さを演出していた。

「なんか不気味だぜ。自然な感じがまるでねえ」

 井川の発言に、三城は深く同意した。


 4つの影は廊下を進み、大きな食堂へと入った。

 そこにあったものも、同じく厳格な美しさによってまとまりを持っていた。

 しかし、この部屋にはいくつもの綻びがある。

 仮材として板で塞がれた大窓、剣に斬りつけられた跡の生々しく残る椅子や机の脚。

 それらの痕跡を見るたび三城の心は、冷たい剛腕に握りつぶされたように痛んだ。


「隠し扉とかねーか? とっ捕まえたなら、分かりづらい奥の方に閉じこめるはずだ」

 井川はそう言いながら、壁に手を触れる。

 その手をあちらこちらへと滑らせるが、変化はなかった。


 その時、三城の耳は微かな音をとらえた。

 徐々に徐々にと近づいてくる、周期的な軋みの音。

 足音を。


「だ、誰かきた!」

 三城は声を上げると、仲間に伝える。

「どうすんだよ、隠れ場所なんてねえぞ!?」

 広い食堂には、身を隠せるような空間はなかった。

「戦いは避けられそうにないね。先制攻撃して少しでも有利に戦おう」

 日比野の提案に皆は同意し、扉の周りに散った。


 足音はさらに大きくなる。

「まったく、閣下も心配性だな。結界が張ってあるというのに見回りなんて」

「するに越したことはないさ。それに今はあのガキを閉じ込めてんだろ? お仲間にでも侵入されたら大事だ」

 腰には剣を、手には燭台を持った2人の男。

 警戒の様子もなく、食堂へと進入する。


「ライトショック!」

 井川は杖を向けると、魔術を唱える。

 が、その杖の先端からは何も出てこない。

「誰の声だ。お前は何者だ!」

「曲者め、出会え出会え!」


 井川は動揺に目を見開くが、我に返ると杖を振りかぶり、男の1人を目掛けて殴りつけた。

 男は倒れ、呻き声を上げる。

「貴様、何をして──」

 返す刀でもう1人。


「井川くん、何が起こったの?」

「分からねえよ、魔法が使えねえんだ!」

 井川の叫びにも近い訴えに、土岐枝が辺りを素早く見渡す。

 やがて、何かに気づき息を呑む。

「ま、魔力を妨害する結界、しかもとびきり強いのが張ってあるよ……こんなところで戦ったら、魔術師(ウィザード)に勝ち目なんてない」


 土岐枝の発言が何を意味するかに気づき、三城は吐き気すらおぼえた。

 つい数日前、この食堂で何が起こったかを悟った。

 卑怯なほどに不利な環境で戦いに持ち込まれたのだ。


 大きな足音を耳にし、三城は我に返る。

 さらなる人数が駆けつけてきた。

「侵入者め、直ちに投降しろ!」

「もはや逃げ道はないと思え!」

 我先にと食堂に押し入る騎士を、井川は一人ずつ対処していく。

 だが真剣を持つ騎士に対し、井川は魔法の杖。

 不利は明らかだった。



 騎士たちは剣を振りながら会話を交わす。

「どうして侵入なんて起こったんだ、結界が張られているはずだろう!」

「スミスはどうした! この状況はどうなっている!」

 それを聞き、日比野の脳裏に妙案がひらめいた。

 自身の能力を活用し、食堂へと流れ込んでくる騎士を一人一人観察する。


「あの銀髪の人が結界を張ってる、あの人を倒したら結界が消えるかも!」

 日比野は声を張り上げる。

 それを聞き、三城はその人物を探し当てた。

 怒りにも憎悪にも近い感情が湧き上がる。


 銀髪の騎士は、結界を検めるかのように目を細め、窓際へと向かう。

「外の結界が壊れている……」

 そう言葉を漏らす銀髪の騎士の背後に、人影が音も気配なく近づいた。



「しーちゃんのかたきぃーーーっ!!」


 三城は、振りかぶった手を勢いよく振り下ろす。

 短剣が月明かりに煌めいた。



「……あっ、魔法が使えるぞ!」

 騎士に囲まれていた井川は、それに気づき覇気を取り戻した。

「ならこっちのもんだぜ、風刃(ウィンドブレード)!」

 騎士たちは突然に繰り出された魔術を正面から受け、大きく後ずさる。

「な、魔術までだと! 奴はどこへ行った、結界はどうした!」

「お、おい……あれがスミスじゃないか!?」

「どうしたスミス! 返事をしろ!」

 騎士たちの目線の先には、背中に深々と短剣が刺さり、窓と相対するかのように座りこむスミスがあった。




 魔法の閃光、衝撃そして轟音を気にかけることもなく、三城茉里は長大な廊下を疾走する。

 ただ一つの目的地に向かって。

 騎士はあらかた出動したようで、鉢合わせすることはなかった。


 他の美しく磨き上げられた扉と違う異様な雰囲気を感じ、三城はその扉を開ける。

 果たして、その奥には薄暗く湿った石造りの道があった。


 一心不乱に進み続けると、鉄格子が見える。

 格子の隙間から、中を覗く。


「……誰、だ……?」


 髑髏のように昏く生気のない目をした人物。


「し、しーちゃん……?」


 そのあまりにも衰弱した姿を見て、三城はその場に崩れ落ちた。

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